それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:焔薙
「んがっ?」
ここはエストレーヤ家の客室にあるフカフカベッドの、これまたフカフカな枕にうつ伏せの形で頭を沈めている少女が、その可愛らしい姿を投げ捨てるかのような声を上げてからゆっくりと顔を上げる。
今は寝ていたという事で服装も可愛らしい柄の寝間着に髪も纏まっていないがこの見た目、小学生の高学年くらいの少女の正体は『ウロボロス』、そして自身の手に握られているゲーム機のコントローラーと視線の先には未だゲーム画面を写している大型テレビ
「……あぁ、レアアイテムを粘ってて寝落ちしたのか、くわぁ~」
なお、客室とは書いたが部屋中には様々なゲーム機や特撮を纏めたDVDやジャンル問わずの漫画等など、ウロボロスのポケットマネーで買い揃えられた品々が飾られてたり置かれていたりするので実質この部屋は彼女の自室と化していたりする。それは問題ではないかと言われそうだが他にも客室はあるのと何だかんだでノア達もウロボロスの事は家族の一人みたいな認識を持っているので大丈夫だったりする。
ともかく、ロリボロスまたはウロボロスは大欠伸を一つしてから伸びをし、セーブをしてからゲームを落としてボリボリと頭を掻きながら部屋から出てみれば彼女の鼻をくすぐるのは甘い匂い、どうやら朝食を食べ損ねたというのは回避できたかと思いながら階段を降りて居間に向かえば、椅子に座って朝食を待っているノアとクリスの姿、二人は彼女を見れば
「あ、おはようウロボロスちゃん」
「オメェが最後だぞ~」
「ちゃん付けを止めろと……あぁ、もういい面倒だ好きにするが良い。おはよう、今日はフレンチトーストか?」
「そうですけど、先ずは顔を洗ってきてくださいね、凄い顔になってますよウロボロスさん」
キッチンから顔を出してきたクフェアにそう告げられ、そんなに酷いかと思いつつ頷いて洗面所に向かう前にパチンと指を鳴らせば二機のドローンが彼女のそばにテレポートしたかのように現れる。
これは彼女が自作した新型のドローン妖精、映されているホログラムにはクラシックメイドドレスに身を包んだデフォルメの少女が、その名もお手伝い妖精『メイド妖精』である。
「メイド妖精、クフェア殿を手伝ってやれ」
「\畏まりましたなの~/」
「\お任せあれ~/」
スイーとクフェアの側で滞空し指示待ち状態になったのを確認してからまた一つ欠伸をしてから洗面所に向かい、それから朝食を楽しみ、少しすれば本日は平日なのでノアは仕事へ、クリスは学校へと行くのを気怠げに見送ってから
「くふぁ~」
「ウロボロスさん、また夜遅くまで?」
「まぁな、ったく小数点以下の確率とか馬鹿げた設定だぞ……」
因みにウロボロスは平日だが業務は?となりそうだが彼女の業務はここに居ても出来たりするし、必要になれば呼ばれるというスタンスなので、それがなければガーデンにて活動している自由人なのが彼女である。
どうやら本日はガーデンを散歩、という気分ではなかったようでこの調子ならば家でゴロゴロしているのだろう、だが丁度というべきなのかクフェアもまた今日はリポスティーリオの手伝いは休みのようで彼女もウロボロスの隣に腰を下ろす。
「今日はゆっくりするんですか?」
「外は暑くなり始めたからな、そろそろ蝉でも鳴き始めてお隣のユノ殿が泣きを見る季節に入るだろう」
「ルキアちゃんは虫大好きですからね」
だがそこは親であり教師でもあるユノは昔みたいに露骨な反応はしなくなっている、それでも駄目なものは駄目なのだがと余談は置いておき、それからもあれこれと雑談を交わす中、ふとウロボロスが
「なぁ、一つ語っていいか?」
「え、はい、珍しいですねウロボロスさんからそんな事言うなんて」
驚きながらウロボロスの顔を見たクフェアだったが表情が真面目なのを見てどうやら語るとは言っているが悩みに近い内容なのかもしれないと姿勢を正す。
