それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
【ガーデン】の一角、リポスティーリオとは別の雑貨屋の前にて一人の女性が咥えていたタバコを離して煙を吐き出してから咥え直し、ゆらゆら揺れ、雲一つ無い晴天の空へと紫煙が吸い込まれていくさまを目で追っていき、消えていったタイミングで口の中で味わっていた煙をもう一度吐き出しまたその様子を眺める。
何がどう面白いのか、それは吸っている本人【M16A1】にしか分からない、だが特に何も考えないで見つめている様子から察するに本人も大して面白いとは思ってないのかもしれない、では何故彼女がそんな事をしてタバコを吸っているのかと言えば
「……こりゃ、長くなりそうかねぇ」
チラッと窓から店内の様子を見ればSOPⅡと年頃の少女らしい笑みを浮かべながら買い物を楽しむM4の姿、今日は二人が買い物に出たいということで一応の付添と基地に居たら残りのAR小隊である
彼女的にはどうにもあの二人のように雑貨屋で買い物を楽しむというのは性に合わないと思ってしまい、退屈そうな姿を見せるのも何だしなとタバコを吸ってくると二人っきりにしてあげたのだ、どうせそんなに掛からないで出てくるだろうと思っていたのだが数十分、携帯灰皿に三本ほど吸い殻が入ってこれが四本目、割と時間掛けて吸っているのだがそれでも出てくる様子がないことに少々失敗したかと思ってしまう。
「(まぁ、アイツも苦労してるし、とことん付き合うつもりだから良いんだがな)っとと」
「ごめん!」
壁に凭れ掛かって吸ってたつもりだったがどうやら少しばかり離れていたらしく走ってきた少年にぶつかってしまう、謝ろうかと思ったのだがそれよりも早く向こうが謝りながら走り去ってしまったのでやれやれと思いながらまた壁に寄り掛かり喫煙を再開してから
「しっかし、この街のガキンチョ共は元気というか、生き生きとしてると言うか……いやぁ、やんちゃな奴らが多いこと」
独り言を呟きながら吸い殻を携帯灰皿に入れて次を取り出そうとした時、気付いた。腰ポケットの重量が減っていることに、そしてそこに入れていたのは確か財布だったなと、此処まで来れば何が起きたかなんて彼女には分かるのでそれが言葉の後半に現れてから本当に困った感じの笑みを浮かべつつ壁から離れて先ほどの少年が走り去った方向を見つめて
「相手が悪かったってことで、少しばかり暇つぶしに付き合ってもらうかね」
誰に言うでもなくそう呟いてからM16はゆっくりと歩きだし、人混みが多少途切れた辺りから駆け出し始める、そのタイミングでカランカランと雑貨屋の扉が開き満足げな笑みを浮かべたSOPⅡと自身の久しぶりに買い物を満喫して楽しかったですという雰囲気を隠してすら居ないM4が出てきてから
「お待たせしましたM16姉さんってあれ?」
「居ないよ~?」
何処に行ってしまったのですかと言う彼女の呟きは街の喧騒にかき消される。そんな彼女のことを思い出してなのかM16は途中で通信の一つでも入れればよかったかなんて思いながら貧困街のガラクタなどが捨てられる一角の山の上に居た、下を覗いてみれば先ほどの少年が自分のと他にも数人の財布を開いて中身を物色している姿、因みに一番入ってたのはM16のだったようで彼女の財布を開いた瞬間、思わず小さく感嘆の声を上げてしまうのだが
「よぉ、結構入ってんだろ」
「っ!!??」
急に声を掛けられ財布を取りこぼしそうになるのを何とか回避しながら少年が声の方に振り向けばそこには笑顔のM16の姿、直ぐにこの財布の主で取り返しに来たのだと勘付いた彼は逃げようと動き出す、がそれはすぐに意味のないものになった
少年が動き出すよりも前に彼女が山から飛び降りて少年の前に着地、流れるように財布を彼から取り戻してから
「良い腕だった、だけどスッた相手が悪かったな少年」
「……」
「ま、どっかに突き出したりはしねぇよ。訳ありだろ、いやまぁガキンチョが一人で暮らしてるって時点で訳ありじゃないわけないんだがな」
軽い調子に言葉を紡いでいくM16に対して少年は何も言わずに、彼女を睨みながら逃げる隙を伺う。だが彼女がそれを作るわけもなく、少年を観察する、身なりから間違いなく孤児、しかもその目は全てを諦めていた、こんな子供がするような目じゃないのは確かだ。
「(やれやれ、そんな目をしてるやつには弱いんだよ私)なぁ少年、好きな事とか、夢とかあるか?」
「いきなり、何だよ」
「良いから答えろって、ほら、見逃してやる代わりってやつだ」
因みに答えなくても見逃すつもりなのだがそんな事知る由もない少年は相変わらず睨むような眼つきで、だが逃げるということは諦めてのかその場に座り込んでから
「無い、持った所で意味もないじゃん」
「意味か、まぁそうだな。だけど知ってるか?夢を持つとな、時々すげぇ切なくなるが、時々すげぇ熱くなる らしいぜ。だからさ、どんな小さなもんでも夢を持って生きてみるのも悪くねぇんじゃねぇの?」
「それで食べていけるなら」
夢を語ってみれば返ってきたのは切実なる現実的なお話にM16は苦笑を浮かべつつも確かにその通りだなとタバコに火をつけて咥え一服、それから
「んじゃ、何か得意なこととかないのか?さっきのスリの腕なら手先とか器用そうだけど」
「さっきから何でそんな事を聞いてくるのさ」
「良いから良いから」
ウリウリとタバコを咥えてまま少年の頭を撫で回せば向こうはそれを振り払い、M16に押し切られるように外套の内側に隠していた一丁の銃を見せる。
見せられたそれをM16は見つめて、驚くように口笛を吹いた、もはやベースが何だったのかすら分からないが一つ一つのパーツをこのガラクタから発掘してほぼ1から作り出したそれは彼女が見ただけでも分かるほどに完成されていた。
素人とかが出来る代物ではない、どうやったのかと聞けば
「普通に、此処に捨てられてた物を整備して組み立てただけ、でもこの辺りの出来たのは俺だけだから多分、得意なことだと思う」
「十分だ、いや、それ以上だ!へへ、少年、お前に紹介したい所があんだ、あ?ちげぇよ悪いところじゃないっての、いいから来い、な?」
はっきり言えば事案な会話だがM16はその少年を連れてある店へと向かう、尚、この時点でM4たちへの通信は記憶の遥か彼方にすっ飛んでいる模様、ともかく店内に入って早々に割と大声で
「オヤジ!弟子に出来そうなの連れてきてやったぞ!」
「あぁ!?」
「弟子ってなんだよ!?」
そこはあらゆる物を整備修理する専門の店、彼女は前に此処に来た時に店主の親父がそろそろ歳だから後継が欲しいとか言ってたのを覚えており、少年の素質ならば彼のお眼鏡に適うと踏み連れてきた、のだがその後は軽く説明をしてからM16は
「んじゃ、がんばれよ少年!」
「お、おい、待てって!!」
少年の声を背にハッハッハと笑いながら帰っていくM16、彼女は確信していた、きっとアイツならば上手くやっていけるだろうと、あんな将来有望な少年がスリとかで潰しちゃいけないと、その答えは遠くない未来
『姐ちゃん、俺さ、夢ができたんだ、この街一の整備士になるって夢が!』
輝かしい少年の笑顔と決意に満ちた表情になって返ってくるのであった。
555話だからね、ファイズ感強いのも多少はね?
因みに初期案だと最後に出てきた店の店主は時計を直すのが一番得意なんだけどねとか言うセリフを吐かせようかと思ってた。