それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
一部の人形たちはこの基地始まって以来の半ば徹夜まで行って情報収集を行った翌日、秘匿性も高く、セキュリティ及び万が一の際の攻撃にも耐えられるという理由で特殊戦術室に集まった面々を見てナガンは思わず呟く
「普通ならば、先ず見れる顔触れじゃなぁ」
「ま、普通の状況じゃないからね」
彼女の呟きに答えたのは国家保安局のアンジェリカだったが、答えてからコーヒーを片手に部屋を見渡してみればナガンの言葉も分からなくはないと納得してしまう。彼女の他に居るのは緊張しているP基地の指揮官にしてグリフィンからは特務指揮官と言う肩書を貰っているユノ、エルダーブレインのダミーにして気付けばこの基地の指揮官代理として収まっているキャロル・エストレーヤ、16Labの主任にして誰もが認める天才ペルシカリア、物凄く居心地の悪そうな顔で椅子に座っているランページゴーストの隊長にしてその身にトンデモ技術を内包しているノアと同じく副長であり魔改造の末に試作技術をこれでもかと埋め込まれているアナ、とここまではまだいい、いや、この時点でも普通の基地ならばお目にかかることは先ず無いメンバーが二人居るがまだ常識の範囲内?だ。
ではアンジェリカですら軽く引き笑いしそうになるメンバーとは?それがこの場の二人、先ずありえないという存在、その名も
「疑問、何故此処に呼ばれる」
「……」
鉄血の最高リーダーにして上級AIの【エルダーブレイン】とお付きのエージェントの二人である。勿論のことながら武装などは封じられているので万が一に暴れたとしてもノアとアナ、何だったらアンジェリカだけでも封じ込まれるので問題ではないのだが、それでも敵の親玉がこうして同じ席に居るというのは中々にレアな光景だと言わざるを得ない。
彼女達がこうして呼ばれた理由は唯一つ、あの日、あの場所で何が起きたかの詳細が知りたいから
「君たちは正規軍と戦闘を行ったのは知っているけど、それ以上のことは分からないからね、話してくれると助かるよ」
「あぁ、でもエリザちゃん、その、辛かったら別にいいんだよ?ほら、家族とか亡くしてると思うからさ……」
「何を遠慮しているのだ貴様は。拒否権なんてあると思うなよ、全てを洗い浚い話せ」
キャロルちゃんと宥める声をユノが出すがこの場において彼女のその姿勢は今は収めてもらいたいと言うことでアナにユノは任せてから全員の視線がエルダーブレインに突き刺されば、エルダーブレインは表情一つ動かさずに
「了承、詳細を話す」
「ありがとエリザちゃん!」
「感謝、不要、そもそも何故感謝しているお前は」
能天気バカは放っておいてくれとノアの言葉にユノが反論しようとするがナガンが黙らせてから彼女はその日のことを話し始める。
曰く、それは自分たちの警戒網を引っ掛かること無く行われた強襲だったと、当たり前ながら彼女達も即座にハイエンドモデルを全て出してまで反撃を行うのだが碌に態勢を整えることも出来てない鉄血相手に正規軍が遅れを取るはずもなく蹂躙されていく、だがそれでもエクスキューショナーを始めとするハイエンドモデル達の活躍である程度は押し戻し始めた辺りでそれは襲った。
「光、気付けば私は……」
「恐らく私とエリザ様が助かったのはそこが一番の強度を誇っていた司令部だったかと、いえ、それでも本来であれば蒸発してたはずですが」
「加減されたってことだろうな、待てよ、じゃあ何だあの衛星兵器は出力まで微調整できるってのかよ」
それからの流れは知っての通りである、今の話を聞いてからアンジェリカが彼女達に質問をする、その戦いの最中にこのような男は見なかったかと、モニターに映されたのは一人の軍人、名前は【エゴール】と言うらしいが、しかしエルダーブレインが返した言葉は
