それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
その日、副官ことナガンは執務室で一人黙々と作業を進めていた、ついさっきまではユノも居たのだが彼女はクリミナと共に医務室に定期診断を受けに行ってしまったので暫くは帰ってこないだろう。
ペンが書類を走る音だけが支配する空間、その彼女のデスクの上には写真立てが一つあり、中に飾られているのはユノの結婚式の集合写真、まだナノマシン投与前であり彼女が言うには凄く重かったというウェディングドレスに身を包み同じくウェディングドレスに身を包んでいる伴侶のクリミナと、突然の招待だったというのに集まってくれた繋がりのある面々に囲まれて太陽のような笑顔を咲かせているユノ。
懐かしいなと思えるそれを見ていると執務室の扉がノックされて返事をすれば
「失礼します、お嬢様からの指示で書類仕事の手伝いに参りました」
「あやつが?なんじゃ、検査が長引きそうなのか?」
「いえ、何時も通りかと、ですが本日は少々多めだということでしたので」
確かに今日の整理する書類は普段、というよりも昨日と比べれば確かに多い感じはある、だがそれでもユノが戻ってくるまでに大方自分一人だけでも終わらせられる量なのだがとナガンは思いつつもユノが気を利かせたということならば甘んじて受けるかと思い直し
「では頼めるか?……あぁ、その前にコーヒーでも頼めるか?ちと休憩にしたいのじゃ」
「畏まりました、直ぐにご用意いたしますね」
く~っと伸びをする、そこまで座っていた感覚はないのだがそれでも身体が固くなっていることには変わりなく、これはMOD化の素体になっても改善されるわけでもないかと内心では苦笑しつつG36が淹れるコーヒーを待つ。
それから数分としないでコーヒーと、買い置きされていたお茶請けのクッキーを乗せたトレイを持ってG36が戻ってくれば例の集合写真が入った写真立てを見つめるナガンの姿。とりあえず声を掛けてからコーヒーとお茶請けのクッキーを片付けられたデスクの上に置いて覗き込み
「どうぞ、コーヒーですってあら、それはお嬢様の結婚式ですよね」
「おぉありがとうな、うむアヤツの結婚式の集合写真じゃよ、懐かしいと思ってな」
「何だか凄く前なような気がしますけどそれでも一年前なのですよね……」
そう、この結婚式は一年前の出来事である。G36の言葉に一年が濃すぎるのじゃよと言葉を漏らそうとしてふと口が止まった、しばし固まってから写真を見つめる。
しかしその視線は写真の中のユノ達ではない、その右隅、撮影した日付と時間が書かれたそれを見てから、卓上カレンダーに視線を移して、それからまた写真に視線を戻す。
一体何が、G36の心情はそれだけである、しかもその際のナガンの表情はかなり真剣なものなのも彼女の疑問を加速させる要因となっている、ともかくどうしたのかと聞こうとした時、ナガンからこれまた真剣な声で
「のぉ、あの二人……結婚記念日とかを祝ってたという記憶はあるか?」
「はい?」
「だから結婚記念日じゃ、わしとしたことが一年が濃すぎたが故にバッサリ忘れておった、と言うかもうとっくの昔ではないか……」
ほれと見せられた写真の日付を見て、それから今日が何日だったかを思い出してみればナガンの言葉にも理解が持てた。それからユノとクリミナがそんな事を言っていたかと思い出してみれば
「そのような話は聞いてませんね、確かその時はMSFからの依頼でバタバタしていたかと」
「それもあったな、いや、それを加味してもわしらもあやつら夫婦も忘れてはならぬじゃろうて」
「え、あの、結婚記念日と言うのは二人だけでそっと祝うようなものでは?その口ぶりだと基地で祝おうという感じに聞こえますが?」
「呵々、どうせこの話が漏れれば嫌でも盛り上がるじゃろうて、ならば最初からそれ前提で話したほうが楽じゃろ?」
確かにこの基地は祝い事となると大いに盛り上がりますがとG36が苦笑交じりに答えればナガンはまた一つ笑ってからコンコンとデスクを指で叩く、また謎の行動に疑問符が絶えないG36だったがガコンと執務室の天井のタイルが外れそこからヒョコッと顔を出したのはルピナス
「!?」
「呼んだ?おばあちゃん」
「……あぁ、トラップの整備か。まぁよい、ちょいと時間いいか?」
「ん、2分頂戴、後此処だけだから」
それだけを告げてまた出てきたところから戻り、きっちり2分後、今度は扉からルピナスが現れる。因みにG36はてっきりまた同じ場所が開くとばかり思っていたので上を眺めており、入ってきたルピナスに何してるのと聞かれて固まる一幕があったとか。
余談は置いておき、入ってきたルピナスがソファに座ったのを確認してから実はなと結婚記念日についてのことを話してみれば
「それってとても大事だよね?」
「うむ大事じゃな、まぁあの二人が喧嘩別れなぞありえぬが何事もなく幸せに一年が過ごせたということは祝うべきじゃろ、特にこんな世界ではな」
「よし、じゃあ皆と会議してくる!」
頼んだぞと告げればルピナスは笑顔で執務室を出ていく、出際に通信でステアーとシャフトも呼んでたので恐らくはこれから自室に集合してどうするかの娘会議を始めるものだろう。
それで後はどうするのかと思えば
「そうさな、誕生日のときのように食堂で祝うのも悪くはないじゃろ」
「何だか大事になってません?」
「呵々、どうせ向こうも忘れていたことじゃ、ならば盛大に祝ってやって次からは忘れないようにするのが老婆心とかいうやつじゃよ」
コレ絶対に二人の反応が見たいだけな気がするのですがとG36が口にしなかったのはしても無駄だと思ったからなのか、はたまた楽しそうなナガンに水を差すのは悪いと思ったからなのか……
こうしてユノとクリミナには悟られないように一日で済ませられる程度の結婚記念日祝いの準備が始まった、しかし全員が全員で動けば勿論バレるので殆どは普段通りに過ごしているが
「なんだ、急に騒がしくなったな……」
「ん?あ~、確かにそうかもな、まぁでも出撃とかじゃねぇなら大丈夫だろ」
「そういうものか、チェック」
「……これはチェックメイトですね」
アナの一言でんなっ!?と声を上げるノアにお前本当に弱いなと呆れるキャロル。何がどうしてそうなったのか、チェスを楽しんでいたノアとキャロルはそれを感じ取っていたりするが、それ以外は特に何もなく、準備が進められるのであった。
因みにリアル換算だと二人の結婚記念日は丁度一ヶ月前です、コレを専門用語でうっかりと言います。
という事で怪我の功名みたいな形で明日の600話は結婚記念日だ!