それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
漸く目的地手前の街に着いたか、キャロル・エストレーヤの心は今それだけに染まっていた。テレポート事故で別の地区に飛んでしまい、だが幸運にも武器庫と呼ばれるPMCの一員であるジャベリンという男性の手引きにより無事S10地区に行けた彼女はそこから歩き続けて
「しかし、かなり活気を感じるな」
ここはS09地区の中でも最近ではグリフィンの庇護いるのこれと言われることもしばしばな例の街、一応だが【ガーデン】という名前はあるのだがあまり誰も気にしていない。
ガーデンはP基地からはそれなりに近く、良くユノ達が行く雑貨屋もこの街にある、まぁそんなことをキャロルが知ってるわけもなく、今日は此処で一夜を明かしていい加減、基地に向かうかというプランとなっている。
「……」
が、それを考えた所で彼女の顔から余裕が消えた、基地に向かうのがやはり嫌になったのかと言う訳ではない、寧ろ妹たちのこともお願いというアルアジフの言葉があるので行かねばならないという使命感まである。
ならどうしてか、それは
(どんな感じに行けばいい?よもや気楽な感じにとは行くまい、だが変に警戒させるのも悪いよな……)
ここに来て彼女は自分が今でも向こうから見ればあの襲撃の主犯であることは変わらないということに気付き、接触するにしてもどうすればよいのかという壁にぶち当たった。
急に湧いて出たその壁にどう立ち向かったものかと噴水広場の適当なベンチに座り思考を巡らす、そもそもにして自分は今はグリフィンからお尋ね者の可能性だってあることも気付けば更に思考の沼へと沈んでいく。
見てくれ少女がその外見とファンシーなフリフリな服装に似合わないくらいに真剣な表情で唸っている姿に、周りの大人は何かあったのかと不安そうに見つめるものもチラホラと現れ始める、そんな彼女のもとに現れたのは
「おや、ユノちゃん……じゃないね、どうしたんだいお嬢さん」
突如声を掛けられ、顔を上げればそこに居たのは穏やかな笑みを浮かべた老婆、だがキャロルとしては驚くことになる、今こうして目の前にいるというのに気配を感じ取れなかったからだ、いや、もっと言えば
「(足音、聴こえたか?)いや、少々悩み事だ……」
「悩み事ね、良ければ私が聞いてあげるよ、隣、良いかい?」
誰かに話せるような内容ではないのだがと思いながらもどうぞと言えば、ヨイショとキャロルの隣に座る老婆、だがその動きだけとっても無駄がない、この人本当に老人かと思ってしまうが必要以上に考えることはないだろうと思考を切った所で
「で、何を悩んでたんだい、可愛らしい服まで来てる娘が大人顔負けの表情で悩んでるってなると相当なことだろう」
「……そうだな」
一言そう返してから財布を取り出して開いてみれば、心許ないとか言うのを通り越した中身、確かにスユーフ達がブラックマーケットで不適合の人形を流しその蓄えが沢山あったのだが流石にこの放浪の旅の最中で出費がひたすらに重なれば無限ではないので底を突くというもの。
なのではっきりと言えば
「宿代すら無くてな、どこで野宿にしたものかと悩んでいたところだ」
「あらあら、女の子が一人野宿は流石に気が引けるね、どうかしら私のお店の手伝いと引き換えだけど一晩過ごしていかない?」
ニコリとまた穏やかなその笑みで提案してきた老婆にキャロルは少し考える、別に野宿でも良かったのだが提案されて断るのも悪い気がしたし、何と言うか自分ではさっきの疑問に終止符を打てる気がしなかった彼女は
「では、頼めるか?っと、世話になるのならば名を名乗らないとな、キャロル・エストレーヤだ」
「【フィオリーナ】だよ、【フィオ】と呼んで頂戴、まぁ大概の者は私を【婆さん】とか【お婆ちゃん】とか【店主】としか呼ばないけどね」
それじゃ、早速お店に案内しようかねと歩き出した老婆【フィオリーナ】の後をキャロルは着いていく、その時は気づかなかったのだが彼女がエストレーヤと名乗ったとき、老婆の眉がほんの僅かに跳ねていた、まるでもう聞くことはなかった名を聞いたとばかりに。
因みにだがこの老婆はユノ達がよくお世話になっている雑貨屋の店主であり、店に着いたキャロルは早速、制服に着替えさせられて今はパタパタとハタキで商品の埃などを払っていた。
「いや、悪いわね」
「それは構わないが、一人で経営とは大変ではないか?」
「趣味みたいなもんだからそこまで苦ではないよ、それよりもキャロルちゃんはどうしてまた一人で旅なんてしてるんだい?」
ある種、お決まりの質問にキャロルは特に隠さずに答えていく、姉に言われた命題を、託された願いを、そして
「世界を識れ、俺にはまだ答えがわからないがな」
「随分と大きなことを託された、と言うべきなのかね」
「さぁな、存外そこまで大げさなものではなかったのかもしれない。これはまぁいずれ風になった時にでも答え合わせをするさ」
詩人みたいなこと言うね、フィオリーナは微笑みながら換装を述べればキャロルは恥ずかしがる様子もなく、ハタキ掃除を継続していく、暫しその音とフィオリーナが本を捲る音だけが場を支配し、数十分後、漸くくと言うべきか
「それで、さっきはベンチに座って何を悩んでいたんだい?」
「先程答えたつもりだが?」
「老人を馬鹿にするんじゃないよ、あれはおまけみたいな疑問さ、本命はまだ他にあるだろ?」
喰えない人だなと苦笑いを浮かべつつ、適当な椅子に断りを入れてから座り、言葉をどう選んだものかと悩みながら、ゆっくりと紡ぎ出していくことに
「……妹、そうだな、妹に会いに行くつもりなのだがケンカ別れみたいな感じが最後で、今更どんな顔して会いに行けば良いのだろうかと悩んでいた」
「喧嘩別れね、ならまずは謝るべきじゃないかしら」
「謝って済むような喧嘩ならばな、少なくともそれで済むような喧嘩ではなかったさ、俺はあいつの大事なものを壊し、傷つけた、許してくれるものか」
アーキテクトは確かに生きていた、だが彼女の家とも言える基地を、家族とも言える仲間たちを傷つけたのは変わりない、それにあの襲撃では風の噂だが他の基地にも被害が出てしまっていると聞く。
ならば、許さる道理などもはやないだろう、だが姉との約束も反故は出来ない、という事で先程の悩みとなっている。
「色々と複雑なようだね」
「あぁ、どうしたものか……」
また悩み始めようとしたキャロルだったが外から誰かがこちらに向かってくる気配を感じ取り慌てて椅子から立って接客の準備を整え、扉が開きカランカランとベルが鳴ったと同時に
「いらっしゃいま……」
「キャ、キャロルちゃん?」
「ユ、ユノすぐに下がってくださいまし!?」
「はいはい、大丈夫よお二人さん」
キャロルが振り返れば老婆、フィオリーナは笑っていた、まるでこうなることが分かってたかのように。
次回 対話と増える居候、乞うご期待!!
因みにですが店主の名前はメタルスラッグの登場人物からです。