それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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今回の敵は一筋縄では行かないのかもしれない


暗中模索

あの事件から翌日の執務室、Px4ストームが報告を丁度終えたところだったようで資料から顔を上げて二人を見てから

 

「以上が今回の事件の報告となるわ、何かある?」

 

「ノアちゃんが撃った娘の死体は?」

 

ユノからの質問に彼女は首を横に振る、あの時の自爆は何も二人だけではなく、既に死亡していた個体にも適応されていたようで同じタイミングで自爆、他の個体と同じ様に何も残っていなかったらしい。

 

「何処までも抜け目がないと言うべきか、此処まで人の心を感じない手段にはいっそ清々しさを感じるのじゃ」

 

「全くよ、そんな相手なのにノアはよく撃てたわね……」

 

よく撃てたわね、その言葉に思わず引き笑いを浮かべてしまう人物がこの空間に居た、ユノ?ナガン?否、彼女達ではない、では誰か、その答えの人物の名前を言ったのはユノだった。彼女はそんな表情を浮かべながら『腹部』を擦っている彼女を心配するような声で

 

「大丈夫、TACちゃん?」

 

「はは、いえ、ちょっと腹部に弾丸が残ってる感じと痛みが……」

 

「弾丸は貫通してたし、そもそもまっさらな素体使ってるんだから痛みがあるわけ無いでしょ、あっても幻痛よ」

 

「ええそうでしょうね、ていうかノアによく撃てたとか言ってますけど貴女も人のこと言えませんよね?」

 

ジトッとした視線をPx4ストームに送っているのはあの日、帰投寸前に意味深なやり取りの後に撃たれて死んだはずの【TAC-50】無論、人形に置いてその素体が死んでもバックアップがという点があるので死んだというのは誤解があるかもしれないが、今回に限ってはあのTAC-50は確かに【死んだ】のだ。

 

スパイとして送り込まれ、自分に意思はなかったとは言え恐らくデータ的にも物理的にもクローンを使った何か企んでいる組織へ情報が流れるようになっていた彼女をこのままにしておけば更に状況が悪くなる、TAC-50は真実を告げられた日にそう考えてPx4ストームに相談したところ、彼女が取って手段それは

 

「死んだ上で内部にこのTAC-50のデータ全てを残しておく、まぁ確かにバックアップを取っていないと思わせるということで事実上この基地に送られたはずのTAC-50は死んだことにはなると思いますが」

 

「でしょ?だけどこの基地で独自にバックアップを残しておき、そこにこの基地で製造したIOPを通さないまっさらな貴女にその全てを引き継がせれば、あら不思議、死んだはずの貴女が生きてるってことになるわけよ」

 

まぁ安くはなかった用意だったけどと、Px4ストームが続けたように事前報酬と成功報酬合わせでTAC-50が密かに溜め込んでいた貯金が消し飛んだ、だがお影で彼女は正式にP基地の人形になり今後はあんな定期連絡等もしなくて良いことになったので、それを考えれば……

 

「安くないんだよなぁ」

 

「あはは、とにかく皆お疲れ様」

 

ユノが労いの言葉を掛ければ二人は礼をしてから執務室を後にする、だが今回の事件でまたAR小隊を襲ったあの時の個体を逃してしまったという報告にナガンは渋い顔をしながら

 

「次に出てくるときが怖いな」

 

「それなんだけどさ、ちょっと疑問に思ったことがあるんだよね」

 

「む?」

 

真剣な声のユノにナガンは彼女に視線を向けてから続きを促す、対してユノは顎に手を当てて先程の報告、そしてディープダイブ作戦の報告、二つを合わせてこんな疑問を抱いたのだ。向こうの計画は恐らくは衛星兵器の生体パーツである自分たちのクローンの数を揃えること、だと言うのに何故態々戦闘させて、しかも

 

「自爆させるのかなって、AR小隊の時は機密保持だったかもしれないけど、昨日の場合はノアちゃんが言うには上位個体である彼女を逃すために自爆させた、数を揃えたいのになんでそんな事させるのかな?」

 

「上位個体が、他よりも優先して生き延びるべき存在なのかもしれぬが、戦わせているのは生体パーツの他にも何か考えがあるからと推測すべきじゃろう」

 

ユノの疑問、それは昨日、ノアからの報告を聞いていたキャロルも同じことを思っており当の本人は今アーキテクトのラボでその事についてアーキテクト、ウロボロスと共に議論していた。

 

自爆命令に関してはナガンと概ね一致した意見なのだが、戦闘させている理由、それに関しては彼女達の議論はまだ続いていた。

 

「戦わせて、結局何がしたいんだろ、いたずらに消耗するのだって向こうには痛手の筈なのに」

 

「単純に考えればスペクターとしての能力を大いに活用した私兵でも用意したいというところだが、それにしたって使い方が贅沢すぎる、やはり上位個体と呼ばれた存在が何か鍵か?」

 

「……確認だが、そいつはAR小隊との戦闘の時に唯一生き延びた存在、だったな?」

 

唐突にウロボロスが聞いてくるので二人は頷けば、彼女はふむとまた何かやら考え込む、始めに来たのは5体、それから昨日来たのも5体、内一体は上位個体と呼ばれていたし、ディストーションフィールドも使用してたのであの日の生き残りという考えはウロボロスも同意である。

 

蠱毒の壺とも言える行為、だとすればその行為で向こうは何を得たいのか、そうまでして戦闘経験を……いや、とウロボロスは閃いた、もしや狙いは戦闘経験だけではなく

 

「全てにおいての経験値を積ませる?」

 

「全て?いや、確かに昨日の戦闘では指揮を取っていたという話もあるな、ならば隊長としての経験値も狙い、だが何のためだ」

 

「ねぇ、もしかしてさ、ユノっちとノアっち、二人の能力を得た存在を生み出したいんじゃないかな、ほら、本来ならば二人を生体パーツに使うつもりだったけど、結局は失敗してる。これから別々に作るのは難しいとかの事情ならあり得なくない話じゃない?」

 

ふと思い付いたことを口にしたアーキテクト、しかしその内容にキャロルとウロボロスの眼が変わる、ルーラーとスペクターの能力を一つにした存在、だがそれよりも今の言葉で彼女達には新たに生まれた仮説があった。もしそれが正しいのならば二度の戦闘でクローンを自爆させたのが機密保持の為だけではないのかもしれないと

 

「現状で推測するとすれば一度に生成できるのは5体以上だが、生み出された個体のメンテナンスのためにその後の生産は不可だと考えて、更に言えばアップデートも出来ないとすれば」

 

「……次に生み出される個体には奴らが上位個体と呼んだそいつが取り込んだ経験値と技術が適応される可能性が高いな、そしてそれを何度も繰り返すことで、アーキテクトが立てた推測の存在を生み出す、そして十分な能力を持った個体を生体パーツとして衛星兵器に組み込む」

 

「ねぇ、それって成功させちゃったら相当やばくない?」

 

やばいなんてものじゃないなコレは、この推測は後日指揮官達にも話されて、今後の対策のためにまた頭を悩ませることになる、狙いも規模も何も分からない敵、しかし彼女達は思う、恐らくは遠くない未来に激突するのかもしれないと。




とりあえずは少しの間は大人しいと思われますけどね~

おら、ほのぼの出勤するんだよおら!

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