「私はな、今少しばかり捜し物をしている」
「捜し物、ですか?」
「あぁ……己の存在意義、だ」
彼女は語る、自分は生まれからして戦いしか目的にされていなかった、だが初陣で失敗し切り捨てられ、そして復活してから少しすればこうして平和な世界が始まった。
「無論、それが悪いとは昔の私ならばいざ知らず、今の私は思わんさ、ただな、他の奴らはこの平和な世界でも何かしらの目的を、夢と言われるものを持って生きていっている」
アーキテクトは世界の汚染を消し去り、未来のための技術を開発に勤しみ、ゲーガーは牧場を経営し、その地域がもう安全であることを証明している、戦いが終わったとしても各々がそうして平和な世界でも存在意義とも言えるものを掲げ生きているのを見て、彼女は最近そんな悩みを持ち始めていたらしい。
「平和な世界を前に、私はただそれを甘受して生きているだけのように感じてな、このままでは置いていかれるのではないかと」
平和だからこその悩み、鉄血の中でも更に戦いのために生み出されたが故の苦悩を語るウロボロス、そこには何時ものような天上天下唯我独尊の彼女は居らず、居るのは見た目も相まって迷子の少女のように思わせる姿にクフェアは
「きっと、アーキテクトさんもゲーガーさんも、そんな大層な考えはないと思いますよ」
「……」
「だって、アーキテクトさんはユノお義姉さんの為だって言ってましたし、ゲーガーさんも少し前から持っていた夢を叶えただけ、存在意義とかじゃないと思います」
ただ、一つのことに一生懸命なだけ、ウロボロスからすれば今の自分にはその一つのことすら無いのだがと言いそうになるがクフェアがその事を理解していないとは思えず、何かしら気付いて欲しいのかと考え
「生き慣れていないのがこうも枷になるとはな」
「い、生き慣れていないって初めて聞いた言葉ですよそれ」
まだ悩みは晴れたわけではないが、先程までの顔ではなく何時ものウロボロスの表情に戻ったのに少し安堵したクフェア、あとは彼女の家事を気まぐれで手伝ったり、部屋に篭もり寝落ち前にやってた事の続きを行ったりし、その日の夜、夕食後にこんな事がねとクフェアがノアに話せば
「ふーん、アイツがねぇ」
お茶を飲みながらノアは視線をウロボロスの方に向けてみれば、丁度クリスが数学の教科書とノートを手に近づき
「ウロボロスちゃん……」
「なんだって、あぁ、何が聞きたい」
「ここ、その、答えはわかる、だけど式が」
広げられたそれを見て、ウロボロスは思わず口元を引くつかせる、確かに解は全て間違っていない、いないのだが問題はそこではなかった。
「貴様、また『閃き』だけで答えよったな」
「うん、でもユノさんに式も大事だから書いてねって」
「当たり前だ、解と言う結果だけが分かろうと、式と言う過程も大事なのだから……」
突然言葉が止まったウロボロスにクリスはどうしたのかと聞いてみるが答えは返って来ず、来たのは笑いを抑える声、え、今の何処に笑えるところがとノアも困惑してるが彼女が気にすることもなく、そして
「いや、すまない。そう、結果だけを求めるだけでは駄目だ、良いかクリス嬢、物事は過程と言うものも欠かせん、どのような事柄であろうとな」
何かが晴れたような表情でクリスに数学を教え始めるウロボロス、その様子にクフェアも、そして今しがたその話を聞いたノアも気付いた。
「なんか見付けたらしいな」
「みたいだね、でもクリスの閃きだけで数学を解いちゃう癖は何処から来たんだろ……」
「言いつつアタシの顔見るのはやめてくれねぇか?」
こうしてウロボロスはこの平和な世界でのんびりと、そして自分らしく天上天下唯我独尊の彼女として何かを見つけることを求め始める、まぁもっとも今の彼女は
「しかしまぁ、このままでは貴様の姉とか言われそうだな」
「……ウロボロスお姉ちゃん?」
「なるほど、悪い気分はしないな」
ウロボロスさんが言ってる小数点以下は盗める確率らしいぞ?あれ、どっかで聞いたな?
因みに、ルキアは数学が得意だったりするらしい。