それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
ナガン達が到着したことによって本来であれば戦闘にすらならないはずの人数差、だと言うのにヨゼフの表情から余裕が消えることはない。ついさっきまでの戦闘を考えれば分からなくはない、更に言えば消耗を考えると銃撃戦主体であるM4達はもう長々と戦闘できる状況ではないというのもそれに手伝っているのだろう。
「こうして会うのは初めてじゃな、今一度言うぞ、投降しろ」
「それは本来、君たちに絶対の勝機がある場合の言葉だ、とても今出せる言葉ではないと思うのだがね」
「お主こそおかしな事を言うな、殺せると思ってるから言ってるに決まってるじゃろうて」
不敵に笑うナガン、だが彼女も状況を理解して無くてそうっているわけでも、かと言って相手を甘く見ているわけでもない、これはある意味で決意表明みたいなものである。
此処でもしこいつを逃したとなればどうなるか、それを分からないはずがない、間違いなく碌でもない展開しか残らないだろう。故に彼女たちに残された選択は此処で奴を仕留める、それしかないからこそ彼女は上記のセリフを吐いたのだ。
しかしヨゼフにはそれが理解できない、それから彼は小さくため息を吐いてから
「では、やってみるが良い」
「来るぞ、全員気張れ!!今日此処で奴を、殺す!!」
腕が振るわれたと同時に今度は地面だけではなく、壁、天井、そして頻度は低いが的確な形で飛んでくる空間からの攻撃、大してこちらも増えた手数で攻撃をするがやはりと言うべきか二つの盾を通すことは叶わずにM16が思わず
「って言うがよ、実際どうするんだ?あれ、多分輻射波動砲弾ですら防がれんぞ」
《ウロボロスだ、というか何故私がさっきからサポートを手伝っているんだ。コホン、そいつの肌の変化について詳細がわかった、馬鹿だろあの科学者》
「良いから詳細を話せ」
《あれは、体を構成している炭素をナノマシンとコーラップス技術の合わせ技で瞬間的に硬度を高めるようにしているらしいな、単純な硬さなら確かにアナのブレードを防いだとしても驚きはないな》
より正確に言うならば炭素を対価に別の強固な物質に変化、それからエアハルテンとエテルネルと二つの特性を使って元の炭素に戻す、と言うサイクルが行われているらしい。
故に、攻撃を与えるならばそれを瞬間的に上回る一撃、もしくは衝撃を与えられる物が求められる。そしてそれがこの場で可能なのはSOPの義手とアーキテクトのガングニールとなるのだがそう簡単に近づけさせてくれる相手ではないし、アンカークローもフィールドで防がれる、また別の案としてユノがポツリと呟いたのは
《ねぇ、能力そのものを無力化とか出来ないの?》
「無力化、そうか、奴の体は恐らく絶妙なバランスのナノマシンで能力が使われているはず、ともすれば……ある」
が、それは一か八かの賭けに近い行動、だが全員の消耗を考えればこれ以上の戦いは難しいものもあり、被害が出始めてもおかしくはない、ならばとキャロルが顔を上げ指示を飛ばす。
「アーキテクト、SOP、何とか近づいてぶん殴れ、胴体で構わん!!」
「え!?この攻撃の中を!?で、出来らぁ!!!」
「出来なくはないけど、フィールドは!?」
「アタシがフィールドはなんとかしてやる!!!」
キャロルが何を浮かんだのかは分からないが彼女が動き出したということは間違いなく策があるはずだと思ったノアがアレス達と戦った時のボウガンを再度生成、だが熾烈極まる攻撃の中、しかもヨゼフも何かに気付いたのか動きを見せたノアに攻撃を集中し始めれば、中々照準が合わない。
このままじゃと焦りがノアを襲い、彼女は半ば無理矢理に隙きを見出し撃とうとした時、彼女を複数箇所から棘を襲う、ヤバいと思うがもう既に回避はできる態勢ではない、こうなりゃと痛みに堪える覚悟でいると彼女を守るように影が前に立ち
「グゥっ!!!」
「お、おっさん!?」
「私に構うな、撃て!!!」
ノアを守ったのはエゴール、それに驚くも彼の言葉に即座に両手のボウガンを構えて射出、だがヨゼフはエゴールの行動に驚きながらも冷静に自身の前に壁を生成、これでと思ったのも束の間、矢が当たるよりも前にゲーガーが攻撃を回避しながら腰部のスラスターを全力で吹かせて壁に接敵し、両断
「私を忘れるのは、どうかと思うがな」
「っ!?」
そこで初めてヨゼフの表情に焦りが見えた、もはや矢を遮るものはなく彼はアレス達の戦闘データから知っているとは言えそれでもとフィールドを張るが接触と同時に変形したそれを防ぐことは叶わずに貫き爆散、しかし顔までを黒く変色させダメージにはならない。
しかし今回はフィールドを破ることが狙い、それがなされたのならば今度は自分たちだとアーキテクトとSOPが駆け出す、無論ヨゼフは変化を戻しながら迎撃に棘を、銃火器を生成して攻撃を始める。
