それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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求めすぎるのは危険だけどね


スリルを求めて

少し前にK5がヴァニラに対して占った際の内容を覚えているだろうか、更にヴァニラはまだハッカーをしていた時代、男装をし変声機まで使って基地だったりに潜入してたという話も過去にしたと思われる。

 

何が言いたいと?まぁつまりはヴァニラはこの人生において、一番とまでは言わずとも、二番目、三番目あたりの危機に陥っていた。

 

「ふぅん、まさかあの時の『彼』が変装した貴女で、それでいて自分達の仕事のために、私を甘い言葉で誑かしたんだ~」

 

流れる冷や汗、目の前の彼女【PA-15】の悪戯っ子のようでありながら怒ってるし許す気もないという表情にヴァニラは何も答えることが出来ない。

 

これがもし彼女の出任せの言葉だったら反論は普通にしてた、だが彼女が言ってることは事実なのだ。あの時の自分はFMG-9の作業を楽にするためにPA-15に声を掛けて、ちょっと懐柔した、勿論、向こうからのアプローチには先手を打って断っていたし、そもそもあれが自分だと気付かれるようなヘマもしてない……つもりだったのだが。

 

「何でバレた~って顔してる、女の執念は恐ろしいって自分も女なのに知らなかったんだぁ、へぇ」

 

自分達が仕事を終えたあの基地は言ってしまえば真っ黒だったので恐らくは基地は解体、所属していた人形達はまた別の基地へと異動したのだろう、だが彼女はそこからあれが誰だったのか、何処の存在だったのか、というのを只管に探り続けていたらしく、そして自分でも見落としていた痕跡からヴァニラを見つけ出して今に至る。

 

末恐ろしい執念だと同性ながら戦慄するしかない、しかもどんな手を使ったのかこの基地に配属されるなんて誰が考えるか、兎も角この状況はどうにかしないと、思考をフル回転させるヴァニラ、だが目の前の彼女はその隙きを与えない。

 

「まぁ、その事は水に流してあげるよ、でもあの時の返事、私は聞きたいなぁ」

 

ブワッと押さえつけたはずの冷や汗が溢れ出る幻覚を感じた、ついでに目の前のPA-15が何だか大きな存在にも見え始めた、完全に主導権を握られつつある、どうにかそれを取り戻したいが此処までのやり取りで分かるように彼女は強く中々ヴァニラに握らせてはくれない。

 

『あの時の返事』と言うのは潜入最終日に今までは先手先手で潰していたのだがたった一度だけ向こうから切り出してきた言葉、内容は良くある告白でありその時に断ってしまえば良かったものを、もう会うことはないだろうしで保留、そう、何を思ったのか保留にしてしまった、そのツケが今目の前の状況であることは言うまでもないだろう。

 

「私ね、あれからずっと忘れられないの、何も言わずに消えてしまった貴女のことを考えると気持ちが昂ぶるの、どんな刺激を受けても、貴女を想う事以上の気持ちにならないの……」

 

ギュッと胸を抑え、切ない表情でそう告げる彼女にいよいよ退路なんてものは無くなったと悟ったヴァニラ、ならばいっそと決意を決めた彼女はPA-15に

 

「……ごめん、私にはもう大切な人がいる」

 

「は?」

 

この時、ヴァニラが声を上げなかったのは奇跡に近い、それ程までに彼女の声の質が変わっていた、先ほどまでの少女のようなものではない、心の底から冷えるような声、見れば顔からも表情は消え失せ、無表情でヴァニラを見つめていた、何かの間違いだろうと告げるように。

 

しかし、そんな顔をされようと自分には彼女が、イベリスが居るんだと怯まずに再度告げる、だからもう諦めてくれと。刹那、PA-15は小さく震え始め、そしてヴァニラの手を握り走り出した、あまりに予想外の行動に驚くヴァニラだが何処に向かっているのはすぐに理解できた、だからこそ

 

「いやいやいや、待って!?え、なに、これどうなるの私!?」

 

「五月蝿い、話をしに行くんだよ……!!」

 

行き先はカフェであり、到着早々に扉を開け放ち入れば店内の人形、特にK5と同じ席でお茶をしていたIDWが眼を丸くしてから

 

「マジで人形を連れ込んできたにゃ」

 

「まぁ、見るからに連れ込んできたと言うよりは連れ込まれただけどね、いやしかしこうも早く占いが当たっちゃうかぁ」

 

と二人は能天気な物だがヴァニラはそれどころではない、PA-15もそうだがこうして入ってきた瞬間、イベリスの顔も似たようなものになったからだ、それはそうだろう、だが自分は無実だと首を横に振り続けるもイベリスはカウンターから出てきてPA-15と対峙する形になってから冷や汗と顔を青くしたヴァニラに向かって無表情のまま

 

「ヴァニラさん、これはどういうことですか」

 

(絶対零度にゃ)

 

「ふぅん、この人形がそうなの……」

 

(おぉ、こっちも負けず劣らずってやつだね)

 

お、何だ修羅場かと周りの人形も察すれば巻き込まれたら洒落にならんと距離を離し始める、一触即発の空気、互いに見定めるような眼で見つめ合う中、ヴァニラはどうすれば良いんだと混乱に陥った思考で考える、無論そんな状態で思い浮かぶはずもないのだが。

 

このまま泥沼な言い争いか、はたまた直接対決か、どうなるんだという空気の中、先に動いたのはPA-15、彼女はイベリスの方に歩き出し、そしてククッと何やら含み笑いをしてから

 

「なぁんて、冗談よ冗談、いやぁ久しぶりにいい刺激をあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!????」

 

くるりとイベリスに背中を向けてからヴァニラに向けば無表情だったはずの顔は先ほどと同じ様な悪戯っ子の様な笑みを浮かべて、声も見た目早々の少女らしい声でそう告げた瞬間、イベリスの無言のアイアンクローが彼女を襲って獣のような叫び声を上げてしまう。

 

「あまり、大人をからかうものじゃないですよ?」

 

「い゛だい゛!い゛だい゛い゛だい゛!!ご、ごめんばざい!」

 

「い、イベリス、それくらいにしておいたほうが、いや、ほら、私もその、昔のことでその、ね?」

 

「その件については後で話し合いましょう?」

 

あ、はいと自ら墓穴を掘ったとヴァニラは今日何度目か分からない冷や汗を流しながら思いつつ、漸くアイアンクローから開放されて頭を抑えているPA-15に

 

「で、何であんな事したのよ」

 

「……少しはまぁ、仕返ししてやろうかなって」

 

「あ~、まぁ、その、ごめん」

 

どうやら彼女に対する気持ちは多少なりと本気だったようだが別段ショックとかではない、ただ返事もなしに消えたことに対する報復である、まぁ結果として自分もダメージを受けることになるとは思ってなかったようだが。

 

PA-15、何よりも刺激を求め意外にもマルチに色々出来るらしく、更には読書が趣味という可愛らしい一面もあったりする少女である。




でもヴァニラに対する気持ちは少しは本当だったりする。

という事でPA-15ちゃんです、P90?何のことだよ……くそぉ……

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