それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
目の前の部長はいったい何を言っているのだろうか、P基地情報部所属のMDRはただそれだけを思いながら部長であるFMG-9を見つめる。
今しがた作業中に呼ばれたと思えば彼女が伝えられたのは【近日行われるL03地区で行われるL区画合同演習の偵察、及び同じくL03にて指揮官が見つけたハイエンドモデルの反応の調査】言ってしまえば諜報活動してこい、と言う内容である。
「……ま、マジっすか?」
「えぇ、本気です。MDR、貴女には諜報活動をしてもらいます」
「したことないっすよ!?」
命令の意味はわかるし理由も何となしにだが理解は出来た、だがそもそもの問題として彼女の言う通り、MDRは製造されてから一度たりとも諜報活動という物をしたことがない人形である、更に言えばこの場にいる情報部員みたく元々裏で働いていた、と言うわけでもないまっさらな人形である。
それはFMG-9だって知っているはずである、だと言うのにこの部長は顔色一つ変えずにそんな命令を飛ばしてきたのだ、そりゃMDRも何を言っているのだろうかと言う冒頭の感情に囚われるものである。
「えぇ、勿論知ってます。だからこそ命令してるんですよ?」
「つまりあれか、実地で訓練してこいってことですか?」
「まぁあれこれ基地で習わせるよりも確かに有効ではありますね、いやぁ懐かしい、私も昔は死にかけながら技術を磨いたものです」
G17のさらっと出された言葉にMDRは冷や汗を流す、いや、まさかそんな危険な地域に初陣の自分を送るわけないよなとFMG-9に改めて視線を送れば向こうもそれが伝わったのかニコリと笑ってから
「大丈夫です、捕まっても素直にしてれば命は無事ですからっと冗談はさておき、一応隠密にお願いしますね、同じグリフィンとは言えアポ無しの諜報活動ですから、下手に見つかれば色々拗れます」
「あれ、意外と責任重大?いや、待って欲しい、アイツは!?あの新人はどうなんですか!!」
ビシッと何食わぬ顔で仕事を進めている彼女よりも後で来た新人である【XM8】に指を指して抗議の声を上げてみる、が向こうは視線をモニターから動かさずに、そしてキーボードを打つ手を止めずに淡々とした声で
「あ、ごめん私はコレでも裏出身だから」
「うそーん……え、じゃあ、もしかしなくても裏とか諜報活動の未経験って」
「貴女だけですね~、さ、腹をくくって行ってきてくださいね、それにサポートもしますし道具もこちらで揃えます、ついでに言えばもし捕まってもまぁ手は回しておきますから」
要は準備は終えてるので拒否権なんてあると思うなよという言葉を物凄く優しく伝えただけであり、MDRもそれを理解してるから分かりましたと任務に行く前なのに疲れたとばかりの声で答えてから、その道具は何なのかと聞いてみれば、彼女が取り出したのは小型の折りたたみ傘くらいの大きさに畳まれたフレームの束。
なんすかコレ、と聞く前にFMG-9は近くの端末を操作して情報部に備え付けられている大型投影モニターの電源を入れれば映ったのは
「あれ、チャンネルミスですか、これ『みらくるふぁくとり~』のスタジオですよ」
「……」
何故か答えずに黙ってみてなさいという表情になるFMG-9にそれ以上は聞けずに画面を見れば、お決まりのカウントダウン、そしてわ~い!と言う掛け声と共に現れたのは【アーちゃんうさぎ】と……【ユノっちおねえさん】ではなかった。
そこに居たのは今までに見た以上に仏頂面のキャロル、その衣装はユノっちおねえさんの据え置き感満載で違いをあげるならば白衣を着ていることか、兎も角、今回はこの二人が……
「いや、違うっすよね!?これ諜報活動の道具じゃなくて間違いなく生活にお役立ち道具の紹介ですよね!?」
『やぁやぁ、今日も元気にみらくるふぁくとり~!なのだけどユノっちおねえさんは暫く来れないみたいでね、なので代役として【キャロりん】に来てもらったんだ!』
『これはどういう事だ、アーキテクト」
少女の声には絶対零度を感じさせる感情が通っていた、まぁそんな出だしから始まった【みらくるふぁくとり~】何処をどう見ても諜報活動チャンネルではないそれ、そしてアーちゃんうさぎが紹介するために取り出したのは今そこにある謎のフレームの束
『これは何と、これからの雪が降る時にかまくらを作りたい、だけど1から雪をせっせと形成するのは大変、そんな貴方にオススメの発明品、その名も『ワンタッチ簡単かまくら丸』!スイッチ一つで畳まれていたフレームが展開して、そこに雪をエイヤって被せることでフレーム間の重力で雪を固めてかまくらになるっていう優れもんよ!』
そこでモニターが消され、FMG-9はニコッと笑ってから、『ワンタッチ簡単かまくら丸』をMDRの眼の前にまで差し出してから
「これが諜報班で使用することになります『極地諜報用仮拠点フレーム 仮称"かまくら丸"』です」
「絶対にこれアーちゃんの試作品ですよね!?しかも何しれっと極地諜報用とかカッコいいそれらしい言葉を付け足してるんですか、嘘じゃん、これただ単にかまくら遊びたいっていう指揮官とか向けの商品じゃん!」
「何か問題でも?」
あっハイ無いですと答えてしまうほどにFMG-9の目は怖かったらしい、だが彼女たちもあれをそのまま渡しているわけではなくキチンと諜報活動用には改造が施されてはいる、ので今回はそれの実地試験だったりもするし、ついでに言えばL03地区への諜報活動もMDRには一切伝えていないが事前にそれらしい情報は態と流していたりする。
なのでバレて捕まっても問題ないし、寧ろ
(間違いなく捕まるでしょうね)
(まぁほぼ見つかりますよね)
(素人にやらせる諜報活動じゃないよなぁ)
情報部全員のそんな気持ちと考えにMDRが気付くわけもなく、彼女はせっせと半ばシベリア送りってこんなんなのかなとか思いながら準備を進めて、食料等を詰めたリュックを背負ってから
「ではMDR、諜報活動に出撃します!」
尚、この諜報活動(実地訓練)の本当の目的はL03地区の基地、そこの指揮官である『ツニーティス・ランドマッシ』との繋がりを持つこと、今この基地で欲しいのは少しでも多い信頼できる味方なのだ。
因みにだが『みらくるふぁくとり~』に暫くは出ることができなくなったユノはと言うと、現在は医務室にて
「うぅ……シーナちゃんが言ってたけど、聞いてるだけよりも全然辛いね」
「悪阻とはそういうものです、ですが少し早いですね……やはり少々勝手が違うのか」
今朝の朝食後に嘔吐、悪阻に襲われ安静中、今後はナデシコ業務もキャロルが担当することが多くなるだろう。
これが彼女が諜報活動に出ていた衝撃の真実だったんだよ!!
あ、ユノっちは暫くはこんな調子です、大変だね!