それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
《……あの娘達、全員の自壊を確認、ネーヒストの反応も、皆の帰還をもってフェアリーリリース作戦の完了とします。ごめん、ちょっと席を外すね》
何とか指揮官として責務を果たそうとしているユノの声が機内に響く、それを聞いたノアも基地があった方を窓から眺め、泣いていた。
自分でこれが最善だと思ってた方法で彼女たちを解放した、でももしかしたら恨まれているかもしれない、そんな事を考えていたのにネーヒストは妹達を解放してくれてありがとうと、ユノからそれを聞かされ、そしてついさっきの彼女の気持ちを表したかのような歌を聴いて、涙が止まらなかった。
流れる沈黙、誰もが何かを話すという気持ちになれなかった、そんな中ノアが持つ通信機が突如として着信を告げる、何で個人にと思いながら涙を拭いて出てみれば
《ノア!?今大丈夫よね!》
「あ、ペーシャ?何だよそんな慌てて、つか緊急なら能天気バカに……」
《指揮官にも後で伝えるけどまずは貴女にってね、落ち着いて聴いて、クフェアの陣痛が始まったわ!SOCOM、クフェアに声を掛け続けて!!》
刹那、お通夜ムードだった機内がガラッと変わった。通信機を片手に目を見開き固まるノア、ペーシャの叫びが聴こえ同じような反応をする面々、唯一話が理解できないエゴールは急にそんな空気になり驚きながら周囲を見渡しているが、この場でそれを説明する余裕がある人物は誰一人としていない。
と言うよりも、その陣痛何時からだよとか、そもそも朝はそんな素振りも話もとかノアの脳内は絶賛パニックを引き起こしていたりしていると彼女のそれを見通したのかPPSh-41が
《どうやらこれから作戦だって時に不安にさせないためにと黙ってたみたいですよ、とにかく早く戻っきて側にいてあげて下さい》
「お、おお、おう!!81式、飛ばしてくれ!!!早く!!!!!!!」
「畏まりました、では当機はこれより全速を出しますので皆様方は着席後シートベルトをお着けになって下さいませ」
《ノアちゃん!!!!く、くく、クフェアちゃんが!!!》
「んなこと知ってるからテメェは落ち着け能天気バカ!!!!!」
先程までの空気は何処へやら、だが二人の声からそれでもまだ少しだけ無理をしていると分かるが若干軽くなった空気、エゴールだけは追いつけずにだから何がという空気を醸し出しているが割愛としよう。
そんなやり取りが数十分前、基地へと帰還したと同時にノアは直様クフェアの元へと駆け出し、その前まで着けばリベロールが待ってましたとばかりに
「こっちです!」
「クフェアは、ガキは大丈夫なのか!?」
「もう少しらしいです!ですから側で声を掛けてあげて下さい、頑張ってますから!」
ノアさんが到着しましたとリベロールが分娩室の扉を開ければ痛みに声を上げ脂汗を大量に流しているクフェアとPPSh-41とSOCOMがそんな彼女に声を掛けつつ必要とあれば気付けの処置をしていた。
そんな二人もノアに気付けばSOCOMが彼女に手術衣を着せてから
「クフェア、旦那様が帰ってきたわよ!ほら、力んで!」
「おい、クフェア!!えっと、なんだ、頑張れ!!アタシは此処に居るから、頑張ってくれ!!!」
「もう少し……もう少し……!」
「っ!!!」
この、数分後、赤ん坊の元気な産声が部屋に響く、元気な女の子をクフェアは抱きながら微笑みかけ、ノアは初めて見た赤ん坊、しかも自分の最愛の人の子供を見つめて眼をキラキラさせていた。
暫くは二人っきりにしてあげましょうということで分娩室から出ていった3人だが外では外で右目を機能消失レベルで負傷しているナガンと命に別条はないとは言え全身傷だらけのエゴールに休む暇はなさそうだと処置することになるがこれは余談である。
「良かった、本当に……」
「もう、心配し過ぎですよ。私とノアの子供なんだから無事に生まれてきてくれるって分かってましたよ」
ね~?と声を掛けてから、そう言えばとクフェアが未だ安堵の息を吐いて脱力しているノアに問い掛ける。
この子の名前はと、自分が絶対に付けてやると意気込んで毎晩毎晩とノートの前で頭を悩ませていた彼女に聞いてみれば、勿論考えてあると顔を上げて、抱かれている自分の新たな家族の頬を突きながら
「【クリス】だ、何でかは分からねぇけど、これが一番だなって思ってさ」
「ふふ、いい名前だと思うよ……これから元気に育ってね、クリス」
呼び掛ければ赤ん坊、クリスは反応を示せば、二人に笑みが溢れる、今日までに様々なものを失った二人が得た新たな生命、もう二度と絶対に無くさないと誓いながらノアとクフェアはPPSh-41が入ってくるまで家族3人の時間を過ごすのであった。
