それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
妙な緊張感が漂う雑貨屋の奥にあるリビングルーム、一つのテーブルを挟み気まずそうな表情と空気を醸し出している三名がそこに居た。
言わずもがな、ユノとクリミナとキャロルである、あのアクシデントに近い対面を迎えた三人だったが即座に店主のフィオリーナに場を宥められ今はこうしてテーブルを囲んでいる。
「……」
「……」
「……」
三者三様に表情を見せている、ユノはどう声を掛けたものかと悩み、クリミナは警戒を解かずキャロルに睨みを効かせ、キャロルはそれを受けながらこちらもどうしたものかと頭を悩ます、まるで世界の命運でも決まるのかと言うほどの緊張感に誰もが声を出せずに居た……ただ一人を除いてはだが
その一人はこちらも言わずとも分かるだろう、フィオリーナである、彼女は全員をリビングに通してから台所へと消えたのだが次に現れた時にはお盆に湯呑と和菓子、このご時世でどこから仕入れたんだという疑問が膨れ上がりそうになるがそもそもにしてこの雑貨屋が謎多き場所なので今更である。
「はいよ、あ~、そっちのお嬢ちゃんにはコーヒーの方が良かったかしら?」
「あ、いえお気遣いなく……」
「呵々、さっきも言ったけど大丈夫だよ、キャロルちゃんはなにかしようって気は全く無い、それだけは断言してあげるよ」
未だ警戒しているクリミナに気付いていた彼女は普段と同じような笑みを浮かべながら彼女に伝える、それに対してクリミナもそこは理解できていた、でなければ今頃こうして対面しているということも、何よりも人間である彼女の世話になろうということもしないはずだからと。
因みにだがキャロルがなぜ此処にという事は既に話されている、寧ろ話されたからこそユノもクリミナもこうして対話をしようと席に着いている、が
(き、切っ掛けが見当たらない……)
「すまなかった」
突如告げられた謝罪の言葉に驚きながらキャロルを見る二人、そこに居たのはバツの悪そうな彼女の姿、向こうも向こうで切っ掛けを探していたのだがそこで思い出したのは少し前のフィオリーナとの会話、ならばまず謝るべき、無論言葉だけの謝罪で許されるようなことではないと理解している。
だがするとしないでは大違いだ、なので彼女はまず頭を下げた、それから続けた、いくらメインフレームからの思考介入をされてたとは言え自分はお前たちの大事なものを、家族を傷つけてしまって本当に済まない、放浪の旅に出る前の彼女だったら決して出てこなかった言葉を告げてから再度頭を下げる。
それを見せられてしまえば、クリミナも警戒を解かざるを得ず、ユノはお茶を一口飲んでから
「キャロルちゃん、顔を上げて」
穏やかな声にキャロルが言われた通りに上げてみれば声と同じくらいに穏やかな笑みを浮かべたユノの姿、どことなく別れ際に見たアルアジフと本当に似た表情に息をするのも一瞬だけ忘れた。
「確かにあの襲撃は大変だった、今でもちょっと大変だけど……でも、それは決してキャロルちゃんだけが悪いってことじゃないからさ、正直怒ってないんだよね」
「何?いや、だがあれは……」
「実はあの後、イントゥルーダーからボイスレコーダーとデータが送られてきてね、その内容がその時の襲撃全てがメインフレームのエルダーブレインによって仕組まれていたこと、キャロルちゃん達に本来はその意志がなかったこと、っていうのを証明する物が揃ってたんだ、あと、もしかしたらP基地に来るかもしれないからその時はよろしくお願いってことも」
初めて知ったそれにキャロルは目を見開き、それからなぜアルアジフが妹達をお願いと追われる身である自分に告げたのか、これからどう考えても過酷な旅になるはずの自分をスユーフ達は穏やかな笑みのまま逝けたのかと。
知ってたのだ、イントゥルーダーが全てを根回ししていたことを、知らなかったのは
「俺だけが知らなかったのか……」
「皆様に、大切にされていたのですね」
「そのようだ、大馬鹿者共が」
涙が自然と流れ、強がりのその言葉も震えたものになっていた。自分が放浪の旅に出ることも、そして、こうして妹たちのところに向かうこともあのイントゥルーダー、いや、もしかしたら母親である【レイラ】の意志だったかもしれないが、兎も角彼女は考え、手を回し、結果今こうして助けられていた、しかしそのデータとボイスレコーダーがあると言っても
「鉄血の言い分だ、到底信頼されるものではあるまい」
「まぁ、一応でペルシカさんとヘリアンさんにも見てもらったけど全面的に、は難しいって」
「でしょうね、やれやれ、こういう時は組織っての固くて嫌になるよ」
あっと、声を漏らしたのは誰だろうか、物凄く当たり前に自分達はキャロルちゃんがエルダーブレインのダミーだったこととか、かなり機密事項をフィオリーナが底に居るというのにべらべらと話してしまってたと、三人のその反応に呵々と何度目か分からない笑いを放ってから
「さて、私は何も聞いてないから何の話やら……で、今日はどうするんだい?」
「そう、だな。まさか此処まで綺麗に根回しをされていたとは思ってもなかったし、ついでに言えば今日こうして対話することすら予想してなかったからな」
別段、今すぐP基地に転がり込もうと思えば出来るらしい、これに関してはヘリアンもペルシカも彼女はP基地に置いておくほうが色々と安全であると言うことを本社とクルーガーに説いたらしい、無論反発はあったが未だユノ達には伏せられているP基地の本来の役割を考えれば向こうも渋々が一部入るが了承、なので彼女がP基地に向かうのは問題ない。
だが今日はお世話になるつもりだったというのもキャロルにはあった、なので悩みに悩んで……
「すまない、今日は店主の手伝いがあるからな、明日向かおうと思う」
「あら、気にしなくてもいいのに、でもありがたいわね」
約束は反故するのは趣味ではないからなとキャロルは答えてからユノとクリミナにそういう訳だと告げれば、向こうも彼女の義理堅い性格にクリミナが確かに姉妹ですわねと笑い、ユノは明日の予定を頭の中で立ててから
「そっか、じゃあ明日今日ぐらいの時間に迎えに来るよ、おばあちゃんの方が良いかな」
「そうですわね、と言うよりも色々と揉めそうですわね」
クリミナの言葉にキャロルもだろうなと頷き、その日は解散、ユノは基地に戻ってからキャロルちゃんがねとナガン、アーキテクト、ノア等の基地の面々に話したのだが
「何でオメェは襲ってきた相手と呑気に茶しばいて、しかも迎えようって気になるんだ?」
「ユノっちってこう、やっぱり肝が据わッてるというべきか、なんと言うか、凄い時あるよね」
「まぁ、許可は降りている事じゃ、それに言えばアヤツの技術力は基地としても助かることじゃろうて」
そして翌日、キャロル・エストレーヤは遂にP基地に足を踏み入れた、様々な波紋やら警戒やらを一身に受けながらも彼女は怯まずに執務室、ではなくカフェへと案内されそこで各々と自己紹介をし……
「何いってんだオメェ、アタシのほうが姉に決まってんだろ」
「貴様のほうが何を言ってる、俺は姉上から妹たちを頼むと言われたのだ、ならば次女は必然と俺だろう」
「いや、待って?二人のお姉ちゃんは私でしょ?」
第二次誰が姉だ大戦が勃発するのであった。
ちょっと色々強引だけどこれにてキャロルちゃんP基地に合流である、まぁこれからも色々と波紋は起きそうだけど……