それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
模擬訓練ルーム、そう名付けられているここは部屋其の物のがVR空間と同じような感じになっており、更には出てくる敵なども実体があるような感触を出せることからここでは専ら実戦形式で訓練を行いたいという人形達が利用している。
因みにその実体を感じさせる電子ターゲットの実装にはトゥーマーンの多大な協力(キャロル命令による強制)が含まれていることを知るものは数少ない、と余談は置いておき今その部屋で一人の人物が訓練を行っている。
「疾っ!」
静かに息を吐きながら、周囲から絶え間なく迫りかかってくる敵をアメノハバキリ……ではなく、S10地区前線基地の『ギルヴァ』から送られた彼の刀を魔力と呼ばれる未知の力で再現された刀『幻影』で斬り捨てていくのはランページゴーストの副隊長のアナ、彼女はこれを送られてから毎日のように訓練を行い、彼が言った一言『使いこなしてみせろ』に答えるべく日々振るっている。
その切れ味はアメノハバキリよりも上でありながら軽く、そしてこの刀自体に使用者の身体能力を向上させるという効果もあるらしく、それも相まって圧倒的数の敵を相手にしても大立ち回りが出来るほどに彼女は動け、彼女はもう送られてきたそれをモノにしていると、第三者からすればそう見えるだろう。
だがそれはあくまで第三者から見た話である、訓練開始から約30秒が経過したと同時にそれは現れた、突如として動きに精彩を欠け敵の攻撃を交わすことも受け流すことも難しくなり、そして規定値以上のダメージを受けたというアラームが鳴れば抜身のまま幻影を杖代わりに突き立てて、膝を付き、肩で息をする程に疲弊していた、あのどんな戦場であろうとも息一つ乱さない彼女がだ。
「ぜぇ……ぜぇ……」
中々整わない息を何とか抑えつつ、チラッとタイムを見れば30秒とちょっとと言う表示、それを確認してから彼女は深く溜息を吐き出す、幻影と呼ばれる刀を己のモノにするべく訓練を続けているのだがこの30秒という壁を超えることが出来ていない。
一つ言うのならばこれがアメノハバキリであればこんな短時間で息が上がったりは起きたりはしない、では何故か?それは上記でも書いた幻影の能力である『使用者の身体能力を向上させる』にあった。
これは読んで字の如しアナの身体能力を大幅、とまでは行かずともかなり上げてくれているのだが結果としてその向上に素体が追いつかないのである、正確にはフレームが悲鳴を上げる、と書けば良いのだろうか。ともかくその結果、彼女が幻影を握って戦闘行動ができるのが30秒と限定的なものとなってしまっている。
「はぁ、はぁ……まだ、刀に振り回されてます、ね」
更に言えば、彼女自身まだ幻影を扱いきれているというわけでもないのも原因の一つなのかもしれず、無論アーキテクトとキャロルはじめとする科学者組に相談はしているのだが今日まで音沙汰がない。どうであれ本来であればこの刀は魔力を元に斬撃を飛ばしたりも出来るらしいのだがそれもアナは成功したことがなく、まだまだ己は未熟かと苦笑を漏らしてしまうほどであった。
が、その日は転機が訪れる、彼女が息を何とか整えていると部屋の扉が開かれて入ってきたのはスユーフ、彼女は部屋の中央で息を整えているアナを見てから
「流石に毎日は身体が保ちませんよ」
「それは、分かっています。ところでスユーフ、何か用なのでは?」
「そうでした、マスターが貴女に特殊ラボに来てくれと」
彼女からのその言葉にアナは了解したと伝えてから息を整え、幻影を鞘に収めてからそれを腰に挿してキャロルに呼ばれた特殊ラボへ向かう。
