それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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時系列的には多分、コラボ話の前。


ひなダッシュちゃんの逆襲

覚えているだろうか、ほぼ一年前のひな祭り、まだこの基地に来てばかりだったアーキテクトが思い付いたという彼女らしい理由だけで作ったひな壇の存在を。

 

あの日、誤作動寸前だったそれを一〇〇式が渾身の蹴りで稼働停止させたそれを、彼女たちはあれで壊れたと思っていた、アーキテクトですらそう思い当時は泣く泣く倉庫に仕舞い込み今はもう忘れてしまっているひな壇こと自走式ひな壇【ひなダッシュちゃん】はモノと埃に塗れながら停止したはずの電源が独りでに入り

 

『ガガッ、ガッ、キュイーン』

 

これは一年前の彼女の発明品がキャロルを襲った喜劇、もとい悲劇のお話である、尚、動き出したその場に少女の驚いた声がしたが勿論ながら聞いたものは存在しない。

 

その日、キャロルは珍しくFive-sevenに抱えられること無く、なのでジャージに白衣という姿で基地を歩いていた、普段のオフの彼女であれば基本的に抱えられているはずだと言うのに一人で歩いているということに周りの人形は驚いているがキャロルは別に意に介したりはせずに向かったのは、大倉庫の一角、彼女が此処に来たのはラボの研究にて使う機材が此処にあると聞いたから、一人では危険ではないかと92式に言われはしたが何も大きいものではなく小道具なので問題ないとの事。

 

だが彼女はこの選択を後悔することになる……

 

「さて、探すか、直ぐに見つかるといいんだがな」

 

整理はされてはいるのだがそれでも広大な倉庫の中、そんな空間から目的のものを一つ見つけ出すとなると中々の動力なのだが彼女は自分があまり疲労を感じないことを良いことに奥へ奥へと探していく、途中でやはり誰か誘うべきだったかと若干思いながら数十分が経過した時、漸くお目当てのものを見つけることが出来た。

 

「やっと見つけた、まさか此処まで奥にあるとはな、と言うか思えばアーキテクトに頼めばあそこのラボならすぐに出てきたかもしれんな」

 

あまり人に頼るということを覚えなかったツケかと苦言を漏らしつつ見つけた道具を持ってきていたカバンに仕舞ってから帰るかと踵を返した瞬間、彼女の耳が何かの駆動音を拾った。

 

勿論、何がと振り向くだろう、ここは倉庫であり駆動音がするものと言えばラボも面々が開発したというお手伝いロボ位なのだがそれにしては微妙に違う音、あれらは二足歩行、もしくはダイナゲート宜しく四足、または無限軌道の筈なのだが彼女の耳に届いたのは車輪が走る音、だからこそ気になり振り向き、次の瞬間キャロルは倉庫の出口に向けて走り出した。

 

(な、何だあれ!?)

 

普段の彼女、いや、今日までの彼女では見たことのないほどに血相を変えた表情で走りながら振り向けば居たのはひな壇、だがその下部には4つの車輪が着いており、側面からは如何にもなロボットアーム、先端は何故かマジックアームのそれを生やし明らかにキャロルを狙って爆走してくる姿。

 

彼女が知らないのも無理はない、あれは一年前にアーキテクトが制作し稼働を停止したと思われて倉庫にしまわれた発明品、自走式ひな壇『ひなダッシュちゃん』何が起きたかは不明だが今日まで眠っていた筈なのに急に再起動してどういう訳かキャロルを追っているらしい。

 

「あぁ、くっそ!絶対にアーキテクトだろ!!!」

 

大正解である、そして向こうは四輪での爆走、対してキャロルは走っての逃亡となれば結果なんて火を見るより明らか、このままでは捕まってしまうのも時間の問題、そんな事は彼女とて分かっているし逃げ切れるなんて希望的観測はとうの昔に捨てているとばかりに振り向いて、両手を爆走してくるひなダッシュに向ければ、腕に隠された久しく使ってなかった自己防衛装備の一つである銅線が細切れにせんと射出されたのだが、ひなダッシュは

 

「弾いただとっ!?何だこいつ、何を想定して作ったんだよ!?」

 

いよいよ余裕が消え始めたキャロル、その証拠に口調が普段のそれではなくなりつつある彼女は効かないと判断すると同時に逃げに徹するが先ほども言ったが彼女の脚では逃げ切れるわけもなく詰められ始める距離に比例して焦り始める思考、追い詰められる心、どうしてこういう時に限って周りに誰も居ないんだよと思いながらそれでも脚だけは止めない。

 

誰かに助けを求めなければ捕まる、だが誰も居ない、そんな時に人間というものは一番始めに思い浮かべた人物の名前に縋ることがあるらしい、何が言いたいか?それは

 

「た、助け、助けて57!!」

 

「きゃ、キャロル!?」

 

天が味方したのか、それとも偶々このタイミングで彼女が現れるというのは神の悪戯か、ともかくキャロルが叫んだそのタイミングに通りかかるように現れたのはFive-seven、叫ばれた本人は何事かと見れば謎のひな壇に涙目で追われているキャロルの姿。

 

それを目視した瞬間、Five-sevenの眼が作戦時のそれと変わった、事情とか一切合切不明だがキャロルが襲われている、それだけで彼女にスイッチを入れるには十分な理由であるとばかりに愛銃をホルスターから抜いて構え

 

「落ちろ……!!」

 

二発の短い発砲音、少ししてからスパークを上げる音と同時にロボットアームを力なく垂れさせて機能を停止するひなダッシュちゃん、それを確認してから息を吐いて銃をホルスターに仕舞おうとしたタイミングでボスっと衝撃を感じ下を見れば、余程の恐怖を感じたのだろう、普段からは考えられない震え方をしている少女にFive-sevenはしゃがみ、視線を合わせてから小刻みに震え怯えているキャロルの頭を撫でながら

 

「よく頑張ったわね、よしよし、もう後でアーキテクトは叱らないといけないわね……」

 

「グスッ、ヒグッ」

 

「(我慢、我慢よ私、ここで一気に信頼を稼がないといけないの、だから我慢よ)大丈夫だから、もうあれは動かないから、ほら」

 

ギュッと安心させるように抱きしめて落ち着かせることに、この間、誰にも見られなかったのはキャロル的には幸運だろうし、Five-seven的にも邪魔されずに彼女を抱き締めて満喫できたので良かった事だろうが、数分後キャロルはと言うと

 

「……忘れろ」

 

「ふふっ、そんな事言わなくても誰にも言わないわよ」

 

「黙れ、良いから忘れろ」

 

顔を真赤にしたキャロルとニコニコ笑顔でFive-seven、それは何時ものように抱えられながら移動してる時でも変わらずに何があったのかと聞かれても二人は答えずに真相は二人の中である。

 

最後にだがアーキテクトはその日、一日姿が見えなかったらしく、翌日に現れた彼女は黙ってひなダッシュちゃんを解体していたらしい。




因みにひなダッシュちゃんがキャロルを追った理由は当時作った時にユノっちをお雛様の位置に収納するように設定されており、キャロルとユノが同じ姿だったせいだった模様。

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