それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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ちょっと山中にあった村まで


パイプオルガンを求めて

ユノとクリミナが生涯を誓い合った場所、P基地に建設されたのがその教会である、外装から内装まで本格的なそれは現在も管理者であるG3とその妹であるHMG21の二人の手によってあの日のまま、いや、それ以上の状態を保ち続けている。

 

「パイプオルガンをかい?」

 

「はい、今この場にある電子オルガンも不満ではございませんがやはり雰囲気と今後何かしらで利用すると考えれば、是非とも設置したいと思いまして」

 

そんな教会でのとある日、珍しくG3からスチェッキンに注文があると来てみて事情を聞いてみれば上記の物を注文された。だが彼女たちも分かってはいると思われるが、この注文には流石のスチェッキンも難しい顔を晒す、というのも

 

「うーん、そこまで立派なものと言うと正直、期待はできないと思うよ?」

 

無くはないだろう、だが落ち着き始めたとは言え今までの傷痕が色濃く残るこの世界では現存しているそれらは貴重品に入る分類のものであり、よしんば在ったとしても既に誰かの所有物であることが大多数、類稀な商才を持ち合わせているスチェッキンと言えどこの注文には素直に白旗を上げざるを得ない案件である。

 

だが、G3もそんなことは理解しているはず、まさか自分だから出来るだろうという安易な発想はしない人形であると言うのがスチェッキンから見た彼女、なにか考えでもあるのかと聞いてみれば

 

「心当たりが、一つだけ……絶対、というわけではありませんが。ですがあそこならば他にも貴女の商売に使えそうなモノも眠っている可能性があります」

 

「ふむ、ともすれば是非とも聞きたいね」

 

「ただ……いえ、何でもありません、強いて言うなら獣道にになってるかもしれないので、その辺の準備をお願いします」

 

言葉を濁すG3にこれまた珍しいものを見たとばかりに視線を送るスチェッキン、もしかしてかなり面倒な場所なのだろうか、ともすれば回収に行くのならば人数が必要かなぁと思考を巡らせている間にG3は自身の準備のために教会へと入っていく、彼女が何を言おうとしたのか、その時は深くは考えなかった、だがスチェッキンは少し考えるべきだった。

 

そもそもにしてこの基地のG3が提示する場所がマトモな訳がないのだと……という事でスチェッキンとトンプソンとお姉さんが行くならばと着いてきたHMG21はG3の案内で目的地へと辿り着く、そこはS地区のとある山中にあった。

 

「こんな所に村があるなんて、聞いたことなかったよ」

 

「私も初めて聞きました」

 

「まぁ、ざっと見た感じ廃村だがな、でパイプオルガンが有るってのはどこなんだ?」

 

「こちらです」

 

迷いのない足取りで先頭を歩くG3に着いていく3人、その間も廃村の様子を見るが大きさはそこまではなく、だが住居と思われる建物の数はそれなり、殆ど文字がかすれて読めないが看板らしきものを掛けている建物もあり活気自体はあったのだろうと推測ができる。

 

元は恐らくは普通の村だったのだろうか、そんな事を考えていた3人だったがG3が案内した建物、そこはこの村に唯一の教会、長い年月によって朽ちている部分は多々見受けられるがそれでも形としてしっかりと残っているそれを前に三人は感嘆の声を上げ感想を述べる。

 

「立派な教会ですね、基地のよりも大きいかも」

 

「結構朽ちちまってるけどな、だけど確かにここならありそうだな」

 

「修繕とかは間違いなく必要だろうけど、その辺りはスリーピースに任せればいいか」

 

なんでアイドルがパイプオルガンの修繕出来るんだよとトンプソンの軽いツッコミが入るが実際出来るからスチェッキンは言っているのである、そんな風に盛り上がる彼女たちを背にG3は特に何かを反応するわけでもなく教会の扉に手をかけて力を込めれば、所々がやはり錆びついているとかだろう、ギギギと言う重い音を立てながら開かればエントランスホールは無く、直ぐに礼拝堂に繋がっているのだがそこの状況を見た3人の表情が固まった。

 

白骨死体だ、それも一人二人とかではない、礼拝堂のベンチ形の長椅子に等間隔で並んでいるのだ、しかも大人だけではない背丈的には子供と言える白骨死体も存在している、その数は目視できるだけでも村の住人全てではないかとすら思える数にトンプソンがやっとの思いで口を開く

 

「んだよ、これ……」

 

「老若男女ってだけじゃないね、ほら、コイツ人形だ、でもなんだコレ、自殺したみたいな体勢だ」

 

指摘の通り、人間の白骨死体に紛れ中には人形もあった、何かに祈りながらその口には拳銃が握られ間違いなく自殺だと言えるその体制にスチェッキンが推理すれば礼拝堂の奥へと歩みを止めずに進むG3が振り向きもせずに

 

「みたいな、ではありません。この場にある人間人形問わずの遺体は全て自殺した者たちです」

 

「どういうことお姉さん」

 

HMG21からの問いかけにどこから話したものかと悩む素振りを見せてから、折角ですから一から話しましょうかと適当な椅子に腰掛けてから

 

「ここではたった一人の人形を崇め奉っていました、村人全てが、彼女を」

 

「村全体が一つの宗教だったってことか」

 

