それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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ようこそ、地獄の一丁目へ


この世界は残酷だ

私は知らなくてはいけない、自分の失った記憶を、それが何なのかを、その思いで扉に手を掛け力を入れようとした時、その手の上から『私』の手が被せられる。

 

急にどうしたのですかと見てみれば、試すような、でもどことなく行かないほうが良いと止められているような表情の彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「……本当に覚悟は良いんですね?」

 

「はい」

 

「例え扉の先が絶望しかないとしても?」

 

「絶望しかない真実なんて、嫌というほど見せられてきました。でも、知らなくちゃいけないんです」

 

『私』が言うように絶望がこの扉の先に待ってるとしても、これだけは譲れない、私のその覚悟が向こうに伝わったのかは分からない、でも彼女はゆっくりと手を退けてから、どこか納得したような顔をしてから私を見据えて

 

「なら、開くと良いわ」

 

「言われなくても」

 

短いやり取りをしてから手に力を込めれば何の抵抗もなく扉は音も立てずに開かれていき、全てを開いた所で光りに包まれた。

 

突然のことに私は腕で目を覆ってしまうが光自体はすぐに収まって、覆っていた腕を退かせばそこにあったのはさっきとは全く違う光景、幾つもの機械とそれに繋がっているケーブルが床一面に広がり、まるで研究所の一室を思わせる。

 

ここが、私が失った記憶の光景?とにかく情報を集めないとと周囲を見渡してみれば目についたのは幾つもの人が一人は入りそうな培養槽、ただここからでは中の様子は見れない、見るのならば正面にある丸い確認窓のようなところから見ないと無理だろう。

 

「私は、何を忘れたの?」

 

「正確には失った記憶ではなくて、失いそうになった時に貴女自信が人間で言う深層心理に当たる部分に封じ込めた記憶の断片、ですけどね」

 

「封じ込めた……?」

 

着いてきていたらしい『私』の言葉をオウム返しした時、ズキンと頭が痛む感覚に襲われた。封じ込めたとなればこの記憶には絶対に何かの意味があるはずだ、いの一番に浮かんだのは指揮官関連なのだがこの時はまだこのP基地にお世話になってる時期ではないとなればペルシカさんからの指示できたということになる、多分

 

頭痛に似た感覚が収まった私は、何か手がかりはないかと歩き出す、だが機械には電源が入ってないのかモニターは何も表示されておらず、資料だと思われる紙の束は真っ白、この辺りの記憶はごっそりと消されているらしい事に思わず舌打ちをしそうになるのを堪え、他に何か無いかと探ってみる、が

 

「何もない……この部分の記憶は消えてるってこと?」

 

「でしょうね、私が覗いた時も何も映らない、書いてないでしたから、でも」

 

そこで言葉を途切れ、どうしたのかと『私』を見れば、向こうはさっき目についた幾つもの培養槽を見ていた、確かに培養槽の中までは確認してなかったと思いながら近づこうとした時、『私』が改めて警告をしてきた。

 

「覗くならば、気をしっかり持つようにして下さいね」

 

今までのそれよりも強い警告に私ははっきりと頷いて返す、もしかしたらそこが彼女が言ってた絶望かもしれない、だが同時に知るべき真実でもあるだろう。

 

一歩、また一歩と培養槽に近付く、何故か重くなる足取りに何を怖気づいていると気を引き締めて近付き、あと一歩で中を覗けるという所で足を止めて息を整える、嫌な予感が収まらない、見るなと強く何かが訴えてくる。

 

「顔、酷いですよ」

 

「大丈夫です、ふぅ」

 

息を吐きだして、最後の一歩を踏み出して培養槽の中身を覗き込めば、そこにあったのは絶望なんて言葉は温いと思わされる物だった。

 

世界はどうしてこんなにも厳しいのだろうか、そう思わざるを得ない光景が中にはあった。培養槽に入ってたのは見た目通りに人が一人、それは人間だった、それは少女だった、その顔は、体付きは……残酷なほどに私には見覚えがあった。その事を認識した瞬間、私は弾かれるように培養槽から離れるが体勢が維持できずに尻餅をついてしまうが立ち上がる余裕はなくて、乱れきった息を整えようとするが、上手く行かない、思考が混乱したまま帰ってこない、視界も乱れに乱れていることから相当動揺しているのだけは気づけたがだからなんだというのだ。

 

