それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
ディープダイブ作戦翌日、ユノはノアにもこの事を伝え、それを聞いた彼女はと言うと顔を俯かせて、しかし見れば拳から血が出るほどに握りしめており怒りを抑えているのか身体全体が小刻みに震えている。
彼女は心優しい少女だ、しかも過去に妹達を目の前で失っている、それを思い出して今も生み出されているであろう彼女達と重ねてしまい
「……クソがっ!!」
「今、皆が全力で情報を集めてる、ほら、アンジェリカさんって一度此処に来たじゃん、その人にも資料を流してさ」
「そいつは信頼できんのかよ、国家なんとか局ってのは」
「安全局ね、ペルシカお母さんの知り合いだから大丈夫だとは思うけど、それに正規軍の話になるとアンジェリカさんを頼るしかないし……」
ユノの言葉に、舌打ちを一つしてからコーヒーを飲んでからしばしの沈黙、彼女としては直ぐにでもこんな巫山戯たことをしている奴らを血祭りにあげてクローンが生み出されるのを止めたいという気持ち強い、だが勿論そんなことは今時分が騒いでも出来ないのは理解できている。
「で、なんか分かったのかよ」
「流石に昨日の今日じゃ難しいよ」
「それもそうか……あと、その、遺体はどうした?」
あの日、逃したのは一人であり残りの四人はAR小隊によって撃破されている、なのでノアとしては遺体が回収されているのならば妹達と同じ墓に入れてあげたいと思っての言葉だったのだが返ってきた答えに彼女は一瞬だけ感情を消すことになった。
「それが……」
「んだよ、あぁ、加減が聞かなくて色々とヒデェ有様とかか?それくらいじゃアタシはアイツラに怒ったりしねぇよ、仕方のないこと……」
「自爆して、何も残らなかったって」
「は?」
感情を全て削ぎ落としたような声で、だが明確に怒りを込めた視線がユノを襲う、だが彼女はそれに気付くことはない、初めて聞いたときもだったが自分で伝えると決めた今でもこの事実は衝撃が強いのだ。
AR小隊も彼女達の遺体を回収しようとしていた、そのままにしておくのも可愛そうだというのもあったし、彼女達の身体を解析してどのような状態になっているかキャロル達が確認したかったのもある、なので近付いた瞬間、その体は突如自爆、人形ではなくクローン体である彼女達が爆発したということでAR-15はこう語る
『人形は慣れてるわ、でも肉体がしかも指揮官やノアに似た子がっていうのはちょっと、キツイわね』
恐らくは機密保持の為だろうというのがAR小隊、そしてキャロル達の考え、そこまでして調べられたくないということは何かしらの意味があったのかもしれないがそれ以上に今後も何か問題があれば自爆していくと事に話を聞いたものが辿り着くのは容易である。
ノアもその一人だ、グシャッと何かが潰れた音がしてユノが音源を見てみれば持っていた缶が潰れている、幸い中身は飲みきっていたので溢れることはなかったのだがそれでも怒りは相当のものだということが分かった。
「ノア……」
「ハハッ、何処までも合理的な奴らだってことかよ、ざっけんなよクソが!!!!!」
遂に抑えられなくなった怒りのままに吠えるノアに思わずお腹を守りながら目を瞑り身体をすくませるユノ、そこまでの騒ぎになれば何事かと現れたのはG36とネゲブ、二人は即座に状況を見て、何が起きたのかと聞けばユノがさっきまでのことを話して
「なるほどね、あんたの怒りも分からなくはないけど吠えるな、特に指揮官はクフェアと同じなのだからね」
「あ、わりぃ……」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと驚いたけどこの娘はそれくらいじゃ怯まない娘だと思うし」
「いや、恐らくはまだ聞こえてないと思いますが」
そうかな?とお腹を撫でながら呟くユノ、それを見てノアはまた顔を俯かせたと思えば、そっと、それこそよく聞いて無ければ聞き逃しても不思議ではない声で
「全部、アタシが終わらしてやる」
「何言ってるの貴女」
「情報が出たらこっちに寄越せ、妹達の不始末は、アタシが全部終わらしてやる」
呟きながら上げた彼女の顔は怒りと焦りが混ざりに混ざってまた別の感情を宿していそうな顔をし、次に目を見たネゲブがこの目の色は危険だと判断するような目をしていた。
もしかしたら自分が唆されて協力してしまった時の技術が使われたかもしれない、クローンが現れ敵対してきたと聞いた時、彼女はそう考えてしまっていた、それにこのまま放置すれば何れはこの基地を、クフェアに被害が行くかもしれない、そう考えればノアは間違った決意すら決めそうになってしまう、が
「あんたに何かあったら、クフェアが悲しむどころじゃないって理解してるわよね」
「……だったらどうしろってんだよ、アタシが、あの日のアタシが迂闊だったせいで、また妹達が生み出され、しかも戦わされてるんだぞ!どうすりゃいいんだよ、どうやったら、アタシはアイツラに謝れるんだよ!!!!」
「どうもこうも、周りを頼れって言ってるのよ、だいたい許せないのはあんただけじゃなくてこの基地の誰もがそう思ってるわ、勿論私もよ」
一人じゃない、暗にそう告げてからネゲブは仕事が溜まってると呟いてから、しかしG36はその場に置いて行ってしまう、その後ろ姿は何処と無く威風堂々という感じであり、それを見た三人は
「ネゲブって、本当に頼りになるよね」
「なんと言うか、この基地のお母さんとか言われてますが割と最近は板についてませんか?」
「まぁ、クフェアも頼るくらいだしな……あと、さっきはわりぃ、じゃあアタシはクフェアの所に行ってるから」
口早に謝ってノアは医務室に、残されたユノとG36はその後はクリミナが帰ってくるまで共に過ごすのであった。というのが基地の表でのお話、その裏、もっと言えば基地の外で事件は起きていた。
(はぁ、面倒)
TAC-50、委員会からの派遣された人形であり、常日頃から頭の固い老人たちに定例報告をしていた彼女は今、今朝方、突然委員会に出頭するようにという命令を受けて、ご丁寧に用意されたP基地の物ではない車で揺られていた。
P基地から委員会へはそんなに距離があるわけではない、だが態々出向けと言われたということは間違いなく面倒なことだとTAC-50はまた溜息を漏らしながら大人しく揺られていると、街に入って数分後に急に車が止まった。
「ん、あの、委員会はまだだと思うんですけど?」
「お、オイなんだよお前ら!?」
仕切りがされた運転席から聞こえた声に即座に窓の外を見たTAC-50を迎えたのは銃弾の雨と、爆発だった。
リアル鬼ごっこ(開幕クソゲー