それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
【ナガンM1895】この基地の彼女は戦術人形、もっと言うならば第二世代と呼ばれる物が生まれてからと同時に製造され、それからレイラの指揮下に入りそして今はユノの下で働き続けている存在。
稼働年数はこの基地の中でも長寿であり、故にその知識、経験、戦術眼は常に彼女たちの助けとなっていながらも当の本人は決して驕ることもなく、まだまだ習うことが多いと謳うほどの自らを磨くことに余念はない彼女なのだがここ最近は少しばかり悩んでいた。
「……ふむ」
ここは射撃訓練所、ではなくキルハウスと呼ばれる屋内戦闘訓練所、そこでナガンは今しがた一連の流れを終えたのだがその結果が移されたモニターを見つめて、何とも言えない表情を晒していた。
先に言ってしまうのならば平時の時よりも結果は落ちている、これは彼女が調子が悪いというわけでもなく、かと言ってなにか考え事をしていたというわけでもない、全力で行って前回よりも成績が落ちている。
これを見てナガンは自身の手を二三握っては広げるを繰り返してからサッと銃を構える動きをして、ゆっくりとガンケースに収め
「これは、本格的に衰えは始めたかのぉ」
この現象が現れたのは数日前、あの捜索任務の折に彼女は違和感に気づいた。何度かセルフチェックは行ったのだが何も出ていないのだがそれとも自身のセルフチェックでは見つからないような不具合でも出ているのか、そう考えた彼女は一応でヴァニラに通信を入れてから整備室へと向かう、だが内心では不具合すら無いだろうなと考えながら
で、結果だけを言えば
「特に不具合も不調も見当たらないわね、でも違和感を感じるんだっけ?」
「違和感、と言うよりも動きに一つ遅れが出ていると言う感じじゃ」
「思考してからそれが反映されるまでのラグか」
ラグ、人間も年とともに動きが衰えると言うことがあるように彼女たち人形にも似たような現象が起きることが多々ある、特にこの基地のナガンは稼働年数は相当なものでありその経年劣化とも言える現象が起きていても不思議ではないというのが本人の考え。
だがヴァニラはその考えに待ったをかける、それは整備士として、そして【アニス達】と言うダミーでありながらそれを卓越した彼女たちを見たからの発想、彼女のそのラグは劣化ではなく
「わしのメンタルにボディが追いつかなくなった、じゃと?バカを言うな、だとすればもっと前から出ておるじゃろうて」
「そうかしら、でもIDWだって貴女とどっこいだと言うのに未だそんな話は聞かないわよ?だとすれば劣化というよりもそっちの方が可能性としては高いと思う」
「どうかの、向こうはバレットタイムをする関係上、電脳もボディも強く頑丈に作られておる筈、なればわしと比べるのは良くないじゃろうて」
どことなく悲観な彼女の言葉にヴァニラはむぅと腕を組んで椅子の背もたれに体重を預ける、確かにナガンの言葉は分からなくはない、向こうはSMG型、対して彼女はHG型、根本的な部分は似てたとしても型が違う以上違いはある、同一に考えるのは多少無理がある。
しかし、そうだとしても稼働年数とスキルの兼ね合いからすればIDWの方が先に消耗しそうな話でもある、なので
「あまり悲観的な考えは持たないほうが良いわよ、それにもしそうだとしても貴女はこの基地には必要な存在だってことは忘れないこと」
「……呵々、そうじゃな、すまぬ邪魔した」
「別にこのくらいはどうってこと無いしそもそも仕事だからね、また何かあったら言って頂戴」
ヴァニラの言葉に背中越しに手を降って整備室を出たナガンはどうするかと考えつつ、また手を何度か握ったり広げたりし、ふぅと息を吐く。
日常生活では影響は出ていない、このラグが確認できるのは戦闘行動中、先程のキルハウスで言えば的を認識してから構えて発砲、この流れが今までであればほぼラグ無しで行えていたのだが最近では思考してから完了するまでにコンマ5秒から酷いと一秒のラグが生まれることもあった。
戦場においてのそのコンマ秒も命取りとなる、それを知っている彼女は
「前線からは退くべきかの……やれやれまだ動けると思っておったのじゃが」
「何言ってるのよ部隊長」
む、と振り向けば同じ部隊の副部隊長を務めている【FAL】の姿、彼女はそこでちょっとお茶しましょと休憩室にナガンを誘い、何を思ってそんな事を言ったのかと聞いてみれば向こうも自身の異常について話、聞いてから
「ふぅん、そうとは見えなかったけど、日常では?」
「いや、特に何も出てはおらぬ、今の所戦闘中だけじゃ」
「だとすれば経年劣化は違うんじゃない?あれだったら日常でも出るわよ」
昔を懐かしむような声で彼女はそう告げ更に語っていく、経年劣化と言うのは全てにおいて影響が出るということ、戦闘だけとなればそれは電脳の方に異常は無い場合が多く、だとすれば考えられるのはヴァニラと同じくボディが追いつかなくなったという事。
「まるで見たことあるか経験したことあるような口ぶりじゃな」
「どっかで聞いた話よ、それで当初は経年劣化だと思われ引退、だけどまぁ蓋を開いてみればそうじゃなかった、なぁんて話をね」
所でこの自販機の紅茶美味しくないんだけどと唐突に愚痴り始めた彼女にナガンは機械に文句を言うなと返してから再度自分の異常についてを考えようとして、まぁでもとFALが言葉を続けたので思考をそっちに戻す
「どうしても心配なら、やっぱりペルシカを頼るのが良いんじゃない?」
「そうじゃな、寧ろ当たり前じゃがアヤツの方が詳しいしな、明日にでも聞いてみよう」
何でそれを始めに浮かばなかったのかとナガンは思いつつFALにお礼を言ってから休憩室を出ていく、その背中は先程までの妙に小さいそれではなく普段の副官として、部隊長としての威厳ある背中に戻ってるのを見てFALは残りの彼女いわく物凄くマズイ紅茶を飲み干してから
「やれやれ、一度悩むと抱え込むのは指揮官と同じ、いや、指揮官がお婆ちゃんを真似てしまってると言うべきなのかしらね」
苦笑しつつ方に乗っているフェレット、過去に指揮官が付けた名で【うどん】を指で遊ぶ、因みにだがフェレット本人は未だ【うどん】と言うその名に不満であり呼ばれると体全体を使って猛抗議をする模様、尚、聞かれない。
そして翌日、今日は自分だけでラボに向かおうという話をユノにしようというタイミングでペルシカから通信が繋がり、何事かと思えば
《MOD化計画に漸く始動の目処がついてね、この基地に先駆けをしてもらいたいんだ》
何とも上手い具合に話が転がるのぉ、そんな呟きにユノとペルシカが不思議そうな表情でナガンを見つめるのであった。
明日MOD実装ならこの話書くしか無いよなぁ!?え、おばあちゃんのMODはまだだって?知らん、MOD化が実装された時点で私の領域だ。