それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
過去に言われたからだろう、ゴミは溜められて無く、洗濯物も定期的に出すようになったお陰で溜まっても居らず、だが本人的には場所が分かるので問題がないという理屈で相変わらず整理されているように全く見えないごちゃごちゃした部屋。
その部屋主である彼女【PTRD】は上下黒のスウェット姿でゴロゴロしていた、まるで休日のOLである。だが悲しいかな、基本的に彼女の休日の生活スタイルはこんなんである、だが……
コンコン
「ん~?はいは~い、今出ま~す」
誰か遊びに来たのだろうか、そんなノリでPTRDは起き上がりノロノロと扉の方に向かってゆっくりと開けて、先程までのノロノロさ加減はどこへやらという速度で閉めようとするも来客と思われる方が先に扉を片手で抑えられて開けようと力を加え始める。
対してPTRDは必死な形相で扉を閉めようと抗う、とにかく抗う、何が何でもこの扉は開けさせないと言う信念すら感じる勢いで力を込めるも、ジリジリと扉は少しずつ開かれていき、最後にはバンッ!!と勢いよく開け放たれ、そこには
「……」
「(あわわわわわわ)なな、何かよう?」
言葉では普段どおりを気取るもそもそも上下黒のスウェットのボサボサ髪という時点で色々手遅れな彼女がそう声を掛けるのは埃や汚れから頭を守るための三角巾、同じく服をそれらから守るためのエプロン、人形といえど埃を吸えば咳き込んだりするのでとマスク、だが目は全く損なわれていない鋭さでガタガタ震えるPTRDの部屋を一瞥してから、彼女はただ一言、無慈悲に突きつけた
「掃除するから」
「待って!ゴミも無いし洗濯物も溜め込んでない!!!」
「ならこの惨状はなんだ、あぁ?」
確かにゴミは無い、洗濯物も無い、だが彼女、(家事と戦闘の)スペシャリスト【ネゲブ】には彼女の部屋の惨状は許せなかった、別段普段であればそこまでうるさくはしない、ならば急にどうしてとなるだろう、事実PTRDは何で!?何で!?と脳内大パニックを晒している。
では何故なのか、その理由をお話しよう、この(多分基地の家事においては右に出る者はいないレベルの)スペシャリストネゲブの血を此処まで騒がしている一大イベント、本日P基地は通常業務ながらも年の瀬が近いということもあり、そして年末になれば各家庭でもよく行われるであろう、その名も
「今日は【大掃除】よ、年越しくらいは綺麗な部屋で過ごさせてあげるわ」
あぁ、安心しなさい、貴女が居る側で要るか要らないかの相談はしながら掃除してあげるから。覇気の篭もった声にPTRDはただひたすらに頷くことしか出来なかった。
本日は晴天なり、洗濯物も、そして年に一度の基地中の大掃除も非常に捗るであろう、そしてそんな中で(本人も割と認めている)家事戦闘のスペシャリストネゲブと愉快な仲間たちのお話である。
実を言えば大掃除をするというのは一月くらい前からネゲブ直筆で掲示板には張り出されていたそれ、内容的には基地に存在する各施設のワックスがけから清掃、必要ならばスリーピース達による修繕もして新年を綺麗に迎えようという内容である。
「さぁさぁ、時間は無いわよ、今日入れて3日!しかも三日目は他の準備もあるから実質2日で徹底的に綺麗にしていくから!」
「き、気合十分ですねネゲブ」
「ですが彼女の気持ちも十分に理解できます、私もメイドとして久しぶりに血が騒いでおりますから」
えぇと思わず困惑の声を上げるのは宿舎の優しさの母とも言われている【M590】対して闘志を燃やしちゃってるのはネゲブは当然ながらG36もそうであり、二人のめったに見ないその様子に思わず怯えM590の側を離れないのは何時かのメイド服姿のシャフト、何か知らないけど盛り上がってるから私達も盛り上がるぞと掃除用具を各々手に持って