「ガングニールは、頑丈が売りなんだよ!!!」
ハッハッハ、ノアのに比べればまだまだ甘い弾幕だよ!!」
「残りの弾薬、全部持っていきなさい!!」
攻撃をアーキテクトはガングニールをの拳部分を変形させて盾にして自身を守りながら、SOPは全ての攻撃は難しくとも致命傷、もしくは大ダメージになりそうなものを的確に避けながら、そして再度張られそうなフィールドはAR-15が残弾全てを使う勢いで銃撃を浴びせ、その間に接敵を目指し、もうあと寸前というところで彼女たちの両サイドからショットガンタイプのタレットが生成、だがそれらは
「どっこいしょ!!」
「行って下さい二人とも!!」
M16とM4がコンテナを展開、凄まじい衝撃で若干後退するがそれでも道は開かれ、二人はそれぞれ拳を握りしめて、ありったけの感情を乗せて叫ぶ
「くたばれ外道!!!」
「これが私の、全力全開だぁぁぁぁぁぁ!!!」
「がアァッ!!!???」
初めてのダメージがヨゼフを襲う、彼は軍人でも兵士でも傭兵でもない、唯の一科学者でありこのような痛みに対する訓練なんて受けたことはなく、想定以上の衝撃に思わず体が曲がる、だがダメージ事態を想定していなかった訳ではなく体内のナノマシンを使い再生をしつつ攻撃を再開、アーキテクトとSOPは後退を余儀なくされる。
だが役割は確かに果たした、後はとキャロルの方を見れば、彼女はダウルダヴラの機能を使って接近を試みていた。
「何を考えてるかは、知らないが……!!」
接敵させてはいけない、そんな科学者らしくもない勘で彼は今まで以上に苛烈な攻撃でキャロルを、そして今度は誰にも邪魔させんとばかりに周りを襲う、キャロルは接近戦が出来るわけではない、だがそれを何とか電磁シールドなどで防ぎながら突き進んでいく。
が、残り数センチと言うところで要の電磁シールドが熾烈な攻撃に耐えきれずに消失、次に彼女を襲うのは目の前の空間から射出されそうになっている攻撃
(肉を切らせて骨を断つ、許せ姉上!)
「などと思っているじゃなかろうな!!」
白く、小さいながらも誰よりも大きく見える背中がキャロルの前に躍り出て攻撃に対して発砲、三箇所からの攻撃を一つ、二つと撃ち抜くも残りの一つを前に弾切れをし、舌打ちをしながらキャロルを庇うようにその攻撃に向かって飛び、射出された弾丸は無慈悲にナガンの右目を撃ち抜いた
《おばあちゃん!!!!》
「落ち着けい、右目をやられただけじゃ!ええい、もう引退するからな儂は、それよりも行け!!」
「すまない、だがこれで」
「馬鹿な……!!」
フィールドを抜け、SOPとアーキテクトが与えた一撃によって変化が起きていない体の一部に向かってキャロルは掌を当てればそこから細い管が現れてヨゼフに何かを打ち込んだ。
トスッと言う音がヨゼフの耳に届き、何をと彼が思うよりも先に体を異変が襲った、先ず右腕が彼が何も思っていないのに関わらず変形を始め、体の変色が収まらず、次第に一部が鉱石になり、兵器になり、機械になり、軟体になったりと暴走しているように変化が始まる、これにはヨゼフも何が起きているとばかりに思考を回そうとするが脳ですら異変が起きているのか上手く考えが纏まらずに目の前のキャロルに
「きさ、ま、なな、なに、を」
「……【シェム・ハ】イントゥルーダーがそう呼んでいたウィルスだ、どうにも打ち込むと対象が機械であれば作り変えてまでハイエンドモデルにしようとするらしい、結局、詳細は不明だがそれでも今のお前には十二分に聞くウィルスだろうな」
要は、バランスが崩れたのだ。それによって彼は今コーラップス技術の暴走に呑まれ、それでもナノマシンの効果で体を維持しようとしている結果がこれである、維持しようにも出来ない、人間ではなくなり始めているのだ。
そんな彼をキャロルは冷たい瞳で見つめ、右目を抑えながらナガンは外道らしい最後を迎えようとしている彼に、せめてもの情けだとばかりに
「アナ、せめて人間として終わらせてやれ」
「えぇ、その首、仇打たせてもらいます」
「ま、だ、えいせ、へいが……」
スッと振るわれたアメノハバキリによって彼の言葉はそこで途切れた。何を言おうとしていたかなどは全員が知っている、まだ終わってないのだ
だがこれから先はナデシコに居るユノの担当である、なのでナガンは通信を繋げて
「こちらナガン、それなりに負傷者は出たがヨゼフ・アルブレヒトの死亡を確認、あ~、アンジェリカにも確認したほうが良かったかの」
《こちら国家保安局アンジェリカ、大丈夫よ、モニタリングしてたからこっちでも確認したし、で衛星兵器は?》
《それに関しては私に任せて下さい……じゃあ、オモイカネ、ウロボロスさん、AK-12、最後にもう一回手伝ってくれるかな》
彼女の、最後の大仕事が幕を開ける。
何だかんだで裏ボス戦らしい感じのボロボロ具合になりましたね皆……あ、エゴールさんは生きてます、安心して下さい。