それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「状況報告!!!」
「見ての通りですよクソッタレ!再ダイブは不可能、現在原因を探ってますが十中八九あそこのエルダーブレインでしょうね!」
FMG-9の怒号にも似た報告に苛立つ表情を隠さずにモニターを見つめるキャロル、彼女は即座にこれらがエルダーブレインによって巧妙に仕組まれた罠だと気付く、そもそもにして可笑しかったのだ。
エルダーブレインとも言える存在が何故侵食に気づかせるような真似をしたのか、態々語りかけるなんてことをしなくても良かったと言うのにそれを行った理由を。向こうはあれ以上Vectorに潜り込めなかったのだ、言うなれば彼女のファイアウォールは偽りなしの難攻不落の城壁とも言えるそれだった。
だからブラフを貼ったのだ、自分達は彼女に何回も語りかけるくらいまで侵食していると、そうとなれば……
「Vector、Vector聴こえてる!?Vector!!!」
「落ち着け指揮官!ヴァニラ、何が起こっている、いや、Vectorが完璧に呑まれたのは分かるが、何故じゃ」
この仲間の危機となれば見捨てるなんて選択肢を取るはずのないユノが間違いなくVectorを救おうと動く、そしてVectorはVectorでプライドがあり好き勝手していた相手を倒せると知れば自分からダイブしに来るだろう。
「本体であるVectorが電脳に潜れば彼女が自身で行っていた防御が一瞬とは言え無くなる、エルダーブレインはそれを狙ったのよ」
「潜り込ませること事態が目的だったってことか……」
まんまとしてやられた、だがキャロルは首を振る、確かにVectorを完全に掌握するまではヤツラの計画だっただろう、しかし今この状況で向こうにも想定外がある。
トゥーマーンとウィンチェスターだ、弾かれた三人の話だとダイブ中に何かが飛んできたのをいち早く察したのはトゥーマーンであり、彼女はサラッと一番近かったウィンチェスターと共に三人の後方に下がり回避していたという。そして結果が今睨み合っている二人となる、これがもし全員弾かれていればVectorは向こうの手に完璧に落ちていただろう。
「ヴァニラ、ネクロノミコン持ってきて下さい!こうなりゃ無理やりぶち破る!」
「トゥーマーン、ウィンチェスター聞こえるな、現状でこちらから増援を送ることは出来ない、だから何とか二人だけで時間を稼げ!」
FMG-9が切り札とも言えるネクロノミコンを使うと判断、それと同時にキャロルから二人に指示が飛ぶのだがそれを聞いたトゥーマーンはエルダーブレイン達を睨みながら半ばヤケクソ気味に叫んだ、彼女は思う、自分は何度も言うが正面で斬ってはったするような人形じゃねぇんだと
「マスターは無理難題を仰る!ああもう、分かってますよやれば良いんでしょやれば!!てか、アンタの先輩でしょ、なんとかしなさいよ!」
「出来たら苦労しないわよ、思考も点で読めない……ちょっと冗談キツイんじゃないかしら」
ウィンチェスターが軽い口調でVectorに語りかけるが彼女は答えない、答えないが銃口は向けられたままなので敵対しているのははっきり分かる。
その様子に同時に舌打ちする二人、状況が悪すぎると。Vectorだけでも十分荷が重いと言うのにそこに代理人とエルダーブレインまで含めれば数でも完璧に負けており勝てるかどうかの以前であり、しかし逃げれない状況なのでどうにか打開策を電脳で探っていると代理人が体制そのままに
「ご安心を、お二人には痛みもなく一瞬で終わらせてあげますので」
「……おい、ウィンチェスター、お宅の先輩だけが相手ならどこまで時間を稼げる」
「さてね、でも持たせろって言うなら一対一なら何とかしてあげるわよ」
それを聞いたトゥーマーンは覚悟が決まったという顔で笑う、ウィンチェスターは言った一対一でならと、だが忘れてはいけない此処に居るこのハイエンドモデルは撹乱に特化している人形だということを。
騙し討ち、嫌がらせ、煽り、ありとあらゆる搦手や小細工は彼女の十八番、だからだろう
「ならあのメイドとガキンチョはアタシが相手してやるよ!」
「狂いましたか、たかが貴女一人が私達に勝てるとでも?」
