それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
年が変わった0時、あそこまで張り切った挨拶をしたユノも無事に年越しを迎えられ……
「ス~、んにゃ」
「今年も起きて迎えることは出来んかったなぁ」
「ユノは結構規則正しく眠くなりますからね」
見事に寝落ちをしてました、日付が変わる数十分前位から怪しいなぁとはナガンもクリミナも思ってはいたのだが10分前になった辺りでユノが船を漕ぎ、そして今、彼女は食堂に備え付けられたソファに横になって可愛らしい寝息を立てているのだが、そこに居るのは彼女だけではなく
「ク~」
「スゥ……スゥ……」
「ムニャ……ス~」
彼女に寄り添うように同じく寝息を立てるルピナス、ステアー、シャフトの姿もあり、今ヴァルター家で起きているのはクリミナだけとなっている、このまま毛布をかけて寝かせてあげても良いのだが流石の食堂といえど非常に冷えるこの季節、風邪を引けば大変だと考えたクリミナが彼女たちをそれぞれ部屋へと送ろうとユノをおんぶした所でニコニコ笑顔のFive-sevenが
「あら、食べるの?」
「去年も貴女同じこと聞いてませんでしたか?食べませんわ、ぐっすりに寝てるのですから」
「……なんか本当に成長しちゃってお姉さん退屈だわ」
と言いながら彼女はルピナス達に近寄り二人を器用に抱きかかえてから、あっと声を漏らす、どうにか3人目、シャフトを運ぼうとするのだが両手は塞がっており、どうにも出来ない、さてさてと思いながら周囲を見渡してから、目的と言うべきか丁度良かったなと彼女と割と仲が良いと言うべきか行動をともにすることが多い人形の一人であるFALに
「シャフトちゃんお願い出来るかしら?」
「はいはい、そもそもどうやって三人抱えるつもりだったのよ貴女」
「すみません二人共、それと57、娘たちに手を出したら容赦しませんから」
「流石にこの娘達に手を出そうとかは考えないわよ、出すとしたらそうね……キャロルちゃんかしら?」
ペロリと唇を舐めながら飛ばす視線の先には年越しそば(小)を平らげたのだが妙に疲れているキャロルの後ろ姿、一方彼女はどうして疲れているのかと思えば慣れない箸とそばを啜ると言うことに早く慣れようとした結果である。
なので彼女は漸く一息といった場面だったのだがFive-sevenのその視線を感じた刹那、ゾワッとした悪寒に襲われて思わず後ろを振り向けば、捕食者の目をしたうさぎの姿に旅をしていた頃に出会った色々と危ない『SG人形』を思い出して額に冷や汗が流れる。
「良いか、近づくな」
「一気に信用が底に落ちたんだけど」
「自業自得よ、ほら、この娘達部屋に運ぶんでしょ、行くわよ」
あぁん、FALが冷たぁいと態とらしく拗ねた感じに言うもFALは気にせずにシャフトを背負い部屋へと歩き出しクリミナも自室へと向かうのでFive-sevenは改めてナガンに振り向いてから
「じゃ、私もこの娘達運んだら一旦部屋に戻るわ、今年も宜しくね」
と一言告げてから二人の後を追うように食堂を出ていく、それを見送ってからナガンは一つ息を吐いてから近くに居たG36に聞こえるように
「やれやれ、アレでも頼りになる存在なのじゃがなぁ」
「寧ろ頼りになるから手に負えないとも言えるのですが……ってあら」
何かを発見したとばかりのG36の声に見てみれば寄り添うように別のソファで眠っているノアとクフェア、どうやら彼女たちも起きて新年は迎えられなかったらしい、と言うよりもクフェアはまだしもノアがああして無防備に部屋以外で寝ているというのがナガンは始めて見たことであり、それを見て
「これはまた、珍しいと言うべきか初めて見る光景じゃの」
「恐らくはクフェアさんが寝てしまい、動くに動けなくなってと言う感じでしょう、副官、私は彼女たちを部屋に寝かせてきますね」
「お主一人では二人は無理じゃろうて」
「じゃあ私がクフェアを運ぶわ」
すっと現れたのはネゲブ、突然現れて驚く二人をよそに彼女はクフェアを背負い、まだ驚いた視線を送ってくる二人に呆れ気味に
「何驚いてるか分からないけど、この娘には色々手伝ってもらって助かってるから、このくらいのお節介くらいは焼くわよ」
「ふふ、少し前の貴女だったらそんな言葉も行動もしないから驚いているのですけどね、兎も角助かります、では行ってまいります」
軽くお辞儀をしてからG36が歩き出し、ネゲブも同じ様にお辞儀をしてからクフェアを背負い直して歩き出し、ナガンはそれを見送ってから、さて今日はもう寝るかどうするかと考えていると、先程までFive-sevenを警戒していたキャロルが彼女の側に来て、隣に座り、ふむとなにか言葉を探すように思案して
「祖母上、一つ良いか?」
「わしで答えられることならば、茶飲むか?」
「頂こう、いや、『新年』と言うのはなにか特別なのか?と思ってな、結局は新たな今日が始まっただけではないかと」
キャロルの真剣な表情で出されたその質問にナガンはふむと考える、確かに言ってしまえばそうであることには変わりない、更に言えばキャロルは色々と察しがいいし人間らしく成長し始めているとは言えまだまだ自我が芽生えてから時間は短いのでその疑問にぶち当たるのも無理はないだろう。
どうにかして答えてやるべきだな、そう思うナガン、最近ではキャロルは何かと言えば自分によく話しかけてくるのでナガンも何だか可愛い孫がまた増えたという感じでもあるので若干ユノと同じくらいには甘くなってたりする。
まぁノアにもクフェアにもクリミナにもルピナス達にも妙に甘いので恐らくはこのナガンは全体的に孫と思った存在には甘いのかもしれないが
「そうさな、確かにお主の言う通り新年とは言っても結局は一日が始まっただけに過ぎぬ。だがな一年という長い月日を越え、無事に今日を迎えられた、その事に人間というものは感謝するのじゃよ」
「……この世界ではそれだけ生きるのも難しいからな、そう考えると新年というものを迎えられ祝うのも無理はないのか」
「まぁこの祝い事は昔かららしいがな、兎も角そういうことじゃよ、難しい事は何もなく単純に生きて迎えられたことに対する感謝、ということじゃよ」
まぁ、間違っているかもしれぬがなと締めてからお茶を飲む、キャロルはそれを聞いてふむと真剣な表情で考えてから、『彼女たち』の事を想い、そうだなと少し寂しさを籠もらせた笑みを浮かべてから
「ならば、俺も祝を楽しむとしよう、あいつらが迎えたかった今日を、新年と言う奴をな」
「それが良いのじゃ、してならばわしは呑もうかの、おい、誰か酒を持ってはおらぬか、わしが許す、この場で酒盛りと行こうではないか!」
待ってました!とばかりに動き出す酒飲み人形組、キャロルすら巻き込んだその酒盛りは朝方まで続き、元旦の朝、ユノ達が起きてから食堂に来てみれば
「うわぁ」
あのユノが思わずそんな声を上げてしまうほどの惨状が広がっていたらしい。
という訳で皆様、明けましておめでとうございます!新年一発目からこんな時間ですみません、今日から仕事初めだったんです!
今年もそれいけポンコツ指揮官とお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします!