それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
ヴァルター家の三女、シャフト。前の基地ではそこの指揮官に酷い扱いをされていたというのは言うまでもなく、性的暴行も当然の如くされ、食事も碌なものも与えられずに居た彼女、だからこの基地に来てから初めてと言えるまともな食事を出された時は絶対に残しちゃいけないと【ユノ】と同じ量を平らげた。
すぐに自分が食べれるだけの量でいいと教えられるも、そこで食べれてしまったので自分はこれが食べれる量なんだと認識し、更に言えば食事が楽しいものだと気付いた彼女はよく食べる人形へと早変わりした。彼女の境遇については基地の者はだいたい認識しているので事あることにこれはどうだとかでお菓子やらを彼女に渡せばシャフトもシャフトで貰ったものを残すわけにはいかないというのと美味しいものだとパクパクと食べてしまう。
そしてどんなに間食したとしても三食もキチンと、前述の通りユノと同じ、つまりは【お母さん】と同じ量を平らげる。これには何かしらの異常が出ているのではとPPSh-41に二人が聞いてみたのだが食べた後にお腹が苦しいとかの不調もなく、嘔吐なども代償行為もないとなると一応前の環境のストレスが残っているのかもしれないので様子見ですかねと言うことになり、しばらく経っているが減る様子が見られない。
(モキュ、モキュ)
減る様子が無いが不調なども出ているわけでもないので普段から気を掛けて彼女の内心のストレスなどを解消してあげているのでもしかしたら単純に食事が好きになっただけなのかもしれない、なんて夫婦も周りも思うようになってから暫く経った今日、その大食行為の代償がシャフトを襲うことになった。
普段通り美味しそうに、幸せそうな笑みを浮かべながらおやつのメロンパンを頬張っている時だった。同じ席にはルピナスとステアーの姉二人も同席しメロンパンを食べていたのだがふと、食べる手を止めたルピナスがシャフトを見つめ、それからむぅ?と唸ってから目を閉じて何かを思い出してから、再度シャフトを見て
「ねぇ、シャフト」
「(モキュ、ごくん)あ、何ですか、お姉ちゃん」
「いやさ、ちょっと、いや、それなり?とにかく……丸くなってない?」
いきなり何を言い出すんだこの自称姉はとジト目でルピナスを見つめてからステアーも同じ様にシャフトを見つめて、先ほどのルピナスと同じ様に少しだけ目を閉じてから改めて彼女を見れば、確かに増えている『横に』
二人が行ったのは少し前のシャフトの姿を電脳から呼び出して今の彼女と照合、その誤差を見たのだが二人が出した数値はもはや誤差では済まなくなっていた。と言うよりもよく見れば別にこんな事しなくても丸くなり始めていることくらい分かるくらいにはなっていた。
「丸、え?」
「丸いです、具体的に、直接的に言えば『太ってます』」
「太っ!?……」
姉からの無慈悲な言葉にショックを受けつつ思わず自身の脇腹を摘んでみれば、掴んだ感触から数値が割り出されて、結果は言わずもがな、シャフトは絶句という表情で固まることになる。
冷静に考えれば彼女の食生活を考えれば増えてしまうと言うのは分かるはずだった、がユノが体質で増えず、他のよく食べる人形達からもそんな話が出なかったので彼女はそう簡単に増えないんだなとか思ってしまっていた。いや、シャフトに限れば人形が太るってことはないんだなとか思ってたに違いない。
だが、そもそもにしてユノは今でこそ妊娠中なので仕方ないのだが増え続けているが、普段であればナデシコ業務で、他の人形達も一日を仕事などで戦場などにて動き続けているのでカロリーをかなり消耗している。だがシャフトはと言えば確かに仕事こそしているがじゃあそれが食べている分のカロリーをペイできるかと言えば、残念ながらNOである。
「思えば、ほっぺも増えてます(プニプニ)」
「ホフッ、ふ、太っちゃってるんだ……(モキュ、モキュ)」
「いや、一度食べるの止めなさいよ」
指摘されてからシャフトはとりあえず食べかけだったそれを食べ切ってから、どうするべきかと思う。思うのだがだからといって食事を制限されるのはちょっとと思ってしまう辺り、彼女の食への執着心は凄いものだと思われる、逆に言えば前の基地がどれほど酷かったのかも語っているのだが。
兎も角、このままではブクブクと人形なのに丸くなり続けてしまう、ヴァルター夫婦はそれで嫌ったりしないだろうし、ユノに至ってはこれはコレで可愛いとかで甘やかすだろう、しかしそこはシャフトも女の子、太るのは良しとしないのだ。なので結論はすぐに出る、カロリーが消費しきれていないというのならば、運動をすれば良いんだと、グッと拳を握りしめて決意する。
「私、運動する」
「でも無理は駄目だからね?それと、運動って言っても何をするの?」
「まぁこの基地なら言えば皆付き合ってくれるわよ!」
無論、ルピナスとステアーも付き合うし、何だったらアニス達だって遊びとして共に運動してくれるだろう、そうじゃなくともこの基地には事情を話さずとも運動好きな人形は多い、その味方の多さにありがたく思いながら、翌日とりあえず彼女が始めたのはジョギング、筋トレ、そして
「えいっ!」
「まだ腰が甘い!だけど意気込みは良い、その調子で打ってきて!」
彼女が始めたのはボクシング、これには二人も驚いた。彼女のイメージには何となしに程遠いものを感じていたからだ、しかし当の本人から言い出したことであり、しかも目の前で今はSPASを相手にミット打ちをしているではないか。
表情は真剣であり、気迫すら感じるそれに周りはもしかしたら前の基地の事を思い出してストレスを発散しているのだろうなと推測しているのだが、シャフトはこれが一番カロリーを使いそうだという考えなだけだったりするし、実を言えばユノが中国武術などを護身のために習っていると聞いたのと、あの襲撃の際に何も出来ずにやられてしまったことから自分で出来ることを増やそうと考えたからだ。
しかし、そこは今日は初めたばっかりで、今まで此処まで激しい運動をしなかったシャフト。休憩は挟んでいたとは言え体力だってそこまで付いていない彼女は数分のミット打ちを終えた所で
「やれやれ、ほれ大丈夫かシャフト、スポーツドリンクじゃぞ」
「ぜぇ……ぜぇ……ケホッ、あ、ありがとう、お婆ちゃん」
「あ~、何だろ、凄く前に初めて指揮官がこの運動場に来た時を思い出すね」
「そういや、あん時も数分の準備運動で指揮官はダウンしてたな、いや、懐かしいなオイ」
彼女のダイエットはまだまだ始まったばかりだ。因みにこれを聞いた夫婦は引っ込み思案だった彼女が悩み、そして行動を移したということに成長を感じ、その日の夕食は
「ふふん、シャフトが運動を始めたって言うからね、スタミナが付くような料理にしたよ~」
「わぁ!いただきます!」
「……これ、減る?」
「私達は人間よりもカロリーの消費は激しく出来るから大丈夫、多分」
「あらあら、慌てて食べなくても誰も取りませんわよ」
彼女のダイエットは始まったばかり、しかし誘惑と敵はこの基地には同時に多いものである。
運動中のシャフトちゃんは今の季節だとジャージだけど暑くなると体操着姿になって二名ほど(浄化されて)死ぬ。