それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
やってしまった、ナガンがそう思ったのは彼女を見てから壁にかけてあった時計を見た時、少なくとも十数分は経っていることを知らせている針、恐らくはユノはあまりに連絡が遅いから心配になりクリミナとともに来てしまい、そして自分たちの会話を聞いてしまったのだろう。
少し前の彼女ならば、いや、少し前の彼女だとしても迂闊には聞かせることが出来ない内容の会話だと言うのに、それを寄りにもよって今、デリケートな状態の彼女に聞かれてしまった。
「ユノ、この事は後で落ち着いたら話す、だから今はすまぬ、執務室で待っててくれ」
「良いから聞かせて、また私に黙って皆で秘密を抱えるつもり?」
「でもそんな青い顔しててコレ以上聞いたら指揮官ちゃんの身体に悪いって、ね?」
青い顔?ヴァニラのその一言にユノは疑問符を浮かべてから、クリミナの方を見れば彼女は向こうも頷く、はて?と更に疑問符を浮かべてから、あぁと全員の心配事に思い当たった彼女は両手を振りながら
「いや、これはその、さっき来る途中で戻したからで、別に話を聞いたからじゃないんだけど……」
「嘔吐するほど体調が悪いならば尚の事聞かないほうが良いのではって、あれ?」
AN-94としてはユノの体調を心配しての言葉だったのだが途中で周りの空気がなんかおかしいことに気づいた彼女が見渡せば何故か全員がそう言えばそうだったという表情を晒していた。
というのも、彼女がこうして青い顔してるのも、さっきも言ったが戻した、つまりは嘔吐したから、そしてそれは体調が悪いと言うわけではなく、もはや日常的になった【悪阻】である、まぁある意味では体調不良なのでAN-94の言葉は合っていなくはないのだが。
なので言ってしまえば確かに生体パーツとかデザインベビーとか言う単語を扉越しに断片的には聞いてしまい驚きは合ったものの
「でも、ほら、結局は私はクローンだってのは変わらないし、ナデシコからとは言え人間が見えるようになったから何かしらまだあるんだろうなぁとかオモイカネと冗談交じりに話してたし」
「知らぬ間のこやつのメンタルが強くなってたことにわしは喜べば良いのか、衝撃を受ければ良いのか分からぬのじゃ」
「いやまぁ、喜ぶべきじゃないかしらね、ほら、今後も指揮官として働いてたらあるだろうし?」
「え?えっと、え?」
AN-94が話について行けてないと言う感じの表情をしているのだがそれを話してしまうと恐らくは彼女は情報にパンクして固まることは間違いないからと後で話すと伝えておく。と言うよりも出来れば彼女の容態がもっと回復してから聞かせないとオーバーヒートしてしまいそうな感じすらある。
「ですが聞くのは宜しいですが指揮官、ある程度の覚悟はして下さい、そうですね、自身がクローンであることを初めて知った時くらいの覚悟ですね」
PPSh-41の言葉に一つ頷いてからふと、他の二人、ノアとキャロルは呼ばなくて良いのかと聞けば、確かにことはその二人にも及ぶなとナガンが呼び出し、少しすれば
「話とは何だって、もう起きたのか」
「んだよ話って?オメェもう起きて平気なのか?」
「は、はい、問題ありません……では副官、宜しいでしょうか?」
うむと彼女が頷いてから心して聞けと二人に伝え、三人は先ほどのAN-94の話、衛星兵器、その生体パーツ、オリジナルである彼女の本当の出生、その全てを包み隠さずに話していく。
一通り話を終えたのだが、三人の反応はそれぞれ違った。ユノはショックは確かに受けているがそれでも何かを考えるように、ノアは苦々しい顔を隠さずに腕を組み、キャロルは特に何かを反応を示すという感じではなく思案するような表情をしてから
