それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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三話ぶりの主役登場だってのに真面目なお話である


黒い噂が絶えない基地の指揮官

S09地区P基地、別名【早期警戒管制基地】そこを仕切るは18歳の特務指揮官を任命された少女、この情報は彼女がその話をされた翌日にはグリフィンには通達され上層部はまだしもその他の社員は確かにそこに基地があるのは知っていたが大層な基地だったとは知らない。

 

寧ろあそこと言えば様々な噂が飛び交う曰く付きの基地であったはずとP基地の事を少しは調べていた者は思っている。そんな件の基地の指揮官、ユノはと言うとヘリアンから招集されて本社に来ていた、となれば勿論様々な視線が、ともすれば怖いもの知らず、または人畜無害そうな彼女ならば簡単に取り込めるだろうとかで声を掛けてくる者が居ても不思議ではなかったのだが

 

(これは予想外じゃな、誰も近寄って来ぬぞ)

 

今回から彼女が本社などに出向く際に決められた護衛の三人のうちの一人ナガンがそう驚くのも無理はない、予想としては少なくとも数人は接近を試みるだろうとすら思っていた、早期警戒管制基地という特殊極まりない所の指揮官、更にはペルシカとの養子関係、大体の指揮官であれば繋がりを作りたいと来ると思われていたのだが、それが一切ない。

 

これは他二人であるクリミナ、Vectorも同じである。ユノだけが久しぶりすぎる本社に緊張していてそれどころではなく、いや、もし緊張していなくとも異常には気付かないだろうが、ともかく過剰とも言える護衛と彼女自身に装備された【てっぺきちゃんマークツヴァイ】まで用意して有事に備えたのが空回りした感じが否めない空気に三人はどういう事だと訝しむ。

 

真相を言ってしまえば、ユノが『久しぶり』に本社に来たのが絡んでいる、と言うのも彼女の安全上、元々出向くことが少なければ繋がり以外との基地の交流も殆どない、ナデシコでの通信だって音声だけでのやり取り、無論基地の盗撮や監視なんてものは警備係と暗部が許すわけがないのでと彼女の姿の露出が極端に少なかった、となれば本社に来るような指揮官たちからすれば最後に見た時は小さな少女だった存在が次に来てみれば誰だお前というレベルの変容に周りが不気味がった。

 

18の少女らしい体付き、胸だけを見れば寧ろ男性なんかは寄ってきそうなのだが数ヶ月もしない内に急成長を遂げているその姿に誰しもが思う、あの基地では何か非合法な実験が行われて、だからこそ今日まであの基地は目立たなかったのではないか、しかも彼女をどうこうしようとした者達は軒並みに消されているという事実も手伝い、結果として興味の視線は送られはするのだが誰も近寄らないという現状になっている。

 

「まぁ良いんじゃない、絡まれる方が面倒だし」

 

「そうなのですが、何だか居心地悪いと言いますか、気分のいいものではありませんね」

 

Vectorとクリミナがそう語り合っている間も視線だけは途切れることはない、ないが遠巻きに見ているという感じでありやはりなんと言うべきか、少々客寄せパンダのような感じがすればクリミナとしては良い感情は持てない。がだからといってどうこうできるという訳でもないかと思考を切りユノへと視線を向ける。

 

「ん、どうしたの?」

 

「緊張してないのね、それとも気にしてないだけかしら?」

 

「いや、久しぶりの本社だから結構緊張してる、でもそれを無闇に顔を出さないようにしろってRMB-93に言われてるから」

 

だから平常心っぽい顔してるんだとユノと告げる彼女の顔もよく見れば確かに緊張の色が見えたり、声にも震えが混ざっているのを聞き取れる、なので完璧に緊張していないと言うよりもそう見せているだけであることがよく分かったが、それは彼女たちがきちんと注視しして初めて分かったと考えればポーカーフェイスのレベルは知らぬ間にあげていたと驚くことになる。

