それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
エルフェルトは激怒した、必ずあの少し抜けてるオシドリ夫婦にこの記念日の重要性を説かなければならないと。エルフェルトには他人のうっかりという概念がわからぬ。エルフェルトは愛が知りたいがために愛に生き、街に出れば婚姻届を片手に男性に迫る日々を過ごしていた(大迷惑)けれども『結婚』と付いている単語に対しては人一倍敏感であった。
今日未明、エルフェルトは何時ものように警邏を終えて帰ってきたと思えば少し騒がしいなと言う基地の様子に何かあったのかと首を傾げていると偶々通り掛かったG36が彼女に
「あぁ、丁度良かった、少し宜しいでしょうか?」
「え、はい大丈夫ですけど……何かあったのですか?」
「いえ、悪いことではありません、実は私もですがお嬢様とクリミナの結婚から一年経ってたことを忘れてまして、恐らくは二人も結婚記念日を忘れているだろうとって、エルフェルト!?」
「すみませんちょっと用事を思い出しました!!」
結婚記念日を忘れるとは何事か、彼女の思考は一瞬でそれに染まった、エルフェルトとしては一月前には二人っきりで祝ってるものだと思っていたのだ、それが蓋を開けてみればその有様、イケない、それは非常によろしくないのだと彼女は怒られないように、誰にも打つからないように駆け足で向かったのは医務室、到着してから軽く息を整え静かにノック、返事が返って来てから扉を開ければ丁度検査が終えて雑談に花を咲かせている面々、だが入ってきたエルフェルトが何やら普通とは違う雰囲気を感じれば戸惑いつつ
「あれエルフェルト、どうしたの?」
「な、何やらただならぬ雰囲気を感じますけど……」
「お二人共、結婚記念日という物を知ってますか?」
唐突に出されたその言葉にユノはキョトンとし、それからクリミナに聞いてみよと隣を見れば若干青くしてやらかしましたわと言う表情を晒すクリミナ。
「え、く、クリミナ!?何だか顔が青いよ、え、ペーシャちゃん!!??」
「はいはい落ち着きましょうね指揮官、大方忘れてましたということでしょ、と言うか私ですら忘れてましたよ……」
「と言うよりもまだ結婚一年目という事実が驚きよね、何かもう二年目とか三年目とか言う空気だもの」
「クリミナさん、顔を覆い始めましたよ……」
重症ですね~とPPSh-41の若干投げやりな言葉も今のクリミナには突き刺さる、何とも混沌とし始めた空間だがまずはユノに結婚記念日とは何なのか、それを詳しく丁寧に説かなければならないとエルフェルトはパンッと手を叩いてから
「良いですか指揮官、結婚記念日とはですね……」
これが前日のお話、そして翌日、物凄く丁寧に結婚記念日とはと教えられたユノであったがしかして記念日を祝おうにも急に用意はできないしなぁと思っているとナガンから通信が入り食堂に来てくれと伝えられる。
因みにクリミナは昨日エルフェルトが説明してる途中で復活している、しているが記念日を忘れたという失態は彼女の中ではかなり大きくあの後も謝罪をするほどではあったがその時にユノは
『でもほら、毎日が幸せだから、大丈夫だよ』
『ユノ、ふふっ、ですがエルフェルトの言う通りきちんと祝わないといけませんね』
『ソーコム、ブラックください』
『貴女最近、やさぐれ方激しくないかしら?』
とまぁ余談は置いておき、ともかく呼ばれたとなれば向かわなければとクリミナと共に食堂に向かえばナガンが待っており、彼女の案内で席に通される。
「さて、しばし待っておれ」
「え、まぁうん、待ってるけど……なんだろ?」
「雰囲気的にはなにかのイベントみたいな感じですけど」
しかして今日なにかあるとは聞いてない二人、とりあえず言われた通りに待っていると何やら調理場の方が騒がしくなったと思えば出てきたのは娘たちとG36が運んでいる大きめのケーキ、そこには【これからも仲良くね!】と書かれたチョコレートプレートが。
それを二人が待つテーブルに置かれれば流石に気付く、それと同時に周りには基地の面々が揃っており、最後に笑顔のナガンが
「気付いておるとは思うがな、まぁそういうことじゃよ」
「皆……あれ、でもエルフェルトは結婚記念日ってこう二人っきりとか云々言ってたような」
「さて何の話じゃろうな、もしくはそれはあれじゃ一般的なが頭に着くじゃろうな、だが此処はP基地、なれば祝い事もこうなる、うむ、完璧な理論じゃ」
「いえ、その理屈は可怪しいかと……」
言葉では呆れているようなクリミナだがその実、この基地らしい結婚記念日になってことに嬉しく思っている部分もある。
ユノの言うように確かに二人っきりでも良いかもしれない、だけど自分がこうして彼女と結ばれたのは自分だけでは無理だっただろう、そこでこんな大事なことを忘れるとは中々だにゃと呆れているIDWが、ケーキを切り分けているG36が、そしてユノと楽しげに話している副官ことナガンが、いや勿論彼女達だけではない、この基地に全員が居てくれたお陰でユノと結ばれた、だから
「ありがとうございます、皆様」
「ん?何じゃ急に礼なぞ」
「いえ、何でもございませんわ、強いてあげるならばこのような形で記念日を祝ってくれることに、ですかね」
その言葉にナガンは当たり前じゃろうてと笑い、記念日の祝いを始めようかと宣言、始まってから各々が言うのはやはりコレだろう。
「いやでも、ユノっちとクリっちが結婚して一年目だってことは正直あたしも忘れてた、うん、不思議とガチで忘れてたよ」
「それくらい仲がいいということだけどな、あとは……それ以上に一年に起きた事件が多すぎたのもあるか」
「そうか、アタシがこの基地に来たのってその後だもんな」
「私がノアに救われたのもお義姉さんが結婚した年でしたね」
「俺もだな」
ゲーガーの言葉に思い出したかのように呟いたのはノアとクフェアが、続くようにキャロルも言うが、もっと言えばユノが刺されたあの事件に至っては結婚式から一月とちょっとで起きているのでハイペースすぎる事件の発生速度だと言わざるを得ない。
「まぁまぁ、それよりもさ、折角だから盛り上がろうよ、あれこれあったなとかも良いけどね」
「盛り上がりすぎて無理はするなよ?」
勿論とナガンの言葉に返事をしてからルピナス達が分担して作ったというケーキを一口、程よい甘さに頬が緩む
こうして二人の少しばかり遅くなった結婚記念日の時間は流れていくのであった、何事もなく何時ものように楽しい時間が過ぎていく、記念日とはいっても自分達はこういう時間が好きなんだなぁとユノとクリミナは思うのであった。と、この基地では平和で終わるわけもなく
「416が酒をいや、誤飲か!?」
記念日の祝いも盛況の内に幕を閉じてこの後どうしようかと言うタイミングで放たれたその一言で今日も楽しいカオスな時間が訪れたことが確定するのであった。
いやぁ、楽しい結婚記念日でしたね……
じゃあ、次の話はカオスにするね!416に酒を飲ませた主犯は誰なのか……