それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
あ、死んだ。彼女【OBR】はただ漠然と目の前の光景を見ながら、自分でも不思議なほどに落ち着いてそう思った。
それは突如として現れた、大群として、そして圧倒的火力を持って戦場に君臨したソイツらは鉄血に仇なす存在を全て滅ぼさんという勢いで戦場を蹂躙、その中にOBRが所属していた小隊も居た。
結果、小隊長がまず死んだ、次に隊員が、仲間が無残に、無慈悲に、周りに助けを求めようにも周囲も同じような惨状が起きている、とすれば救援なんて望めるものではなく、そしてそんな暇も今彼女の目の前でソイツらが放った、ビーム、ミサイル、ありとあらゆる射撃兵装の暴風雨が広がってるとなれば冒頭の感情になるのも無理はないだろう。
このまま行けば自分は死ぬ、周りの仲間達と同じように、だけど目を閉じることも出来なかった、視線を逸らすことも出来なかった、理屈も理由も分からない、ただ言えるとすればこの状況にあまりに場違いな感情
(綺麗だなぁ……)
現実逃避とも言える心の声、だがその御蔭で彼女は異変に気づけた。飛来するミサイルが突如としておかしな挙動を描き始めたのだ、それも一つではない、飛んできている『全ての』ミサイルがだ。
まるで目的を見失ったかのようにグルグルと同じ場所で旋回を繰り返し、最後にはひとりでに全てが爆散、だが自身に迫る危機が消えたわけではない、と思っていた彼女だがそれは影と見紛う速度で現れた一人の少女によって
「どりゃ!!続けてぇ……がおぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
その少女の姿はOBRの記憶が正しければG41に非常によく似ていて、だけど髪の色も肌の色も該当せず、更に言えば登場と同時にその小柄な身体にあまりに不釣り合いな鉤爪のような大きな両手で迫っていたビームを弾いたと思えば、続いて出てきたのは彼女の身体から出たとは思えない咆哮、そこから生み出された衝撃のブレスが残りの実弾を全てかき消し、勢いそのままに謎のパワードスーツの集団と、同時に現れたスーツに黒手袋と換気孔付きマスクを着た中肉中背の同じ顔をした男達を纏めて薙ぎ払う。
向こうから叫び声が聞こえるが今の彼女はそれどころではなかった、その病的にまでに白い肌と新雪のように綺麗な白い髪をした少女が何者なのか、いや、気付けば彼女だけではなかった。何時からそこにいたのだろうか、自身を攻撃から守ってくれた少女と同じような肌と髪の色をしているXM8に非常によく似ているが、明らかに違うと言い切れる少女がOBRの顔を覗き込んでから
「ったく、コイツラなんなのかしらね……ほらアンタ、生きてるわね?ラーニョ5、直ぐにこいつを中継基地まで送って頂戴」
「あ、あの!貴女たちは?!」
「はぁ?今そんなこと気にしてる場合じゃないでしょ、ほらさっさと行った行った」
【ちょい失礼、じゃあ連れて行くよ~!】
あ、待ってとOBRが言うが彼女が見たこともないデフォルメされた蜘蛛のようなフォルムのロボットのアームで掴まれ、そのまま安全な後方へと運ばれていってしまう、それを見送ってから先程の場面でまず始めにミサイルの挙動を可笑しくした張本人であるトゥーマーンが
「で、マスター、コイツラなんなのか分かりました?」
《全くだ、ナデシコのデータにある反応を片っ端から照合してみたがどれもヒットしなかった》
《モンスターや悪魔の類でも無いんだよね、でもコイツラのお陰で戦場はまたボロボロだ、急いでランページゴーストも呼び戻して、補給を済ませたヒポグリフにも支援に当たらせてるけど、これじゃどっちが優勢かなんて分かりやしない》
つまりは完全なる未知な存在、その情報に面倒くさそうに溜息を吐き出すトゥーマーン、ただの鉄血相手の支援活動かと思いきや突如として現れたコイツラのお陰で過酷な前線支援に早変わりしたのが彼女的には不満らしい。
が、逆にこの状況の大はしゃぎなのはトゥーマーンの次にOBRの前に躍り出てビームを弾き、喉が痛くなるとか言いながらも気に入ってるのか【大声大砲(命名 ジャウカーン)】で攻撃もろとも薙ぎ払ったジャウカーンである。彼女はソイツらが現れたと同時にいの一番に突撃を敢行し、その両の腕で切り裂き、薙ぎ払い、大笑いしながら戦闘を繰り広げるほどに大喜びをしていた。
「もっと、もっと遊びたいです!!!」
まだまだ遊び足りないという声を出してからジャウカーンはグッと腰を落として髪飾りのブースターを起動、そしてフルスロットルでまだ残っている謎のパワードスーツの軍団に向けて突貫、とほぼ同時に残りのラーニョ1から4と共にスユーフとダラーヒムも現れるのだが
「あっと、もうあの娘は!」
「本気で遊びに行ってますねあれ……はぁ、私らも急いで合流しよう、ほらトゥーマーンも行くよ!」
