それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
晴天の空に浮かぶ雲、流れては形を変えて、やがて千切れ、また流れていく、決して同じ形になることはない、それはまるで時間のように。
失ったものも、過去の過ちも、全ては変えられない己の過去、どんなに願っても決して変えられない進んだ時計の針、それを暗示するような雲の動きを屋上で寝そべって眺めているのはノア。
(……)
クフェアのお見舞いを終えた彼女は少し考え事がしたくなって屋上に来たのだが、気付けば何も考えずに大の字に寝そべって、雲の流れをただ見つめていた。普段でも雲の近くまで飛ぶ時はある彼女だがこうして下から眺めるということはしたことなかったなと言う感情があったのかもしれない。
流れ、千切れ、流れ、変形し、流れる。止まるということを知らない雲の動きを眺めている彼女だったがそれは覗き込んできた人物に中断された。
「よぉ、何を黄昏れてるにゃ」
「んだよ」
覗き込んできたのはIDW、どうやら日課の日向ぼっこをしに来てみれば珍しい人物が寝そべっていたから声をかけてきたらしく、いや、用もなにもないにゃと答えてから隣に座れば、ノアは起き上がりそのまま出ていこうとするのを
「まぁ待て、折角だし少し話でもしようにゃ」
「あぁ?ちっ、さっきは用がねぇとか言ってたじゃねぇか」
「今思い付いたにゃ、ほれ、良いから、にゃ?」
何だか珍しく人を積極的に誘うIDWに根負けしたのか、はたまた誘われておきながら自分は特に用がないのに断るのも悪いかと思ったのか彼女は踵を返して柵に背中を預けて座り込んだ。
それを確認してから、では何を話そうかにゃと考えてから
「で、何を黄昏れながら雲を眺めてたにゃ」
「別に、ただ見てただけだ」
「ふぅん、私はてっきりクローンたちのことを考えてると思ったけどにゃ~」
出てきた言葉にノアは反応を示さない、はっきりと言えばそれも間違いではないからだ。だからこそ雲の動きに過去を思い浮かべたのだから、空の雲のように決して戻ることのない過去という時間を、彼女にとってそれを考えるなという方が無理な話であり、だからこそ誤魔化すように屋上で雲を眺めていたのだが
「……アタシは、昔の、少し前のアタシはどうしようもないほどに無知で、馬鹿だった。伸ばされた手を疑うこともせずに掴んで、失って、しかも今度はそれが最悪な形で悪用されて出てきた」
「人ってのは何時も馬鹿にゃ、何度も騙されて、何度も貶されて、だけど何度も立ち上がって、過去を悔やみながら、前に進むにゃ」
「……」
「オメェが過去にそういった間違いを犯したのかもしれない、だけどもう時間は戻らないにゃ。だったら前を向いて進むしか無いにゃ」
語りながら薬指を擦る仕草をする、もし、もし自分があの日、泊まりで孤児院を手伝っていたら喪うこともなく、そこに付けられてたかもしれない物を思いながら語る彼女の顔は憂いを帯びていた。
普段の姿からそうは思えないが、彼女も彼女で後悔をしている人形である。だけど自室に写真を飾り、写真立ての裏に彼が遺した指輪を隠すように飾りながらもIDWは今日を生きているからこそ、ノアの気持ちも全てとは言わずとも分かる気がしていた。
「それに、オメェはまだ全部を失ってないにゃ。ていうか悩みごとあるなら嫁に相談しろにゃ、嫁に」
「こんな情けない姿を今のアイツに見せれるはずねぇだろ」
「なぁにこういう時に父親みたいなこと言ってるにゃ、テメェは良くてヤンママが精一杯に決まってるにゃ」
「やん、ヤンママ?」
なにそれ知らないんだけどという風な声にIDWは彼女を見つめたまま、マジかと呟く。彼女的には伝わると思っていたのだがどうやらそうではなかったことが驚きらしい、少し見つめ合ったからそうか、伝わらないのかにゃと頭をポリポリ掻きながら呟いて
「時代って進むの速すぎにゃ」
「あ、あぁ、何だ、励ましてくれたのか?」
「まぁそんなところにゃ、んで、オメェはどうするにゃ」
どうする、その質問の意味はしっかりと分かる。しばしの沈黙、また空を眺めて雲を見る、過去は戻らない、犯した過ちも、失った大事なものも返ってこない、だけど……
「決まってる」
だけど、今は目の前にある、手を伸ばせば、決意一つすれば引き寄せられる物が確かにある、何よりも未来は変えられる、良くも悪くもだが。
ゆっくりと掌を空に伸ばしてから握りしめ、IDWの方を向く、その時の顔は何時ものように勝ち気で決して少女らしいという表現は使われないだろうと言う笑顔だがIDWはやっとらしい顔になったにゃと思うような笑みを浮かべたノアは決意を一つ口にする。
「全部、終わらす。アタシの過去を清算するためにも、未来を作るためにも、アイツとアタシが生まれる子供と笑って出会えるためにもな」
「なら頑張れにゃ、にしても子供、オメェに似てヤンチャにならなきゃ良いけどにゃ」
「何でだよ、いや、まぁアタシも自分に似るのはどうかとは思うんだけど、クフェアとかのほうが色々安心できるし」
「それは確かに言えてるにゃ」
二人は知らなかった、クフェアに似たらそれはそれで色々と大変だということを、彼女達はまだ知らなかった、少し先の未来で互いに
『アイツ、大人しい顔して凄いことしでかすんだが』
『あぁくっそ、根っこはノアの血があればこうなるなんて少しは予想できたにゃ!!!』
悩む父親、叫ぶ猫、その二人を不思議そうに見つめる少女と何を騒いでるのですかという顔をしている母親、だがそれは未来のお話、今現在において彼女達が知るすべはない。
ともかくノアは悩みが振り切れたのかその後は屋上でIDWと暫く話し込んでからクフェアの所に戻って、その日の深夜、彼女を起こさないように医務室から出て向かったのはまた屋上、浮かんでいる月を眺めて、星を眺めて、彼女は思う。
(待ってろ、絶対にオメェらを解放してやるからな)
この解放がどんな形になるかはまだ分からない、もしかしたらそういう形でしかもう選択肢がないのかもしれない、でも、もう迷いはないとばかりにもう一度、今度は言葉にして
「解放してやるから、待ってろよな」
誰にでもなく告げてから彼女は背を向けて扉から屋上を出る、だけどもしこの行動がもう少し遅ければ彼女は気付けてただろう、背を向けてから数秒後に遥か彼方から空に向かって飛んでいく何かがあったことを……
ノアちゃん@ヤンママ
因みに寝そべってたときの胸はキネクリさんなので形は整ってます、実際強靭。