「クローンを生み出す理由は分からんでもない、だがそれを何故技術的に確かな正規軍ではなく鉄血が行った?」
「恐らくは何らかの原因で適合せずに死んでしまった彼女を隠すために鉄血が独断で行ったことではと私は考えてます」
「んじゃあれか、計画自体は既にオジャンってことか?」
「ってことになるよね?あれ、でも私は適合してるし、何だったらキャロルちゃんも居るから、うーん?」
そう、オリジナルである【ユノ】は確かに死んでしまったがその遺伝子を持っているユノ、そしてオリジナルの遺体を素体にし結果として適合という形を取れてしまったキャロル、この両名が居る以上計画自体は進めることが出来る、更に言えば
「ことはそんなに簡単ではないだろう、先程も言ったがクローン自体は元から生成する予定は合ったと思う、ではなければノアを使った【方舟計画】なんてカバーストーリーは生まれんだろうしな」
「まぁそれも何故鉄血が行ったという謎が残るのじゃがな……」
「他にAN-94はなにか知っておりませんこと?」
クリミナからの質問に彼女は首を横に振る、正直に言えばこの衛星兵器計画を手に入れられただけでも大金星なのだ、それ以外はそもそも消失してたり、もっと鉄血の本拠地の深部だったりとするために集められなかったのだ。
ともかく、今此処で聞いたことは此処にいる人物以外には決して漏らさないことと固く決める、だがAN-94の内部にあるそのファイルをそのままというわけにも行かない、しかしどうすればと言う所でナガンが
「宛はある、が直ぐにと言うわけには行かぬがな、【アナ】そのファイルの情報を紙に纏めることは可能か?」
「出来ます、左腕がこうなのと内容と量が量なので時間は貰いますが」
「話が終わった直後で悪いんだけどさ、さっきの【アナ】ってのと【シンデレラ】この2つ、何のか教えてもらえる?」
二人の会話が途切れた所でヴァニラが先ほどの会話の中とナガンがAN-94と再会してから最初に言った言葉で疑問に思った事を聞いてみれば、あぁと忘れてたとばかりに声を上げてから
「【シンデレラ】も【アナ】もレイラがコヤツに付けた名前じゃよ、まぁシンデレラの方はコードネームみたいなもんじゃが」
「彼女が言うにはシンデレラは物語のように最後は輝くようにと付け、アナの方は……」
『AN-94のAN、ほら、アナって読めるじゃ?』
ってことなんですよねとAN-94、改めアナが説明すればナガンは懐かしいとばかりに笑い、ユノ達を除くPPSh-41達はあぁ、この娘達はしっかりと遺伝されてるなと納得、最後に逆に彼女から先ほどの嘔吐の件で説明を求められたので周りはどうするかと悩むも結局はユノ自身が
「えっと、私ね、妊娠してるんだ、クリミナとの赤ちゃんを」
「……え?ま、待って下さい、クリミナ、貴女人形で、同性ですよね?」
「えぇまぁ、ペルシカお義母様に協力してもらいまして」
「呵々、この基地ではクフェアもノアとの子供を身籠っておるぞ?」
え、どういうことなの、もしかして人形との子供ってじょうしきになってるの?と思考がフリーズ仕掛けるアナ、無理もないだろう彼女は数ヶ月近くネットワークから独立してひたすらに戦い続け情報を探っていたのだ、此処最近のグリフィン事情なんてものを知ってるわけもなく、だが目の前の確かな現実に遂にアナの電脳は悲鳴を上げて、ポスンとベッドの枕に頭を預けて蚊の鳴くような声で
「寝て、良いですか?」
「はい、ゆっくり寝て下さい」
その日は解散となった、今年早々に発覚したこの件、それがどう転がるかは未だに分からない、だがそれでも悪いばかりの方向には転がらないだろう、この基地はそういう不思議な基地なのである。
結局、謎が増えただけじゃねぇか!!!まぁはい、その辺りも後々で地道に回収できればなぁという事で