カツンカツンと規則正しい足音を鳴らしながら地上のラボから更に地下にある特殊ラボ、そこでは指、声、眼、暗証番号、言葉、とこれでもかと厳重なロックを一つ一つ解除していき開かれた扉を潜り
「ランページゴースト、副隊長アナ。只今到着しました」
「来たか、まぁ楽にしろ」
そう告げるのは呼び出した本人でありP基地の現在の指揮官、そして技術部門では主要メンバーの一人であるキャロル、無論彼女だけではなく他のメンバーであるアーキテクト、88式、89式も居るのだがその表情は完徹とまでは行かなくとも超長時間にも渡る開発作業をしていましたという表情を浮かべており、何があったのかと思わずアナが聞いてしまえば、三人とは対照的に何処と無く浮かれた、と言うよりも楽しいことがあったという感じでキャロルが答える
「いや何、非常に満足の行く開発ができたと言うだけだ、さて本題に入るか、アーキテクト説明を頼む、おい!」
「んあ?お、アナっちじゃん、やぁやぁ、っていうことはアレの説明か、よいしょっと!」
状況を把握したアーキテクトが声と同時に立ち上がり端末を操作すれば丁度部屋の中央から台座が迫り上がりそこに鎮座するように飾られていたのは円柱状の赤い水晶を中心に同じく赤い六角形の細い水晶が左右に取り付けられているアクセサリーのような物。
これは?と疑問を言葉にせずとも視線でアーキテクトに向ければ
「これはアナっち専用の強化装置、その名も『イグナイトモジュール』、ざっくりと言っちゃうとキャロりんが現在進行系で研究してる特殊ウィルスである『シェム・ハ』と鉄血のウィルスである『傘』を同時作用させてアナっちをハイエンドを超えたハイエンドモデル、通称『ダインスレイフ』に一時的に作り変える装置さ」
「と言ってもそれだけならば暴走装置に成り下がる、故にこの装置が作動と同時にユノ達に使われているナノマシン『エアハルテン』とDG小隊のリバイバーから提供されたアンチ傘ウィルスである『酸性雨』を効果が遮らずに尚且、お前が変容及び暴走しない程度に投与、そして時間切れによる解除と同時に二つを完全に体内から浄化、エアハルテンを利用して作り変えられたボディを戻すという仕組みになってる」
モニターを使用しながらの説明だったがそれだけでもこれがどれほど強力な装置であり、同時に危険を孕んでいる物かを理解できた。更に聞けばこれは別に彼女が幻影を十全に扱えないという話の前から開発が進められていたらしくその理由を聞けば
「ランページゴーストは何かと特殊な敵との戦闘が多いからな、それと……」
「指揮官?」
「悪い予感がしてな、まぁそこは良い、ともかく今後を考えての開発にお前の相談があって急ピッチに進めていたというわけだ」
それ以上は聞くなと言外に言われてしまえばアナも引き下がるしか無く、それから今度は一度イグナイトモジュールに適合させるための試運転が必要という話になり、特殊ラボに設営されている実験場で行うことに。
気付けばナガンも呼ばれたのか来ているのだが今の彼女にはそれを気にする余裕はなく己の胸元辺りに付けられたイグナイトモジュールに触れながら息を整える、追加で説明されたことなのだがこの初めの試運転が非常に大事で同時に鬼門だと。
曰く、メンタルを覚醒したまま自身の体を1から弄くり回されるというのだ、つまりは麻酔無しに手術を施すものである、だが彼女はそれでも怯まずにこれに望んだ、理由は幻影を使いこなすというのもあるが、それ以上に
(今後、ランページゴーストでも苦戦するような相手が現れた時に後悔しないだけの、誰も死なせないだけの『力』、それを手に出来るというのならば……)
「モニタリングシステムオンライン、アナさん、始めて下さい」
「……ふぅ、イグナイトシステム、起動」
