それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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(イブ)サンレンダァ!!!


一生を変えるその日に

クリスマスイブ当日、スプリングフィールドは自室の鏡を前に気合十分だという顔つきで化粧の最終確認を行い、不備が無さそうだと思えば一つ頷く、だが服装はコレで良いのだろうかと彼女は思う。

 

前回誘われた時は向こうでドレスに着替えたのだが今回もそれではないのかと、だが今回はヴァニラが言うには

 

『大丈夫大丈夫、何だったらいつもの服でもいいのよ?』

 

という感じのお店らしい、だが流石に人形として戦場で出ている普段の服装では流石にどうかということで今回彼女がチョイスしたのはクリスマスを意識してか赤いコートに白のセーター、ミニ・スカート、黒のタイツにロングブーツと言う冬の女性と言う感じの服装、足元が少し寒そうな印象を与えてしまいそうだが、まぁそこはそこである。

 

「よし、コレで準備は万端ですね」

 

何度か前髪などを整えてから呟く、今日は彼女と恋仲になってから初めてのクリスマス・イブ、自然と気合が入ってしまうというものではあるのだがそれが空回りしないようにと気を付けないとと自身に言い聞かせ……扉がノックされた刹那

 

「ひゃい!?」

 

「あっと、ごめん驚かせちゃった?準備終わったかなって思ったんだけど」

 

「だだ、大丈夫です!い、いま出ますねっとと!?」

 

ドゴン、と言う扉に何かが打つかる音がヴァニラの耳に届いた、少しの沈黙の後、ゆっくりと扉が開かれたのだが現れたのは額を擦るスプリングフィールドの姿、どうやら早速気合が空回りを引き起こしたらしい。

 

何とも彼女らしいその姿に思わず口元を抑えて笑うヴァニラにスプリングフィールドはむぅと頬を膨らませてから

 

「もう、笑うこと無いじゃないですか」

 

「ごめんごめん、大丈夫かしら?」

 

「え、えぇ、幸いちょっと派手にぶつけただけですから」

 

それは大丈夫なのだろうかと思ってしまうがそこは人形という彼女、見れば額も赤いというわけでもないので彼女からすればただぶつけただけという認識だろう。

 

寧ろスプリングフィールドからすればこれからデートだと言うのに初めの一歩目で転けてしまったことに幸先が悪いと感じてしまっている、なのでそれを取り戻すべく、意識をすぐに切り替えてから……

 

「ん?どうしたのさ、人のことジロジロ見て」

 

そこに居たのはいつかの男装、と言う訳ではないがそれでも中性的な服装のヴァニラ、無論よく見なくても今回は女性だということはすぐに分かるのだが、逆にそれが女性らしいカッコよさを表現しており、思わず彼女は見惚れてしまった。

 

対して呆けた顔で自分を見つめるスプリングフィールドにヴァニラは若干気恥ずかしそうにしながら、手を差し出して

 

「さ、時間はあるようでないのよ、お出かけしましょ、お嬢様?」

 

「あ、は、はい、エスコートお願いしますよ、王子様?」

 

「……これ、そんなに男性に見える?」

 

「そうですね、私は貴女の男装も知ってますから余計に見えるって感じですかね?」

 

なるほどねと納得しつつヴァニラの運転する車で街まで走らせる、【ガーデン】ではなく本社の傘下にある街、そこに今回ヴァニラが用意した店は存在しており、そこはなんてこと無い場末のBARと言った感じのお店。

 

だが出されるお酒はさすが本社が近いだけ遭ってか質の良いものであり、シックな感じでありながらスプリングフィールドは思ったのは前のホワイトデーのときのような堅苦しい感じはあまり無くて、非常に飲みやすい雰囲気のそのBARにて二人は席に付いてから注文をし

 

「どう、結構いい雰囲気の店でしょ?」

 

「はい、堅苦しさも感じませんし、でもなんだか落ち着けて、よく見つけましたね?」

 

「此処のマスターさんとちょっと知り合いでね」

 

はぁとそのマスターに視線を移すスプリングフィールド、そこに居たのは黒髪のツインテールの女性、シェイカーを振るその姿は自分よりも熟練だと言うのが分かる。少しすればヴァニラが注文した【シュガーラッシュ】と呼ばれるスプリングフィールドも知らないカクテルが運ばれ、二人はグラスを持ち

 

「じゃ、メリークリスマス」

 

「メリークリスマス、あ、美味しい」

 

静かな、大人のクリスマス・イブが始まる、小粋なBGMにマスターのシェイカーの振る音、時たま来るお客とマスターの会話も不思議と嫌ではなく、聞いてるだけでも楽しくなるものなのも不思議だなぁとスプリングフィールドは思いながらヴァニラとの会話を楽しむ。

 

今日までのこと、思えばあまり聞けてなかったヴァニラのこと、自分のこと、これからのこと、何気ない雑談、基地に居ても出来るはずのその会話を、だけど基地の中ではなくこういった所でするから自然と話しが盛り上がるそれを

 

 

「え、じゃあ、ヴァニラさんって絵が得意なのですか?」

 

「まぁそうね、それなりに書いてるから自信はあるわよ、と言ってもこの場ですぐには難しいけど」

 

アナログじゃなくてデジタルなのよね~とシュガーラッシュを飲むヴァニラ、因みにだが何を描いているのかというのは上手い具合に回避している、大人しくなったにはなった彼女だが未だに趣味の百合本は相変わらず描いているのだから。

 

また暫く会話を楽しむ二人、良い感じに雰囲気が出てきた所でふとヴァニラが【ピアノウーマン】が入ったグラスを置いて

 

「ところでさ、クリスマスプレゼント、用意したのよね」

 

「え?……え!?」

 

「と言っても物じゃないんだけどさ、その、ほら、私って貴女のことはスプリングって呼んでるじゃない?でもそうじゃなくて、きちんと名前で読んであげたいなって思ったのよ」

 

あのユノ達とのお茶会で出た話題、あれから彼女は考え続けていた、そもそも自分からそうやって付けるものなのかとすら思ったのだがクリスマス・イブを思い出してならばいっそ聞いてみるかと思ったのだ。

 

「名前……そう、ですね、実を言えばクリミナやクフェアが銃の名前ではなく、個人名で呼ばれてるのってちょっと憧れてたのですよ」

 

「そうだったの、ならもっと早く聞けばよかったわね」

 

そう言いながらヴァニラはネックレスを取り出す、そこには小さな花、その花の名前は【イベリス】その意味は

 

「ふふ、甘い誘惑なんて私しましたっけ?」

 

「してるじゃない、そもそも私に初恋の思い出を植え付けたのも貴女よ」

 

笑い合う二人、その後も暫し呑んでから基地に戻ったのだが、どうやらスプリングフィールド改め【イベリス】は名前を貰ったということで気を良くしてどうやら呑んだようでヴァニラがおんぶしながら彼女の自室へと運び、ベッドに横にした所で、イベリスに思いっきり引きずり込まれた

 

「ちょ、ちょっとイベリス!?」

 

「うへへ~、きょうは、きょうは一緒に寝ましょうよ~」

 

「いや、ほら私着替えてって寝てるし……はぁ、動けないわよねコレ」

 

翌日、イベリスが大混乱の叫びを繰り出したのは言うまでもないだろう。

 




これにはP基地のイブ編終わり!!今後は我が基地のスプリングフィールドさんは【イベリス】と名乗ることになりました。

明日はやっとクリスマス話なんやなって……

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