それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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因みに彼女は曲の好みは特に無い、何でも聴いてどれも好きだって言う


貴方の曲は何ですか?

彼女にとってその音楽は慣れ親しんできたものだった、何時からこんな芸当ができるようになったとかは始めの頃は考えていたのかもしれないが今となってはあまり気にせずに、使えるものなのだから使おうというくらいの感情しか無い。

 

今日も今日とて愛用のヘッドホンからはご機嫌なアップテンポの曲が流れる……が、この基地の彼女を初見で見た時に疑問に思うだろう、彼女のヘッドホンの先、本来であれば音楽を再生する機械に繋がれているはずのそれがないという事に、それだけならばワイヤレスヘッドホンなのかもと思われそうだが、そもそもにして彼女の手持ちにはその手の機材は一つもない、しかし彼女にはヘッドホンから音楽が聞こえる。

 

「~♪」

 

何とも不可思議な光景だが彼女【AEK-999】通称バルソクは聞こえてくるその曲を口遊みながら閉じていた眼をゆっくりと開いてニヤリと笑みを浮かべた、刹那先程までご機嫌なアップテンポの曲が激しいロック調の曲に切り替わり

 

「バルソクだ、そろそろ来るぞ。テメェら、遅れるなよ!」

 

「冗談染みた察知能力ね……まぁ良いわ、蜂の巣にしてあげる」

 

そしてバルソクの言葉通り、曲調が変わってから一分としない内に今回のターゲットの集団が目標地点に現れたと同時に周辺で張っていたMG部隊の一斉射で壊滅、これにより作戦が完了するのだが此処で驚く点をあげるとすればナデシコによる予測進路は彼女達は分かっていたのだがその後のいつ到達するかなどの情報は今回はナデシコが使用できない場合を想定して教えられてなかった。

 

だと言うのにバルソクはそれを言い当てた、曰く曲を聞いただけというのだがこの現象に関しては誰もはっきりとした原因が分からないでいる、コレではないかという部分は勿論出ているのだがそれが明確にそうだとは断言できない、普通であれば自分の事とは言え気味が悪いと思うはずなのだが当の本人は

 

「ん~、まぁ困ってないからな~」

 

という態度なのであまり深く原因究明もされていない、ともかくそんな彼女は先程のように予測も出来るのだがこの能力の真価は他者と接した時に発揮される。

 

曰く、ヘッドホンから聞こえる曲はその人物の心境を表しているらしい、しかも表面ではなく本人でも気づけてないような深層心理に近いものだと、そんな話を聞いたVectorはその日、何時か聞こうとすっかり忘れていたとばかりに偶々休憩所でばったり出会ったので

 

「指揮官の曲?」

 

「えぇ、思えば貴女の口から彼女のことに関してはあまり聞いたこと無いなって思ってね」

 

「確かに聞かれなかったし積極的に言う話でもなかったからな、でも何で急に」

 

「興味本位ってやつよ、童話でも流れてたら面白いなとか決して思ってないわ」

 

思いっ切り思ってるじゃねぇかと彼女から聞こえる曲から苦笑いを浮かべながらバルソクは一番始め、この基地に来たばかりの事を思い出してから、語り出す。あの日、まだ彼女の秘密が殆ど明かされてないあの頃の彼女から聴こえた曲は……

 

「彼女らしい明るい曲調、だけど集中して聞いてみると、そうだな『あべこべ』って言えばいいかな、そんな印象を抱いたな」

 

「あべこべ?」

 

「あぁ、確かに曲は明るいし歌詞もそれに則って明るい感じなんだが歌詞の中に、彼女が居なかったって言えばそっちだって分かるだろ?」

 

その言葉にVectorはすぐに納得できた、当時の彼女は何処まで言っても人 形(わたし)達の為の存在だったなと、そのためならば自分の無茶を無茶と入れない位に悪い意味で真っ直ぐだったなと。

 

だが彼女の口ぶりからは今は違うように思えたVectorは続きを促してみれば

 

「でも今は曲調とかは変わってないけどそこに彼女が混ざっているし、さっきは言わなかったけど前は若干後ろ向きだった部分もあったがそこも無くなってる、だからこう、曲として完成されつつあるって感じになってるな」

 

「なら良かったわ、所で副官とかは聞いてみても?」

 

「副官はどっしりとした、うーん、穏やかな感じな曲だな、何だ他の奴も聞きたいのか?あまり好きに話すことじゃないんだがな」

 

バルソクとしてはこの聞こえる曲というのは本人ですら思っていないことも歌詞として乗せてしまうことがある物、なのであまり根掘り葉掘り聞かれて答えるのは正直好きではない、先程は困ってないとは言ったがその事を聞いてしまうというのは少しだけ不便だなと思ったことは無くはない。

 

そこまで言われてしまえばVectorは冗談よとそれ以上は聞かない、彼女も似たようなことが出来てしまう身としては彼女の悩みも分からなくはない、まぁ彼女の場合はそれでもサラッと解読してしまうことがあるのだが。どうであれ聞きたかったことは聞けたのでと立ち上がり休憩所を出ようとした時、バルソクから待ったが掛かり振り向けば、言おうかどうしようかを悩んでいる彼女の姿。

 

「……私の勘違いなら良い、なぁあんた何を封じ込んでるんだ?」

 

曲が入り乱れて、しかもノイズまで聴こえる時がある彼女はそう続けてからもう一度問いかけられればVectorの表情がバルソクが見たことのない動揺に近いものになっているのを見て逆に驚かされた。

 

対してVectorもまさかそこを気づかれるとは思ってなかったとばかりに思考が一瞬止まる、その瞬間、彼女の電脳を何かが侵食する感覚に襲われて声を堪えながら右手で右目辺りを抑えてから、急に異変が起きた自分に驚き近寄ろうとしたバルソクに左手で静止してから

 

「大丈夫、ふぅ、ごめんナさイ、ちっ。ちょっと驚いただけよ」

 

「おい、本当に何を抑え込んでんだそれ、いや、防いでる?」

 

「……」

 

沈黙が流れる休憩所、だがバルソクのヘッドホンから聞こえる彼女の曲はノイズと激しくも切ない、そんな不思議な感じの曲。何より一瞬だけ見えてしまった右目は普段の彼女の眼に色ではなく、ユノやキャロルと同じワインレッドに変色していた、更に言えば見える肌も何処と無くハイエンドモデルと近い色合いの白に見えてしまう。

 

「おい、不調ならすぐに診て貰えよ」

 

「そうね、余程マズくなったら診てもらうつもりよ」

 

嘘だ、バルソクはそれをはっきり感じたが口にはしなかったし、その間にVectorは体調が戻ったのか心配掛けたわねと休憩所を出ていってしまった、だがその時の目が、曲がこう告げていた

 

【黙ってて頂戴】

 

「ハハッ、こりゃ何が起きるんだろうな」

 

分かんねぇなとバルソクは缶コーヒーを飲んでいる時、Vectorはと言うと休憩所から出ていった少ししてからまた右目を抑え息を整えていた、とても普段の彼女とは思えない様子だがこの事に気付く者は誰も居ない。

 

「まだ、雨は降ってないわよ」

 

だから閉じてて頂戴。その言葉の真意がもし分かるものが居ればそれはアーキテクトか、キャロルだろう。




バルソクさんの話って書いてなかったならか何故かVectorに何かぶっ込んだ。

まぁほら彼女は色々とコアも特殊だし、此処最近でエルダーブレインも一度この基地に来てるしって辺りが肝かもしれない

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