「ハッ!こっちがいつ【二人だけ】って言ったよ!!」
彼女の言葉にウィンチェスターが意図に気付き走り出す、相手は勿論Vector、それを確認したトゥーマーンが両手のレーザーブレードを展開、自身が出せる速度で代理人に接敵せんと駆け出すが直線すぎるその行動を彼女が外すはずもなく無慈悲にサイドアームの銃口から放たれた弾丸に貫かれ
ウィンチェスターも接敵と同時に攻撃を放つがまるで読まれていたとばかりにカウンターの貫手が彼女のコアを貫く、大口を叩いておいてこの程度ですか、代理人がそんな事を口にしようとした刹那、機能を停止させたはずの二人の口元が弧を描き
「ヴァ~カ、誰がお行儀良く戦うかってんだ」
これでもかと馬鹿にした声が電脳内に響き渡った、瞬時に周囲を警戒する代理人、だがその行動はもう少し早くにするべきだった、何故なら彼女が見た頃には辺り一面にトゥーマーンとウィンチェスターの実体のそれと殆ど差異のないホログラムが大量に展開済みなのだから。
しかもそのどれもが自立して動いている、更に厄介なのが所詮はホログラムだとばかりに代理人が斉射するのだがそのどれもに当たり判定が生まれているということ、そこで彼女は性能だけで見下していたトゥーマーンこそ、この電脳空間では一番警戒するべき存在だったと気付かされた。
「リアルじゃ見た目だけのハリボテだけど、ここは電脳空間、私も貴女も数字の存在……ならどうなるか?悪いわね、数の暴力を実行させてもらうわ」
「嘗めた真似を!!」
「褒め言葉よそれ、んじゃまっ!?」
数滴有利を擬似的にとは言え作り出したトゥーマーンが調子よく語ってから反撃しようとした瞬間、分身ではなく本体の自分の目の前に現れたのは紅い瞳にVectorに驚愕の声を上げてしまう、この数の中から的確に本体を狙ってきた彼女に
(バケモンかこいつっ!間に合わなっ……)
「せえええい!!!」
無慈悲にも貫かれようとした寸前でウィンチェスターの右膝蹴りでの横槍が入り弾き飛ばされるVector、だがそこで手を休めることはせずに彼女は追撃に向かうがVectorは即座に受け身を取り反撃を繰り出す
そこから始まるのは互いに銃を捨てた格闘戦、だがトゥーマーンがそれを見ている余裕はない、先程の攻撃で本体である自分がバレてしまったが故に現在進行系で代理人からの弾幕に晒され、何とかレーザーブレードと分身で凌いではいるのだが彼女には遠距離攻撃がないためにジリ貧になるつつある。
「小賢しい、さっさと死になさい虫ケラが!」
「にゃっろ、マスターまだですか!?」
《FMG-9がネクロノミコンと接続した、後数分耐えてくれ!》
その数分ですら厳しいんですけどと叫ぼうとした時、代理人からではない砲撃とも言える攻撃に分身を挟んでも防ぎきれなかった爆発に巻き込まれて転がるトゥーマーン。
「騒々しい、黙って死ね」
「あっはは、置物じゃなかったんですねそのエルダーブレイン……」
それと同時にホログラムが消え始める、幾らトゥーマーンと言えどこれを永久に出すことは出来ない、更に状況の悪化は止まらずにチラッとウィンチェスターの方を見ればいよいよ諦めの笑いが浮かんでしまった。
「ガハッ(全部、読めれてる!?)」
「……」
恐らくは一分と無かった戦い、結果はご覧の有様。FMG-9のネクロノミコンによる突破もまだ少しだけ時間があるとなればいよいよ詰んだかと苦笑いを浮かべるトゥーマーン、ウィンチェスターも同じ感じであり向かってきて銃口を向けてきたVectorにニヒルな笑みを浮かべてから
「ふふっ、一言も言わずにってのは愛想悪くないかしら?って言ってもどうしようもないのだけど、ごめんなさい、後はたのんd『全く、見てられんなグリフィン共、それでも私を一度は倒した者か?』え?」
声と同時にVectorの体が吹き飛び、倒れ伏せるウィンチェスターの前に数字が誰かを型どるように集まり弾け現れた人物は風もないというのに靡くツインテールの片方を手で払ってから
「ほれ、驚きの声の一つでも上げたらどうだ、死者の凱旋だぞ?」
始まりも終わりもない完全なるもの、その名を冠する人形が戦場を見渡しニヤリと笑った。
いくら分身を張っても射撃武器が無いからね、悲しいねトゥーマーン……
多分、次回とかに終わるんじゃないかな、タブンネ