それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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彼女は常に大事な者のためにと決めている。


迷いなんてものは既に無く

BAR【スプリングフィールド】本来であれば休日の前夜から休日の夜にしか開かれないはずのその空間、だがクリミナが通り掛かった時に何気なく扉を見るとそこには【OPEN】という掛札が、しかし今日は休日の前日でも何でも無い。

 

どういうことなのだろうか、そう思いながら扉に手を掛けて開けてみれば、聞き慣れたベルの音、だがカウンターに立っていたのはイベリスではなく

 

「いらっしゃいませ、クリミナさん」

 

「スユーフ?」

 

「はい、本日よりここBARのマスターを預かることになりました」

 

「告知はそう言えばまだしてませんでしたね、ですが安心して下さい、彼女の腕は確かですからね」

 

声が聞こえそっちを見てみれば一応のサポートで居るのだろう、いつもの制服姿のイベリスの姿、だが彼女の様子を見るに本当に大丈夫かを確認するだけのつもりなのだろう、その証拠に既にスユーフが用意したと思われるカクテルを飲んでいる。

 

どうするかと悩んでいると、カランカランとまた扉が開き振り向けばVectorの姿、どうやら彼女のOPENとなっている店の扉が気になり入ってきたようでスユーフを見て驚いたように目を軽く開いてから、流れるようにカウンター席に座って

 

「オススメ、頂こうかしら。クリミナもどうかしら、奢るわよ」

 

「ですが……」

 

「別に酔うまで飲むわけじゃないわよ、私だってそれくらいの節度はあるわ。でも貴女がこの時間帯に指揮官と一緒じゃないってことは何か考え事とかでしょ」

 

良いから座りなさいとそこまで言われてしまえばクリミナも無碍には出来ないとばかりに彼女の隣りに座って、同じ様に注文する。

 

スユーフの慣れた手付きで行われるシェイカーを降る音と店内のBGMを聞きながら少しだけ沈黙、それから

 

「それで、貴女が奥様を一人にして出歩くなんて何があったの?喧嘩でもした?」

 

「いいえ、ユノは今は娘たちと一緒ですわ、ただそうですね……別に悩んでいるとかではありません、ただ少しだけ一人だけで歩きたくなっただけですわ」

 

「それが珍しいって言ってるのだけどね」

 

Vectorからしてみれば昼間とかならまだしも夜のこの時間帯に一人でいる、というのが珍しいとかではなく初めてではないかという状況、なのでそう返すのだが彼女としては常に一緒でなければならないとかいうのではないのですがというのが本音だったりする。

 

確かに共にいる時間が多ければ嬉しいが、常にじゃなくても寝る時は二人っきりだし、それに向こうにも自分にも偶には一人というのは大事であるとは思っている。なお、ユノは妊娠中なので一人は心細かったりすのではと言われそうだが当の本人はケロッとした顔で自室で編み物をしてたりする、まぁ今回のようにルピナス達が基本的に居てくれるのでそれで問題ないという部分もあるのだが。

 

「やれやれ、指揮官のあの芯の強さは本当に凄いものがあるわね、妊娠って言えば何かとメンタルが弱くなるものだって聞いてたのだけど?」

 

「弱くはなってますわ、ただユノが言うにはそれ以上に生まれる娘のためにもしっかりしなくちゃって気持ちがあるみたいで。無論、あたくしは無理はしないでくださいとは言ってますよ?」

 

「あれで弱くなってるのですか……?この間も自身のクローンのお話を聞いたのですよね?」

 

実際、周りから見ても弱くなっているとは思えないだろう、しかし自室で二人っきりになれば彼女はポツリと、ちょっと辛いとクリミナには漏らすのだ。

 

だけど弱音はそれだけ、その一言を呟くだけで後は大丈夫だとユノは立ち直るらしい。

 

「流石、マスターにも手を伸ばしたお方ですね。お待たせしました、オススメの【ジン・トニック】でございます」

 

「ありがと、そうね、しかもエルダーブレインにも手を伸ばした。そう考えるとあの娘はこんな世界で驚くくらいに真っ直ぐ育ってるわね、それで聞きたいのだけど」

 

「はい?」

 

唐突にVectorが真剣な表情で受け取ったジン・トニックが入ったグラスを揺らしながらクリミナに視線を向けてから、聞こうと思っていた事を彼女に問う。

 

「恐らくは近い内に、大きな作戦が、指揮官のクローンたちと戦うような作戦が発令されると思うわ。それで聞きたいの、貴女は彼女達に銃口を向けれる?」

 

「ふふっ、何を聞くのかと思えば、それですか」

 

クリミナはその質問を聞いて笑った。もちろんながら馬鹿にするような笑みではない、寧ろ聞かれるだろうなとは思っていたし、ついさっきまでも一人で歩いているときにはそのことは一度は考えていた。

 

ユノはどうやらまだ考えていた、M16達からの話でもう救えない存在になっているとは聞いていてもまだなにか手があるかもしれないと考えている。もちろん、彼女がそう考えるのならばクリミナとしてもその考えを尊重したいとは思っている、しかしもしそれが無理だとすれば

 

「向けれますわ、いえ、向けなければなりませんわ」

 

「使命感でなら銃を向けないほうが良いわ、銃爪をそれで引いたら次に来るのは後悔よ」

 

冷たい声がクリミナを刺す、これにはイベリスもスユーフも何も言葉が出ずに二人を見つめてしまう程に。だがクリミナは怯まずにジン・トニックを一口飲んでからVectorを見据えて

 

「使命感なんて、そんな崇高な考えではありませんわ、ただそうですね、きっとユノを苦しめ、悲しませる彼女達を許せないのだと思います」

 

「許せない、ね」

 

「えぇ、だからこそ相対したらあたくしは迷いなく向け、撃つと思います……ただ」

 

先程まで覚悟が決まっている声だったクリミナ、だが急にそれを弱らせてどうしたのかと思えば、次に出てきたのはあまりに現実的な問題だった。と言うよりもそれを言われるとこの場の全員がどうしようもないのだがという問題、それは

 

「向けて、撃つのは良いのですが倒せるかと言われると、その、自信がありませんわ」

 

「……まぁ、そうよね。ディストーションフィールドとか出されたら私でもどうしようもないわ」

 

「対抗できる人員って、凄く少ないのでは?」

 

「一応、マスターが言うにはクロスレンジであればフィールドも無効にできるとは言ってますが……」

 

結局の所、彼女達とマトモに戦えるとなるとノアやアナ、AR小隊の面々と物凄く限定的であり、つまり何が言いたいのかと言えば

 

「出番、ありますかね?」

 

「まぁほら、クローンだけではない筈だから、それに首謀者には一発入れたいでしょ?」

 

「ふふっ、そうですわね、っとじゃああたくしは戻りますわ」

 

料金を払ってからBARを出ていくクリミナの後ろ姿には迷いも何もなく、凛としたその姿にVectorは余計なお世話だったかしらと思うのであった。




一応、フィールド持ちにも近距離まで行けば銃撃は通ります(この距離ならバリアは張れないな!理論

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