そしてクフェアの出産は既に基地中に知れ渡っているので半ばお祭り騒ぎだったりする、がPPSh-41はうーんと声を上げていた。その視線の先にはクフェアの出産を聞いて医務室に来たユノ、のお腹。
(……明らかにもう10ヶ月、下手すると臨月一歩手前とかですよねこれ)
「でも良かった、無事に生まれて、お婆ちゃんは怪我して帰ってきたけど」
勿論ながら一週間に一度検査をしているので胎児に異常が出ているとかそういうのはない、無いのだが寧ろ無いのが問題だと言うべきなのか、ついでに言えば
「しかしこれで私もお祖母ちゃんか、と喜ぶだけの用事だったら嬉しかったのだけどね」
「来てみればまさか出産騒ぎに巻き込まれるとはな」
確かにクフェアの出産についてはペルシカにも伝えたのだがまさかこんなに早くやってくるとは思わなかったとPPSh-41は思いながらペルシカとヘリアンを見つつ、とりあえず指揮官にはこれを伝えておくかと姿勢を正してから
「えっと、大規模作戦の後で色々とごたついてますが指揮官」
「ん?どったの」
「入院です、お腹の張りと胎児の大きさ、それと数値から見て恐らく臨月入りますから」
え?とユノの声が、それからペルシカが驚いた表情でユノを見つめて、ヘリアンがこれからの予定どうしたものかと頭を抱える。がこればかりは医者の判断なので覆ることはないのでキャロルを上手く使ってくれとしか言えない、ともかくこうしてユノの入院も決まったのだがそこでヘリアンが此処に来た本題を話す、それは
「私の、今後ですか?」
「わしとしてはお主ら家族にはもう戦いとは無縁に過ごしてもらいたいのじゃがなぁ……して、ペルシカ、お主も話があるのじゃろ?」
「私、と言うよりもヘリアン、いやもっと言えばグリフィンの新事業についてか」
新事業、これが私とどんな関係がと思いながらヘリアンの話を聞いて、ユノは悩みに悩んだ、少し前の彼女であれば悩むこそすれど指揮官以外は考えられないと断ったかもしれない。
だけど彼女は悩んだ、悩む、悩んで、選んだ選択にナガンはやれやれこれからまた忙しくなるなと呆れながらも納得し、ヘリアンは今後、そして未来を考えれば助かると笑い、ペルシカは彼女がそれを選んだという成長に微笑みを漏らすのであった。
そして、クフェアの出産から数日後、それは唐突に来た、朝方、ふと目が覚めたユノは腹部から感じたことのない痛みを感じ、クリミナを揺すりお越してから。
「ねぇ、クリミナ……お腹痛いって、あっ、水?」
「あ、じゃないですわユノ、それ陣痛ですわ!!!???なな、ナースコール!!」
ユノ・ヴァルター、彼女は過去の経験から内外からの痛みに異様な耐性を持ってしまっている少女だった。結果というべきか、彼女曰く確かにクフェアちゃんが言ってたように今まで以上の痛みだったと言うのだが出産は母子ともに無事に終え、産まれてきてくれたのは元気な、本当に元気な女の子だった。
「ふふっ、ユノによく似てますわね」
「いや、クリミナじゃない?ほら、こことか」
医務室、そこで二人はそんな会話をしながら我が娘をちょいちょいと指で手を突けばギュッと握りしめ、愛らしいその姿に笑みが溢れてからユノは優しい声で
「産まれてきてくれてありがと、そうだ、貴女の名前は……」
【ルキア】そう名付けられた彼女を抱き、それから自身の久し振りに見たぺったんとしてお腹を見つめて
「でも、あれだね、お腹が急に軽くなったからなんか違和感がすごい」
「ユノらしい感想にあたくしちょっと感心してしまいますわね」
彼女らしい抜けた感想にクリミナが答えれば、ふと外が騒がしいなと思えば、とてもにこやかな笑顔のPPSh-41が出ていき、少ししてルピナス達やアーキテクト、ヴァニラ達と言った基地の面々がクフェアのときと同じ様にお見舞いに来て彼女の子供の事や、そして入院してた間の事を話していったり、と一日が流れていくのであった。
P基地は大きな出会いと別れを沢山繰り返し、今日という日を迎えることが出来た、繋がりが生んだ大きな流れ、大きな変化、それを彼女たちは感謝し、やっと得ることが出来た穏やかな日常を過ごしていく……
これから描くのは遠い遠い未来、数十とは行かずとも、十数年と先のお話を最後に描こう、主役となるのは
「せんせー!」
声に振り向いた伊達メガネを掛けて純白の三編みをした、彼女に語ってもらいながら。
次回、フィナーレ
それはそれとして割と重大イベントの出産を1ページに二人を纏めて圧縮したとかマジかよ……
あ、因みにそれぞれの名前は
クリス→そりゃお前、キネクリさんベースのノアの子供なら名前はこうなるやろ
ルキア→ペルソナ3の風花ちゃんのペルソナが覚醒後は【ユノ】覚醒前が【ルキア】、つまりそういうことよ