「はいはぁい」
気怠げな返事にダラーヒムは苦笑しつつ自身が乗ってきたラーニョに乗り込む、スユーフとトゥーマーンも乗り込んでからジャウカーンが暴れている地点に移動と制圧射撃を開始、そして頃合いを見てから全員がポッドから飛び出して
「オートスコアラー、これより交戦を開始します!」
「来なよ、適当とは言わずに本気で蹴散らしてあげるからさ!」
「まぁ折角マスターに色々と強化してもらったからね、少しは暴れるのもありか!」
スユーフの改良に改良を重ね強化された素体、更に鍛錬で磨いた身体能力と自身の新たな銃双剣【レイテルパラッシュ】が暴風雨のような斬撃と射撃で斬り裂き、穴だらけにし、スユーフと同じくに改良と鍛錬、そしてダラーヒムの改造された銃とトンファーの一体型武器【レ・ザネ・フォル】で殴打と弾幕の嵐を生み出して敵を今度は自分たちの番だと言わんばかりに蹂躙、それを見たジャウカーンが負けるかとばかりに更に攻撃が苛烈になる。
そして混乱が広まれば頃合いだとばかりにトゥーマーンが徹底的に改良された自身のステルス能力とジャミング、そして光学迷彩で三人を狙おうとする者たちを闇討ちを、時には正面からレーザーブレードで突き刺し、的確に敵の動きを阻害していき、では彼女を狙おうとすれば今度はラーニョチームが牽制射撃と榴弾砲で攻撃、そこに気を取られればまたトゥーマーンがと敵からすれば負の連鎖を生み出す環境を作り出していく。
ここは戦場、彼女たちオートスコアラーが一番輝けるダンス会場であり、ともすれば周りから注目を集めるようになり、更に踊りは苛烈になっていく、これは決して眠らない彼女たちの舞踏会である。
そして時同じくして別の地点のアンノウン集団の前にはランページゴーストが立ちはだかる、向こうはどうやら彼女たちを要注意部隊だと知っているようで何やら叫んでいるが、ノアが取り出した、新たに送られた薔薇の彫刻が刻まれた外装パーツを付けたシュトイヤークリンゲの切っ先を地面に突き刺し、グリップを捻り、稼働音を響かせ、彼女はバイザー越しにアンノウン集団を見据える。
同じ顔だった、同じ身体だった、寸分違わず同じ集団、それらを見て彼女らはスイッチが入ってしまった。
「……今のアタシらは機嫌がわりぃとか言うレベルじゃねぇからな」
「クローンによる軍団、まさかヨゼフの負の遺産がまだ残ってなんて……」
「ならばここで私達が終わらせましょう、それがそうであれと生み出されてしまった彼らに対する手向けです」
アナの言葉に全員が頷くが相手からすれば何の話だという、実際何を言ってるんだと声が聞こえるがランページゴーストの面々は何も答えない、答えはしないが得物を向けて、そして
「おらぁぁぁぁぁ!!!」
踏み出したと同時に噴射機構を開放すれば同じくS10地区前線基地から送られたシュトイヤークリンゲの強化パーツ【ブラッディ・フィーバー】により極限まで強化された出力により生み出された常人では振り回されるがオチの加速に彼女は体全体とスラスターによるブーストで無理やり制御、向こうからすればほぼ一瞬で間合いを0にされたと驚愕しているさまを尻目にそのまま横一文字に振り抜けば上半身と下半身が泣き別れにされた遺体が生み出される。
それを皮切りにアナとRFBも動き出しアンノウンと戦闘を開始、特にアナはイグナイトモジュールと適合した際に身体を作り変えられたからなのか能力が上がっておりアメノハバキリだけでも敵をパワードスーツごと斬り捨て、それでも中にはアメノハバキリを受け止められるも
「はっはー!残念だった……な?」
「あぁ、残念だったな」
いっそ冷酷な声と同時にアメノハバキリが止められたと分かるや直ぐに抜き敵を斬り捨てた【幻影】を鞘に収める、確かにイグナイトでなければ十全に扱えず、更には30秒で反動が襲う代物だが逆を返せば30秒以内であれば振れるのであると気付いた彼女はアメノハバキリが止められた際の奇襲用として使うようになった。
無論、RFBも負けてはおらずハイパーマキシマムムテキドールスーツで敵を退けていく、全ては彼らをただ眠らせてあげたいという慈悲からの攻撃
「おやすみ、どうか、どうかゆっくりと眠ってよ」
唱えるように、祈るように呟き、彼女は戦い続ける。戦場は未だ混沌とし、終わりはまだ見えない、それは正規軍から最終防衛ラインに張り付いたという報告が上がってもナデシコ内のキャロルは難しい顔をしたまま
(さて、まだ何か出てくるとすれば、どこだ?)
彼女の勘は確かに告げていた、まだ気を緩めるなと。
※ 尚、ランページゴーストのクローン云々は大いなる勘違いであり、あの世のヨゼフからすれば完璧な冤罪である。まぁでも彼女たちは真相を知らないからね、それもこれもバラルの呪詛ってやつがいけないんや!
因みにオートスコアラーもランページゴーストも割と自由なので適当に絡ませてもいいのよ?