それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!   作:焔薙

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あの人が例え望んでいなくても、私は復讐のために生き続ける。


目的を遂行するまでは……

とある地区の廃病院、その地下の一室、何台もあるモニターにはなにかのデータと人形の姿が映し出されており、また禄に片付けられていない机などには数式や薬品の名前、そしてコンピューターウィルスの記録などが書かれているその部屋、そこで一人の少女が試験管に入れられている怪しげな色の液体を観察していた。

 

髪には幾つも白の髪留めをしクリップのようなもので一本に纏められ、顔には如何にもな丸メガネを掛けている女性はその薬品が入っている試験管を軽く数度振るい、起きた反応を見つめてから

 

「よぉしよし、狙い通りだ」

 

どうやら満足の出来だったらしく笑みを浮かべながらその試験管を機械にセットして作動、その間に先程の結果を紙に書き記してから、次の作業に移ろうとした時、一つのモニターが警告音のような物を鳴らしてから廃病院入り口の風景を映し出す。

 

少女は当然それに視線を向けるのだがモニターに映し出された画面を見つめてから、あぁと口元を大きく歪ませて笑みを見せ、モニターを消す。

 

「そういやぁ、もうそんな時期だったな、確か前のデータを元に改良したのがこの辺りにっと……」

 

楽しげな声で呟きながら少女は先程まで行おうとした作業をほっぽりだし、更には機械にセットした薬品のことすら電脳から追い出して他の作業を始めた、まるでその人物が来たらそれまでのこと全てを放棄してでもこちらを行うのだとプログラムされているように。

 

カツン、カツン、カツン、と人っ子一人、いや、生命の気配一つも感じられない廃病院の廊下を彼女、S09P基地の特殊部隊『ヤークトフント』のリーダー『USPコンパクト』が歩いていく、だが彼女はここにヤークトフントとして来たのではない。

 

彼女がここに来ている理由は自身が普段から服薬している人形用の精神安定剤を受け取りに来ただけ、だが誰もが思うだろう、あれはIOPから受け取っているのではないのかと、ならば受け取るのはこんな廃病院ではなく、本社やIOPのラボではないのかと。

 

確かにIOPが関わってはいる、だがそれでは、IOPからの『安定重視』の薬では最早、彼女の自我を保つことは出来ない、故に彼女はここを拠点としている人物の元を訪れているのである。それから暫く廃病院を歩き、見ただけでは機能を停止しているエレベーターの扉を手動で開けてから、決まった順番に階層のボタンを押していけば、エレベーターが稼働、下に、下にと下っていき扉が開けば、そこは冒頭にも登場したあの少女のラボ、となれば

 

「よぉよぉ、おめぇが来るのを楽しみにしてたぜぇ?」

 

「……要件はいつものです、約束のものはこちらにありますからさっさと用意してください【マッドドクター】」

 

USPコンパクトはそう告げながらアタッシュケースを近くの机に置いて開く、中には現金とIOPから提供されている精神安定剤、マッドドクターと呼ばれた少女は現金には目もくれずに精神安定剤を取り出すと中身を数度確認してから迷いなく自身の首筋に注射器を立てて薬品を流し込んでから

 

「あ~、なんだこれ、くっそ弱いな、こっちから改良データ出しただってのにこの程度じゃ、何のために渡してんだか分かんねぇな」

 

弱い、とは彼女は言っているが本来であれば正常な人形が取り込めば逆に狂う筈の代物をマッドドクターは笑いながら感想を述べ、殻になった容器を放り投げてから、ちょい待ってなと部屋の奥へと消える。

 

その様子をUSPコンパクトは見つめながら、消えていったタイミングで溜め息を吐く、彼女は正直に言えばマッドドクターと呼んでいる少女が苦手である、出来ることならば頼りたくないとも思っているのだが自分を成立させる薬を現状で作れるのは彼女しか居ないので仕方がなく頼っている。

 

数分後、マッドドクターが持ってきたのは大きなジュラルミンケース、USPコンパクトはそれを受け取ってから開けば、中には綺麗に陳列されている彼女特性の精神安定剤、その一本を取り出してからプシュッと首筋から投与、その様子を見てからマッドドクターは

 

「いやぁ、にしてもオメェも凄いよなぁ、本来であればどんな人形でも一発で廃棄処分になるようなモノをキメてるってのに異常も何も出ないなんてよ」

 

「……」

 

「今回のだってそうだ、前のよりも効力を上げてるから、それこそどんな異常者でもハイになるとか感じられずにブッとぶ筈だってのに、いやいや、素晴らしい復讐心だっと」

 

べらべらと一人で好き勝手喋り倒すマッドドクターにUSPコンパクトは愛銃を向ける、彼女がマッドドクターの事が嫌いな理由はこの性格もあるが、他にもっと大きな物がある。それこそこの薬が作れないのならば今ここで銃爪を引いているほどの理由が、だがそれは出来ない、やってしまえば……

 

「次に、余計な口を開いたら眉間に風穴ぶち開けますよ」

 

「いいや、殺せないね。あたしを殺せば、追えねぇもんなぁ?」

 

自身の大切な場所を、自身の大切な人を、大切な仲間を、ELIDに食い殺された、だがそれは自然に起きた襲撃ではなく、ほぼ間違いなく人の手が入った物であり、今尚彼女はその犯人を探し求めている、生きているのか、それすら分からない存在を。だからこそ彼女はこの崩壊してしまっているメンタルを繋ぎ止めれる薬が必要であり、しかも目の前の少女は未だ裏に身を浸けているが故に基地の面々では手に入らないような情報すら持ち合わせている、だから殺せない。

 

それを理解しているからUSPコンパクトはそっと銃を下ろして、ジュラルミンケースを持ってから去ろうとした所でマッドドクターから声を掛けられる。

 

「そういや、アンタが追ってる奴らについて少し情報が来てるよ」

 

「っ!?」

 

「わお、良い食いつきっぷり、お代はまぁ今回の試薬品のデータでいいか、さて本題、とは言っても具体的な所在とじゃない、組織の名前だけ」

 

「構いません」

 

「ソイツらの名前は【タルタロス】ELIDの生物兵器化を目論み、自身の意のままに操ろうと研究を続けている組織さ、まぁ言っても名前だけであとは碌な情報が出回っていないところを見るに潰れたんじゃねぇの?」

 

態とらしく肩を竦めそう締めるマッドドクター、だがUSPコンパクトは軽く礼を告げてからラボを後にする、その瞳には確かな黒い炎を滲ませながら。それを見送ったマッドドクターは苦笑いを浮かべつつ彼女が来る前に中断していた作業をしようと機械に目を向けた時

 

「あっ……やっちまった」

 

止めるのを忘れた機械には中身が無くなった試験管が一つ、また1から作り直さないと駄目じゃんかと言う嘆きがラボから聴こえるのであった。




【マッドドクター】
戦術人形ではないのでその名称で呼ばれないがK11である。P基地のPKよりも薬剤関連の腕はあり、本来であればIOPからの精神安定剤ではどうにも出来ないUSPコンパクトのメンタルを維持できる薬を作れるほど。

ヤークトフントが絡むとどうしても闇が深い話になるんだよなぁ……因みにこのマッドドクター、フリーな存在なので非合法な薬とか必要ならば使ってもいいのよ?

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