「今日は働いて働いてママとパパに褒められるぞ!」
「おー!!!」
「おー!」
「お、おー!」
「張り切りすぎて怪我はするなよ、と言うか何故俺は割烹着なんだ……?」
メインフレームに換装したお陰で色々と機能性も上がりに上がって本日の大掃除の手伝いに名乗り出たアニス達四姉妹、その様子を何故か割烹着姿で眺めているのはキャロルなのだが彼女としては突如巻き込まれたという感情しか無い、だがこの基地の役に立てるのならばと手伝いに入っている。
無論、彼女たち以外にも手伝う人形は沢山いる、この基地だからこそ出来る人海戦術とも言える大掃除であり彼女たちも早急にネゲブとM590、そしてG36の指示の下、各々の担当場所へと掃除道具を持って散っていったのが数十分前。
そして今は冒頭の通りネゲブは放っておくと汚部屋のまま新年を迎えてしまいそうな人形達の自室へと足を運び清掃しているのだ、今日だけでPTRDの他にはウィンチェスターだったりラボに入り浸りすぎて自室が疎かになりやすいアーキテクトや88式の部屋も本人同伴で掃除していたりする。
また別の場所、例えば救護室ではキャロルがWA2000と共に掃除しているのだが届かない場所をどうにかしようとピョンピョン跳ねながらハタキを使って掃除していれば遊びだと勘違いした子猫や子犬に
「ええい、引っ付くなじゃれつくな、俺は遊びに来たのではない掃除しに来たんだ!」
「何やってるのキャロルってあぁ、子犬や子猫か、ここじゃハタキは駄目だから、それ猫とか普通に絡んでくるからね」
「分かってはいるのだがどうしても上の方がな……って、割烹着の紐で遊ぶのはやめろ!」
「上は私がやるから、下の方お願いできる?」
心得たと答えるもその後も結局は動物たちにもみくちゃにされるキャロルであった。また場面を変えれば司令部とは別の建物ではM590とアニス達が
「いっちばーん!!」
「何が一番よクレア、少しフライングしたじゃん!」
「……ここは届かないね」
「うん」
「では、そこは私が拭きますから、あちらの棚をお願いできますか?」
四姉妹がそれぞれ雑巾がけや棚などの備品の清掃を行う、その姿は保母さんとその園児たちと言った光景であり偶々通りかかったFMG-9がそれを写真に収めた所、彼女への依頼に数度、良かったら孤児院で手伝いを頼めないかというのが来たとか来なかったとか。
そして最後には基地全体を回っているG36とシャフト、そして途中から合流したクフェアの三人が揃って働くのだがそれはそれでメイド長と新人メイドと何故か手伝いに入っている若奥様兼お嬢様という構図に見えたのかちょいちょいとそんな事を言われ
「良かったらシャフトちゃん、クフェア様をお嬢様と呼んでみては?」
「へ?えっと、お、お嬢様?」
「G36さん、結構、あれですよねお茶目ですよね」
そうでしょうかとクスクスと笑うG36、自分で言ったのになんだか恥ずかしくなってワタワタし始めるシャフト、その様子が微笑ましくて思わず笑みが溢れるクフェア……と彼女たちの遙か後方で廊下にぶっ倒れているウサ耳が居るがそこは触れないでおこう。
兎も角、P基地の大掃除は幕を開けた、が恐らくは明日には普通に終わるだろう、なんたってこの基地には
「……思うんだけど、スペシャリストって家事も本当にスペシャリストなのかしら?」
「いや、知らぬが」
(時々自分の今のあり方に疑問は思うけど)スペシャリスト、ネゲブが居るのだから。
スペシャリストネゲブ(最近慣れ始めてるし家事の楽しみが大きくなったけど偶に我に返って疑問に思う)
今年も、そろそろ終わるんやなって……