 

ともかく道中特に何もなくヘリアンの部屋へと辿り着いて、外にVectorを待機させてからユノとナガンとクリミナが入れば丁度ヘリアンがなにか書類を纏めたところだったようでふぅと一息ついていたがすぐに姿勢を正してから

 

「すまないな、突然呼び出したりして」

 

「いえ、問題ありませんが、要件は何でしょうか?」

 

「そこはわしも気になっていた、態々此奴を直接呼び出すくらいの何かがあったのかとな」

 

言葉にはしないがクリミナも同意だとばかりに頷けばヘリアンは何も言わずに机の引き出しから一枚の書類を出して彼女たちに見せる、そこに書かれていたのは

 

「……『指揮官交流会』じゃと?」

 

「あぁ、月に一度行われる各地区の指揮官を集めた交流会、まぁ参加の是非は自由で諸々の事情で来ない者が殆どなのだが今回、特務指揮官であるユノ・ヴァルターには出席要請が来ている」

 

「え、出るんですかこれ?」

 

強制ではないがなとヘリアンは言うが恐らくは行かなければ行かなかったで何か言われるのだろうと流石のユノも勘付け、だからこそどうしようという表情で二人を見る。

 

見られた二人はそれぞれ対照的だった、ナガンは頭を掻き電脳内でメリットとデメリットを考えては悪い方向にしか傾かないことに苦笑し、クリミナは面白くないという表情を晒してから

 

「ですが、今のユノは……」

 

「分かっている、だからこそ頭を悩ましててな立食パーティーの形なのだがその途中でその、悪阻が来れば」

 

「誤魔化せんことはないと思うが疑われはするな、特にD08という前例が存在する以上、逆の可能性を考えない奴が間違いなく居るじゃろう」

 

ともすれば、最悪の形で彼女の妊娠がバレてしまう、が下手に断れば今度は『特務』指揮官という肩書きが悪さしてしまう、そこまで重要役職ならばこの手の集まりには顔を出すべきだという考えの者達が居るからだ。

 

「ペルシカには話したのか?」

 

「話さないわけ無いだろう、彼女は勿論反対の姿勢だった、あまりに危険がありすぎる、と言っていたよ」

 

じゃろうなとナガンは呟いてからソファに座り込んではぁと深いため息を吐き、ユノは思考を巡らしに巡らせて、だったらシンプルに行こうかと閃いたことを口にした。

 

「うーん……体調不良で何とか押し通せないかな、嘘じゃないし」

 

「ですがそれはそれで疑われる可能性が、あっ、いえ、もしかしたら上手くいくのかもしれませんわね」

 

そう、妊娠関連の情報は彼女たちが教えた者達と正規軍以外には未だ秘匿できているので何だったら体調不良でも押し通せる可能性がある、それにとユノは更に付け加えた。

 

そもそも自分たちは監視が役目の基地、だと言うのにそれを離れてそういう集まりに出るほど暇じゃないよねと

 

「確かにそうだな、どうじゃヘリアン」

 

「君はいつからそんな悪知恵を働くようになったんだろうな……だが助かった、これならば行けるだろう、今後のこういった要請にも同じ理由で突っぱねられそうだ」

 

にししとユノが笑う、こうして今回の話は終わるのだが、帰り際に何処でそんな知恵の回し方を覚えたんだとヘリアンが冗談交じりに聞けば

 

「人形たちからもだけど、ペルシカお母さんにもサボりたくなったらこういう事言うと良いよって保護された時くらいに教わったのもあります」

 

「そうかそうか……あいつ、無知だった頃の彼女に何教えてるんだ

 

同じ頃、P基地にてノアと会話していたペルシカがくしゃみをして風邪なのかと心配されたらしい。




何か知らないけど今日のお話は難産だったという、原因がさっぱり分からん(お空の格ゲーを起動しつつ)

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