静かに宣言をしイグナイトモジュールの左右の水晶をカチッと押し込めば、変化は直ぐに起きた。覚悟していた筈だったがいの一番にアナを襲ったのは内側から食い破られるような激痛、そして同時に己のシステム全てが一気に書き換えられるような感覚に思わず
「あ、があああああぁぁああぁあ!!???」
どこから出てきているのか本人にすら分からない絶叫が実験場に響き渡る、それはこのまま死んでしまうのではないか、そんなことすら思わせる声に88式は思わず耳を防ぎ、89式も目を背けてしまう。
だがキャロルとナガンとアーキテクトはただ黙って見つめる、その視線の先ではまだアナが身体をくの字に曲げて耐え続けていた。
「ガッは、うっが!?あああああ!!!???」
「しゅ、主任!!アナさんのバイタルが!?」
「どれも危険水域一歩手前だよ!!」
「マズイかも……キャロル!」
「チッ、流石にぶっつけは「いや、続けろ」祖母上!?」
バイタルサインが乱れに乱れ、これ以上は危険だと緊急停止ボタンを押そうとしたキャロルをナガンが止める、このまま見殺しにするつもりかと言う視線を彼女が襲うが、それを受けつつも彼女は笑い
「呵々、あやつを嘗めてくれるなよ。のぉ、アナ?」
《ゴホッ、ガァ、そう、ですね……ゼェ、中止なんて戯言は止めて欲しいですね》
モニタリング室のマイクでアナに語りかけるように呟けば、返ってきたのは苦しみながら軽口を叩く声、そこで88式がバイタルを見てみれば先程までは確かに乱れていた筈のそれが安定、そして数分に渡る格闘の末、実験場に先程までのアナの姿ではなく、所々に黒い刺々しい装甲に身に纏ったアナの姿、つまりは
「い、イグナイトモジュール適合に成功、更に稼働を確認、カウントダウンスタートしてます!」
「成功、したの?」
「末恐ろしいメンタルだな……」
「言ったじゃろうて、してどうじゃ、調子の方は」
「問題ありません、いえ、寧ろ調子が良すぎるくらいですって……ナガン、何の知らせもなしに模擬敵を出すのはどうかと思いますよ?」
89式に至っては声を失うほどの衝撃を受けているがそれは置いておき、アナにナガンがそう聞きながら模擬訓練と同じように敵を出現させ、彼女はその場で幻影を抜いて戦闘を開始すれば効果は明らかだった。
今までとは段違いに幻影を振るえている、更に言えば向上した身体能力にも振り回されている感じもなく今まで以上に戦えていると、だが
(カウントダウンは60秒、つまりは一分が限界ということか)
「見えていると思うがイグナイトモジュールの連続稼働は一分、それ以上は強制的に解除されるから気を付けろ」
更に時間一杯まで使用後に再使用しようとするのは一時間のクールタイムが必要であり、それを振り切っての使用は出来ない、そう伝える。
だが十分であるとアナは答える、そもそもにしてこれを使うときは間違いなく決戦時、ならばその戦いは一分もあれば十分だと。こうして彼女は新たな力を手に入れ、アナは刀を鞘に収めながら再度思う、もう二度と誰も死なせないと……その気持ちに答えるように『幻影』が淡く光っていることには気づかずに
S10前線基地にいるデビルハンター兄貴から貰い物したからね、と言うのと丁度良くアナさんの強化イベが重なった結果である。
うん、済まない……また(シンフォなギアネタ)なんだ、仏の顔もって言うしね、許してもらおうとは(ry
イグナイトモジュール
ほぼほぼ本編参照、装甲のデザインは大体シンフォなギアの防人さんのイグナイト。因みに幻影はイグナイト状態じゃないと十全に扱えなず、なので基本的にはアメノハバキリを使うって感じの設定にしちゃってるけどこれ大丈夫かな?
更に言えば今回のイグナイトの話、これちょっとしたコラボ限定時の強化フラグだったりもしないではない。
あ、イグナイトモジュール自体はコラボ関係なしなので多分バンバン使う