「見ていない」
「だとすると生きてる?でもやつはカーターの部下の筈、ヨゼフが生かしてるとは思えないのだけど」
思考の海に沈んでいくアンジェリカ、やはりと言うべきかエルダーブレインの話を聞いてもだからと言って何かが進展するわけでもない、ならばと次に出されるのは自分たちと国家保安局が集めた情報、となれば良かったのだが、アンジェリカの方は聞いてみればあまりいい成果は得られなかったらしい。
そしてそれはP基地側も変わらない、一応で言えば正規軍の内部情報はネクロノミコンで覗けたらしいのだがアンジェリカが言ってたように大規模な粛清が行われたということだけ、衛星兵器についても、その打ち上げについても見当たらなかったらしい。いや、寧ろネクロノミコンを使ってでもそれだけしか出なかったということが一番の情報だろう、それはつまり
「奴の本所地は別にあるってことね、そこが分かれば……」
《そこが分かれば、どうするというのかね。アンジェリカ》
突如として部屋のスピーカーから流れた声に場に緊張が一気に駆け巡った。アンジェリカとペルシカは驚愕の表情を、キャロルとノアとアナ、そしてナガンは何が起きたとばかりに驚き、ユノは聞いたことのない声にスピーカーを見つめ、エリザとエージェントは無表情を貫き黙っている。
今の声、それはアンジェリカとペルシカには聞き覚えがあるものだった、一方は調査の過程で、もう一方は同じ科学者としての交流の場で、そしてひとりでに部屋のモニターが表示されれば、初老の男性は部屋に揃っている面々を見てから心底驚いた様子で
《おやおや、これは豪華な顔触れではないか》
「ヨゼフ……!!」
「馬鹿な、この部屋のセキュリティはそう簡単に抜かれるものではないはずだぞ!?」
《ならば我々がそれを上回っただけということ、さて始めまして、私はヨゼフ・アルブレヒト。君たちの……》
生みの親だ。なんてこと無く告げられたその言葉にノアが噛み付いた、アナが抑えるのも無視して彼女は席を立ち上がり、吠えた。
「何が生みの親だ、初めっから人をパーツとしてしか見てねぇテメェが、命を生み出したふうに言いやがるな!!!!」
《君は……スペクターか、随分と様変わりしているな》
「こんのやろぉ……」
「ノア、ちょっと静かにしてて」
それは余り聞いたことのないユノの声だった、抑制のない、良く言えば冷静、悪く言えば感情が完璧に死んでいる声にノアは思わず黙ってしまう、いや、その場の全員が驚きのあまりに彼女を見てしまうがユノはそんな視線も気にせずに映像越しのヨゼフを見つめる。
対してヨゼフもノアと同じく姿が変わっているユノ、いや、その生命を宿したお腹を見てホォと感心したように声を漏らしていると
「貴方は、何故こんな事を?世界をどうしたいのですか?」
暗にそれは世界征服でもしようとしているのか、そのために自分たちを、今尚クローンを作り出しているのかと聞いていた。ヨゼフもそれを悟ったのか、彼は自身の目的を包み隠さずに言葉にする、それは彼なりの善意だった。
《私はね、人類を護り、世界を再生させたいのだよ。その為にゲイボルグを作り打ち上げる、先ずはこの世界の栄養を奪っている雑草を狩り、人類と世界を疲弊させる争いを止めるためにも》
たった一つの善を為すために彼は何百とも言える罪を犯すのも厭わない、ヨゼフの目は確かにそう語っているように全員が思えた。
人類救済したい叔父さん、後々に語るけどこいつはこいつでちゃんと考えてたりするし、汚染もどうにかしようとしてる天才(尚、作者の頭の限界があるのでそうは見えない模様、悲しいなぁ)
ちなみの今回のサブタイトルの元ネタは某倫理観ガバガバ会社ゲームのアブノーマリティの名前、あっちは善と罪が逆だけどね!