「だから言ったじゃないですか、あるのは絶望だけだって」

 

『私』言葉が脳内に響く、何が絶望だクソッタレがと叫び返したかったがそれが出来ないほどに今の私は動揺していた、だって、だってこんなの

 

「悪夢は、終わってない?」

 

「寧ろ何故終わったと思えてたの?技術はある、遺伝子もある、後は設備さえあれば、どうとでもなることじゃない」

 

「でも、これを計画した奴は……!!」

 

「死んだって、証拠はあった?」

 

私の叫びに『私』に淡々と返された言葉に声が出なくなった。だって計画したやつが死んだという証拠も資料も無いのだから、ペルシカさんも、私達も、あくまで『鉄血』からの資料を読んで推測で死んだと思っていただけ、でもこの記憶の断片が正しければ、あの計画は続いてしまっている。

 

とすればこの部屋にある幾つもの培養槽、そこには間違いなく今見たのと同じ、指揮官、いや、この場合は『ユノのクローン』の方が正しいかもしれない、とにかくクローンが入っているだろうと考えられる。理由なんてすぐに分かる、元々が衛星兵器の生体パーツにするつもりだった指揮官を失ったとなれば……

 

「無いならまた作り出せばいい、合理的ですよね」

 

「私は、私達AR小隊はあの日、コレを見てしまった?」

 

「もしくはコレを探し当てることが任務だったのかもしれない。そして見つけたは良いけど、誰かに記憶を全員消されてしまい、更には鉄血に追われ、ってことでしょうね」

 

ズキンとまた頭が痛む感覚に襲われ、蹲る。何かが、何かが思い出せそうだと、激しい痛みを抑えながら顔を上げれば酷いノイズ混じりながらこの部屋に誰かが入ってくるのが見えた、だが顔も、性別も、声も、年齢だって何一つ分からない、そしてその人物は私を素通りし、その方向を見れば銃を構えるAR小隊の姿、これは当時の風景だと分かるのだが

 

(駄目、コレ以上は、つぅ!!!)

 

更に痛みが激しくなったと同時に周りの風景がノイズだけになってしまい、痛みが収まり、ノイズが晴れたと思えば、私は扉の前に居た、どうやら戻ってきてしまったらしい。

 

見れば、扉の横には『私』も居る、だが向こうは何やら驚いている様子だったので聞いてみれば

 

「貴女が蹲ったと思えば此処に戻されたことに驚いてます」

 

「そう、ですか……」

 

「その様子だと、あれ以上は思い出せなかったみたいですね」

 

彼女の言葉に小さく頷く、だが手掛かりは確かに手に入れた。ノイズが激しくなる瞬間、あの研究所のような場所があると思われる、そして私達が記憶を失った任務に向かったその地区の情報を思い出せた、正直もう一度向かっても碌な資料はないだろう、それでも向かうべきかもしれない。

 

そんな事を考えていると『私』の身体にノイズが走った、それに驚くがよく見れば自分も、そして周りの光景にも同じようなことが起きている。

 

「どうやら時間切れのようですね、ふぅ、結局、私がなんで此処にいるのかは分からずじまいでしたか」

 

「でもありがとう、貴女のお陰で思い出せました」

 

「絶望を見せられたのにお礼なんて、本当に私と同じ存在とは思えないですね……最後に、いいかな」

 

ノイスが激しくなりいよいよお別れと思っていると『私』が近付いてきて手を差し伸べ握手を求めてくる、なので私はそれに応える形で握れば、初めて見る穏やかな笑みを浮かべて

 

「どうか、このままAR小隊が欠けることもなく、貴女が復讐に染まることがないように、祈ってます。受け取って、きっと貴女の役に立つはずだから」

 

それだけを言うとこっちの言葉を聞かずに『私』はノイズに呑まれて消えていった、同時に世界が暗闇に戻り、そしていつの間にか閉じていた瞼を開ければ

 

「おはよう、M4」

 

「おぉ!良かった、改修は終わってるのに中々目覚めないから焦ったよ~」

 

無事に現実に戻ってきたらしい、がその後のメディカルチェックで驚愕されることになる。それよりも話したいことがあるんですが……




はい(はいじゃないがな)いやぁ、また病気が出たねコレは、うん、でもほら、そろそろ動きは必要だからね、仕方ないね

次回もまたAR小隊のMOD化話かな、書くことが多すぎるッピ!

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