それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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されど、正面から攻めるよりも楽である


遠回りな一手

まず初めに疑うべきだった、いや、もっと前からその前兆はあったというのにそれを見逃していた事にVectorは自嘲気味に笑う。

 

まだキャロルがエルダーブレインのダミーだった頃の襲撃で電脳内での出来事だと言うのにユノの首を絞める手の感触がはっきりと分かるくらいに自分と向こうは繋がりが存在していたのは分かっていた。だからこそあの襲撃の際に出てきたエルダーブレインにも本来であれば警戒をするべきだったと。

 

だと言うのに自分はそれを怠った、言い訳をするとすれば本丸まで攻められて詰み一歩手前だったから意外と自分が冷静ではなかったのかもしれない、しかしそれでもこの可能性は考慮するべきだったと。

 

(平和ボケ、かしらね……)

 

裏から離れて、それでも常在戦場と言う気持ちは忘れたことはなかったつもりだったがそうではなかったと言う事実。

 

(あの置き土産でのナデシコの電脳の破壊、それが目的だと思わされた。でも本命は『こっち』だったというわけね)

 

思えば彼女は最低限の目標と言っていたがよもやそれが自分だったとは考えてなかった、それが冒頭の彼女の独白に繋がる。

 

此処でおさらいをしておこう、この基地のVectorは素体もコアも鉄血側のハイエンドモデルのものが使われており、コアに至ってはエルダーブレインのものが一部混ぜられている。その結果、彼女はあらゆる人間にも友軍にも銃を向けられる存在になったのだが、今はそのコアの部分が彼女に悪さをしていた。

 

異変が始まったのはあの日の襲撃の後、何時ものように雑多に流れていくあらゆる人形の抽象的な思考の中に明確にこちらに向けられたものに気付いたのが始まり、しかしコレ以降感じなくなったので気の所為だったかと思っていたのだが此処数日になって侵食という形で彼女を乗っ取らんとその時の思考が襲い始め少しずつ時間を掛けるようにVectorを飲み込み始めていた、それでも抵抗を続けていたのだがある日。

 

c 4 w e よ l t q い(想 定 よ り 堅 い)

 

聴こえたノイズ混じりの声にVectorは目を見開いた、同時にこの侵食の正体にも気付き、自分が如何に平和ボケをしていたと後悔してしまった。

 

その正体はエルダーブレイン、しかもご丁寧にあの襲撃の際の撤退に向こうは先に逃げたと思っていたのだがどうやらステルスを張っていたらしく爆発する寸前、離脱直前のVectorに打ち込んだのか【傘】と呼ばれるウィルスに感染させられておりそれを足掛かりに一気に攻めてきていた。

 

何時だったかVectorはナガン達に自身が鉄血の思考が読めると言っても向こうからもこっちからも何か出来るわけではないと説明したし、長らく自分もそう思っていたのだがどうやらその認識はあまりに甘かったらしい。

 

そもそもにして素体はウィンチェスターが居るが、コアまで鉄血のを混ぜてますは自分しか居ない、だと言うのに断言していたことすら考えるとどうかと思ってしまう。

 

「にしても、マズイわね……バルソクが何も言わなきゃ良いけど」

 

昨日の出来事を思い出す、偶々休憩所で会ったからと雑談をしてから去り際に向こうからあんな質問を飛ばされるとは考えてもいなかったが故に動揺し多少の侵食を許してしまった。

 

一応言外で黙っててとは伝えたつもりだが彼女はあれで根が良すぎるし意外と真面目だ、しかしもしこの事が彼女経由で発覚したとしてもVectorはすっとぼけるつもりだったりする。

 

(今の所、私からウィルスが他の誰かに感染った、誰かが異常が出たなんて話は聞いてないけど、中身を見られましたとなればエルダーブレインがどう動くか分からないのよね)

 

良くて自分を口封じのために電脳から殺す、それならば被害は自分だけなので基地の面々はショックを受けるだろうけどまだ軽い方なので問題ない。

 

しかしもしウィルスの拡散、もしくは侵食の強行と言う方面に動いたときが最悪であると考えており、だからこそ最近ではあまり他者との接触は最低限にしている、昨日の件があるので完全には断っていない辺り彼女らしいとも言えるのだが。

 

「ともかく、今は彼女を信じるしか無いわね……っ」

 

] だ な w e こ 4(無駄な抵抗)

 

「何言ってるか分からないけど、貴女の好きにさせるつもりはないわよ」

 

ノイズで殆ど聞き取れないがこの様に向こうから何かしらの問いかけが来るときもある、始めの頃は本当に稀だったのだが今では一日に数回は来るのでVectorも若干焦りを見せている、あまり時間は残されていないのかもしれないと。

 

しかし、こちらからはどうにもならないでいるのも事実である、一応抵抗をしているにはしているのだがこのファイアウォールも何処まで持つかなんてわからない。ともすればやはりこの基地の優秀とも言える彼女達に頼るしか無いのかもしれない、出来ることならば秘密裏で

 

なんて考えていたのがいけなかったのか、唐突に叩かれた扉に思考を打ち切ってからゆっくりと椅子から立ち上がり

 

「はいはいっと、あら、指揮官に副官じゃない……世間話でもしに来たって空気じゃないわね」

 

「Vector、その」

 

「単刀直入に聞くぞ、お主何を隠しておる」

 

ユノがどう聞いたものかと悩んでいる様子だったがナガンは彼女の前に出ると前置きも何もなしに彼女に言葉を突きつけ、突きつけられたVectorはそっと二人の奥を見れば、あぁと納得する。

 

「バルソクから聴いたのかしら?ふふっ、平気よ、ちょっと調子が悪かっただけ」

 

「今もか?だとすりゃ随分と長い不調だな、ヴァニラなら空いてるぜ?」

 

「そうね、落ち着いたら「Vector」ん?何かしら指揮官」

 

その声はとても聞き覚えがある感じだった、こういう時は何かしらの決意が決まった時だと、だからこそVectorはユノを見つめれば彼女は最近は見なかった指揮官としての表情をしてから

 

「指揮官として命令します、Vector、貴女に何が起きてるのか聞かせて下さい」

 

それはこの基地に来て、初めて聴いた言葉だった。勿論、命令というのは何度も聞いているのでそこではない、彼女はこういった【指揮官として】それが彼女達は初めてだった。

 

立場を明確に表しての命令、それは人形である彼女達からすれば絶対の命とほぼ同じのそれを彼女は行った。つまりはそこまでして聞き出したいのである、だがそれは彼女とて本心から使ったというわけではないだろう、何故なら

 

「そんな辛い顔するくらいなら使わないことね」

 

「だって、Vector今も辛そうな顔してるから、お願い力になれるかもしれないから話して」

 

彼女にそこまで言わせてしまえばVectorはどうしようもない、彼女もユノのことを気に入っている人形の一人なのだから、だからVectorは三人を見据えて短く告げた、自分は今

 

「エルダーブレインからの干渉を受けているわ」

 

その日、Vectorを救うための戦いが幕を開けた。




という事で昨日のお話からの派生です、多分この作戦が終わるとVector姉貴に変化あるんじゃないかなって思う。

尚、何話になるかは不明な模様

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