それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
私が彼女と出会ったのは向こうがまだ指揮官とした成り始めた頃、その頃の私はと言えば失敗作の烙印を押され、本社の雑用に近い立ち位置でただ日々を過ごし、腐るように生きていた。
本来であれば戦闘特化のAIパターン、及びパーソナリティで組まれたはずの私だったがその過程の何処かで狂いが生じたのか、冷徹であるべき筈のAIは余計な感情を生み出し、結果として確かに戦闘においてはIOPの戦術人形の中でも上位に食い込めるほどのポテンシャルは確かに秘めていたがそれを引き出すことが出来なかった。
本来の形とは違う生まれ方をしてしまった私を、本社は失敗作と言い渡し、だが廃棄するにはコストも、性能も勿体無いということで飼い殺されるように過ごしていた……あの日の出会いまでは
「ねぇ、私の基地に来ない?」
それは唐突だった、見た感じグリフィンの制服に袖を通したのはまだそんな回数ではないことが分かる真新しいそれを来た女性、眼鏡を掛け解けばきっとふわっと広がると思われる長い茶髪を三編みにした彼女は変わらない毎日に燻っていた私の所に来れば何の前振りもなく手を差し伸べてきた。
初めは何を言ってるか理解できなかった、そして理解できたらそれはそれで
「何故、私を……失敗作の私を引き入れるくらいなら他を」
「ハッ、前線と現場に来たこと無い本社のお偉方と籠もって実験しか出来ない科学者の言い分なんざ知るか、私がアンタを見て引き込もうと思った、それ以外に必要なことなんて無いね」
真っ直ぐな瞳が私を射抜いた、迷いなんて欠片もなく、本当に私なんかを、失敗作だと言われ続け、銃を一度も握れなかった私に確かな期待を寄せているその瞳に、もしかしたら惚れていたのかもしれない。
だから、迷いながら私は彼女の差し出した手をゆっくりと握り返し
「なら、私はこれから貴女の指示に、いえ、私はこれより、この身も、銃も、全てを貴女のために使いましょう、指揮官」
「えぇ、しっかりと鍛え上げて、アンタを何処の誰に見せても恥ずかしくない、そんでもって失敗作だとか何も知らずに罵ってきた奴らが後悔するような人形にしてあげるわ」
「……これだから人形誑しは、はぁ、ほれ、だったらさっさとヘリアンに書類を叩きつけに行くぞ」
副官と思われるナガンM1895に促されると指揮官は悪い悪いと私を連れてその日に彼女の基地へと配属になり、漸く私の戦術人形としての暮らしが始まりであり【レイラ・エストレーヤ】との出会いだった。
だが彼女は中々に厳しかった、確かに自分を鍛え上げるとは言っていたがそれを考慮しても容赦がなく、だが同時に自分がこなせるというラインを的確に見極めてくれているのだが、だが
「ハァ……ハァ……」
「呵々、今日もしばかれたようじゃのぉ」
「ですが、指導は的確です、だから付いていけます」
彼女の期待に絶対に応えよう、その想いで私は訓練に喰らいつき、戦場では戦果を上げ、ひたすらに応え続けた、気付けば彼女が心の拠り所であり、自分の中で無くてはならない存在になっていた。
こんな日常が続けば、自分が戦果を上げ報告すれば彼女の笑顔が見れる、そんな日々が……
「し……んだ?」
それはあまりに突然で衝撃的な報告だった。指揮官だった彼女が暗殺された、確かに彼女は誘拐された娘を追って何かを探っていたというのは知っていた、だがそれが行き過ぎたのだと
副官の彼女の淡々とした感情の乗っていない声から出されたその言葉に電脳が理解を拒んだ、ありえないと、だって彼女は誰よりも強く、何よりも輝き、こんな私を導いてくれた人なのに
「しん、だ?指揮官が?う、嘘ですよね?」
「……受け入れるのじゃ、現実であり、あやつは」
「なんでそんなに冷静でいられるのですか副官!!!!」
無感情の表情でまるで業務連絡でもするような副官の態度に私の中の何かが切れ、周りが抑えようとした手を振り払い彼女の胸ぐらを掴み上げて抑えられない激情を彼女にぶつける。
「わしとて冷静ではないのじゃ!!!!!!!」
漸く感情を乗せた副官の言葉にオーバーヒート寸前だった電脳が急激に冷え込み、力なく副官の胸ぐらを離して崩れ落ち、視界が歪み、気付けば私は医務室のベッドの上に居た、何でもあの場で倒れたらしいのだがどうでも良かった。
失った、私の全てだった指揮官を、その一つの事実で私のメンタルはひび割れたのを感じ取れた。だから指揮官不在のあの基地を異動させられた先で私はひたすらに感情を殺してただ鉄血を殺し続けた。
コイツラが、コイツラの生みの親が憎いという感情すら殺して、ヤツラの屍を気づきあげ続けていく日常、このまま続いていくのだろうと思ったそれが唐突に壊れた。彼女の娘が生きていて指揮官をしている、その話が私の耳に偶々届いたのだ。
どういう事だと即座に検索をかければ確かに指揮官をしていた、そしてその側にはナガンM1895の姿、間違いない、彼女の副官だったナガンM1895だと気付くまでに時間は要らなかった、それから出来ることならば彼女の側に、光をくれたあの人の娘の側に行きたいと封をしていたはずの感情が暴走しそうになるが
(もし彼女だとして、何だこの違和感は)
彼女の存在が辺に私にスイッチを入れたのか、その違和感を感じた。何と言うか何度か会ったことある彼女の娘ではないような気がした、それからあの誘拐事件のことを自分なりに調べ、調べ、調べて、だがこの移動先の辺境も良い所の基地で情報なんて禄に集まるわけもなく、ただ日数が過ぎていく日々に我慢の限界が来た私は、鉄血の本拠地に近い地区ならば情報が手に入るかもしれないという思考の元、先ず手始めに適当な作戦中に自分を殺し、登録を抹消するように動いた。
それから私は独りで鉄血の制圧下の地区を練り歩き、情報を集め、辿り着いた。あの日、指揮官が暗殺されるに至った情報を、私は思わず笑ってしまった、こんなの『鉄血』だけの計画じゃないと、いや、IOPですらない、そんな情報を手に入れたのだが
「ガハッ……くぅ」
流石に本拠地に近い所で活動しすぎた私は情報を握ったその日から鉄血に追われる身になってしまった、来る日も来る日も追撃を躱し、自分の体をどうにか動くようにニコイチやら無理やり適合やらさせてこの情報を彼女たちに渡すべく走り続けた。
だがそれも届かないらしい、戦闘用のマスクはひび割れ欠けており、ボディも服も無傷なところなんて無く、右腕はまだしも左腕に関しては外套で隠しているが肘から先が既にない、そして現状は鉄血の小隊とかち合ってしまい戦闘中
(チッ!!!)
ブルートが容赦なく飛び掛かってきたのを私は右腕の愛銃【AN-94】を向け引き金を引いて……『ガチャン!』という無慈悲な音が排出口から響き、それはつまり
(ジャム!?)
整備不足、いや、追われる身で整備なんてろくに出来るわけもないのだが兎も角、私の最後はこれらしい、そう思った刹那、私の首を狩らんとしていたブルートが無限軌道を携えた緑色の車両に轢かれた、え?
まぁほら、レイラさんもきっと無自覚天然で誑かした人形が居るやろなぁからの派生である、因みにゲームで実は彼女はまだお迎えできていないという、つまりはまた例外ってことだな!
あ、明日に続きます。