宗教だった、トンプソンの言葉に奥に飾られていた不気味なほどに小綺麗なパイプオルガンを撫でながらG3は自嘲気味に微笑み、頭にカルトって言葉を付けるのがお似合いですけどねと告げた時、彼女たちの背後から女性の声が響いた

 

「カルトだなんて、ただ皆、救いを求めていただけです」

 

「っ!!??」

 

三人は武器を構えながら即座に振り向けば如何にもな真っ白いローブに身を包んだ腰まで行きそうな長い髪の女性の姿、だがしかし音もなかった、気配も感じなかった、特にトンプソンとスチェッキンは裏で培ったレーダーみたいなものがあるというのにそれらには一切掛からなかった。

 

何より、この村に入ってから気配の一つすらなかったというのに彼女は現れたのが不気味でしょうがなかった、だからこそトンプソンが威嚇するように一歩踏み出すと同時にG3から

 

「安心して下さいトンプソン、それとカルトでしょう、病が流行る前に皆で楽園へと向かいましょうと告げ、村人全てが迷いもなく自殺を行うなんて」

 

「私はただ、村が苦しまない方法を提示し実行しただけですよ、ですがここも寂しくなってしまいまして、宜しければまたあの時のようにここで修道女として働いてくれませんか?」

 

やっぱりか、スチェッキンは内心で納得する。本音を言えばこの村に案内され、教会を見てから薄々そんな感じはしてたのだが、対してG3は彼女からの問に憐れみの表情を浮かべ、ただ告げる、私は既に

 

指揮官()に全てを捧げていますので、貴 女(に せ も の)は消えて下さい、あとこのパイプオルガンは指揮官()へ聖歌を送らねばならないので貰いますよ」

 

「そう、残念です。あとそれならばお好きにして下さい、そのようなガラクタでよろしいのであれば」

 

「ガラクタ?いや、結構小綺麗なって……どういうことだよ」

 

この教会に来てからトンプソンの何度目かとわからない困惑の声にスチェッキンとHMG21も見れば、そこには先程までの不気味なほどに小綺麗なパイプオルガンではなく、経年劣化によって錆て朽ちかけているボロボロのパイプオルガン、さっきまでは確かにとスチェッキンは混乱していると今度はHMG21がバッと振り向くと、さっきまで居たはずの女性が影も形も、まるで始めから存在なんてしなかったとばかりに消えていた

 

「あれいつの間にか居なくなってる、今、え、私ら確かに会話してたよね」

 

「居なくなってませんよHK21、ほら」

 

朽ちたパイプオルガンの状態を確認し終えたG3がHMG21の言葉に答え指を指す、そこは礼拝堂の祭壇の位置、そこに自身の胸に一振りの剣を貫いた体勢のまま立っている一体の人形、風化し生体パーツは腐り始めており、正直に言えば顔なんかも特定できる状況ではないはずだったのに三人ははっきりとこの人形が先程まで会話をしていたはずの人形だと理解してしまった。

 

それから、彼女たちは一言も話さずにパイプオルガンを回収、基地へと持って帰る、勿論ながらスチェッキンはあの村から何一つ持ち替えることはしなかった、いや、出来なかったとも言える、誰が好き好んで間違いなく何かが憑いてそうな物を商品に出来るんだというのが本音だろう。

 

それから数日後、スリーピースの面々によってパイプオルガンはほぼほぼ修復が終わり、教会ではG3とHMG21により指揮官とクフェアの子供の生誕を祝う歌が彼女たちにお披露目された、一部興味本位で聞きに行った人形が危ういところまで引き込まれそうになったがそれ以外は問題なく、ユノ達も二人のかなりの歌唱力に驚くのであった。

 

……だが翌日、スチェッキンとトンプソンは恐怖体験を改めてすることになった。その日、彼女たちはいつものように移動式屋台のメンテナンスを終えて、今日はどこで販売でもしようかねと話しているとG3の案内で一人の人形が現れた。

 

「あぁ、良かったまだ出発してませんでしたか」

 

「ん?おっと、新人さんかな、私はスチェッキン、見ての通りこの基地では様々な商売をしててね、対価さえくれれば……」

 

「なぁおい固まるなスチェッキン、私の見間違えだって冗談使えなくなるじゃねぇか」

 

自己紹介の途中で新人の人形の顔を見たスチェッキンは固まり、トンプソンも声が引き攣り始める、いや、ありえない、きっと同じ型の人形なだけだ、スチェッキンはなんとか電脳内でそう唱え、落ち着かせようとしたのだが、相手の人形の口がゆっくりとこう動いた

 

ま た あ え ま し た ね ってあら」

 

「そうなるに決まってるじゃないですか……」

 

抱き合いながら目を回してしまったスチェッキンとトンプソンにあらあらと【M82A1】の抜けてる感じの声に面倒なことになりますとG3の溜息が重なる、後日、謝罪をしたとは言えこの日から二人はM82A1に苦手意識を持ってしまったとかなんとか。




なんでホラー風味なんだって?そりゃお前、ちょっとソシャゲでサマーキャンプしてたから……

【M82A1】
もしかしなくても憑いて来ちゃった人形、間違いなくバグ個体なのだがP基地だから良いでしょということで通された、スチェッキンとトンプソンからしてみれば大迷惑である。
基本的に教会に居り、祈ってたり掃除してたり、パイプオルガンを弾いてみたりしている、因みに寝泊まりも教会である。

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