それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
グリフィンが管理している共同墓地、幾つも並ぶ墓の一つの前に佇むように立っている男性が居た。墓石には【レイラ・エストレーヤ】と刻まれ、その男性が持ってきたのだろう花束が添えられている、そしてそれを添えた男性は何をするわけでもなくその墓石を見つめ続け、それから
「あんな形で、お前と再会することになるとはな……」
男性、【エゴール】がポツリと呟く、その声には悲しみにも、しかし何処か分かっていたという納得も含まれているのだが真意は彼にしか分からない。だが言えるのはエゴールが言う【あんな形】彼女の体を素体にした人形兵器【赤い霧】として再会はしたくなかったということは確かである。
あの作戦【フェアリーリリース作戦】で変わり果てた彼女を見た彼はそれを行った【ヨゼフ・アルブレヒト】に怒りを抱いた、だが戦いを終えてみればそれ以上に生まれでた感情は後悔だった、あの日、彼女が正規軍を抜けると聞いた日、エゴールは迷った、このまま見送るべきなのか、それとも……
「無理にでも共に行っていれば、このような形にならなくて済んだのだろうか」
しかし、彼を慕う部下を裏切ることも、何より自分まで抜けたとあればカーターとヨゼフの介入の危険性を考え、彼女をKIAという形で正規軍から逃がすだけに留めてしまった……自身が惚れた女へ、自分ができる最大限をしたつもりだった。
だけども現実は彼を打ちのめした、彼女がグリフィンに逃げ込んだというのは知っていた、もしかしたらまだ陰ながら出来ることがあるかもしれないと考え始めた矢先、レイラが殺されたと言う知らせが彼の耳に入った、こんな世界でも彼女は正義を貫き、そして死んだのだとすぐに気付けた。
エゴールはレイラ・エストレーヤに惚れ込んでいた、一目惚れだったかもしれない、偶々共同作戦の時に出会い、その強さに、気高さに、優しさに、全てに惚れていた。そんな彼女が死んだと聞かされ彼は酷く落ち込むもすぐに前を向いた、それは軍人としての彼がそうさせたのかもしれないが、それよりも彼女が描こうとした理想をどうにか形にしてやろうという心があったのかもしれない。
誰もが不条理に泣かない世界を、誰もが幸せを得られる、そんな綺麗な世界を、彼女のようにはできないかもしれないがそれでも自分ができる形で、と。だからこそヨゼフからその理想を叶えるためにこちらに来ないかと言う話に彼は揺らぎ、既の所、カーターを殺す為に背中から銃を向け……たが裏切りはしなかった、彼女ならばどうするか、そう考えた時、エゴールは銃を下ろしていた。
だがその直後、彼が裏切らないと分かっていたのかウサギ部隊、ヨゼフは【ラビットプロトコル】と呼ばれる部隊の襲撃に遭い、カーター一派諸共、壊滅的被害を被ることになったのだが。
「大男が一人で墓の前で何、黄昏てんだか」
思考の海に沈んでいた意識が、女性の声に反応して急浮上した。それからその方向を見れば義手義足が目立つ女性、国家保安局の【アンジェリカ】が花束を手に向かってきていた、彼女はエゴールに軽く視線を飛ばしてからレイラの墓の前まで向かい花束を添えてから
「で、正規軍の大尉殿がグリフィンの一介の指揮官のお墓の前で何してたのかしら?ていうか、そっちはそっちで今はゴタゴタしてるのに此処で油を売ってて良いのかしらね」
「……懺悔、とでも言えばいいか。彼女が正規軍を抜けるという日に私はともに行くという選択肢を取らなかったということに対する。それと多少の暇はある」
「きっちり答えてくるのね、まぁ彼女のことだから、一緒にって言っても断ってきたわよ、それこそ上手いこと言ってね……こいつは、最後の最後まで私にすら頼らなかった大馬鹿者なんだから」
そう告げるアンジェリカの声に微かな怒りが混ざっていることにエゴールは気付いた、恐らくは彼女もレイラを支援していたのだろう、いや、口ぶりから察するに支援すると提案していたのだが向こうが頼らなかったというところだろう。
「他人のことは引っ掻き回して、だと言うのに頼るってことを知らない、お陰で私がどれほど後悔したと思ってるのよ」
「お前も、なのか」
「ええそうよ、もっと強引に行けば良かったとか考えなかった日はなかった」
故にアンジェリカはP基地に協力を申し出た、短い付き合いだったとは言え友人とも言える彼女の仇が討てると。だがこうして作戦を終えて、考えてみれば彼女は笑ってしまう光景が此処にある、銃を突き付け合っても不思議ではない人物と同じ人物の墓を前に語っている、本来であればありえない光景に軽く笑い
「少しでも考えたことないわよ、正規軍と肩を並べて作戦を遂行するなんて」
「それに関しては同感だ、何があるかが分からない世界とは言え、こればかりは想定すら出来ない」
「驚いた、大尉殿は笑えないものだと思ってたのだけど」
「私を何だと思っている……それよりも先程は私に油を売っててと言ったがそっちこそ暇なんてない筈では?」
エゴールの指摘通り、フェアリーリリース作戦の最後、ネーヒストが指示を出し8機による汚染地域への照射攻撃は世界に衝撃を与え、アンジェリカを初めとする国家保安局は忙しなく動き回っていたりする。
のだがアンジェリカが言うには墓参りくらいは問題ないらしい、本当はそれすらも怪しかったりするのだがエゴールが知る由もないことである。
「それで、正規軍はこれからどうするのよ。カーターだって未だ重傷が癒えてなくて動けないらしいじゃない」
「どうもこうもない、立て直す他ないだろう……ヨゼフが遺していった傷痕はどれも深いがな」
現状、正規軍はウサギ部隊の強襲により少なくない被害を被っており、その立て直し、それと並行して汚染地域への照射攻撃のお陰で多少は勢いがなくなったEILDの対処に当たっている、が今後、正規軍が大規模な動きができるようにはならないだろうとアンジェリカは睨んでいる。
また今回のヨゼフ・アルブレヒトの始末のためにP基地と接触したことにより、今後はユノに関することを彼らから手を出すことをしないという署名をしており、結果として彼女たちは正規軍の影に怯えなくて良くなってもいる、まぁ最も
「(エゴールの反応を見るに、元々手を出すつもりはあまりなかったという感じでしょうけどね)さぁて、これ以上油売ってると怒られそうだし、私はもう行くわ」
「そうか、いや、私も行くべきか」
んじゃね、と手を振りながらアンジェリカは歩き出す、これから向かうのはまた面倒な仕事であると溜息を付きながら。その姿をエゴールは見送ってから最後にレイラの墓を見つめ、彼もまた歩き出し姿が消えたタイミングで
「あれ、花束が2つも?」
PPSh-41の護衛として来ていたアナが現れ、添えられた2つの花束に驚くのであった。
やっぱりレイラさんってトンデモねぇ無意識誑しウーマンだったのでは?
まぁエゴールさん云々は共通ルートになっても変わってないという