それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
やっぱりか、そんな言葉を口にしそうになるのをとりあえずで堪えてからP基地医務長であり、アナと並んで名乗らなきゃ人形だということすら分からないと言われているパンツスーツに白のカッターシャツに白衣姿のPPSh-41は目の前の今回の患者に視線を向ける。
向けた先には服を着なおし、今や特徴というものになった右レンズをを艶消しの黒で塗りつぶした眼鏡を掛けなおしてから自分を見つめるPPSh-41に向けて軽い笑みを浮かべるナガンの姿。
「して、どうじゃった、などと聞くまでもないとは思うがの」
彼女はあの大規模作戦『フェアリーリリース』でヨゼフと戦闘をした際に負った目の怪我、当初はそれによる右目の機能の完全消失だけかと思われていたのだが、作戦から一月経ってからの検査でとある懸念が浮き上がり、何度か検査を行った結果が今回の検査で漸く出たのだ、皆から祖母として慕われている彼女に何が襲っているのか、その正体は……
「単刀直入に言えば、ナガンさん、現在の貴女は人間でいうところの脳の部分に傷を負い、戦術人形としての機能が低下を始めています、物凄く緩やかに、それこそ人間でいう老化に近い形で」
「なるほど、ともすれば原因はあの時のヨゼフからの一撃か」
あの日の一撃、特攻を仕掛けるキャロルを庇った際に無慈悲に右目を貫いたあの攻撃は内部でダムダム弾と似たような形で炸裂、幸いにも規模は極小だった為に目立った負傷は右目だけだったのだが、PPSh-41も気付かない程に脳に当たる部分にも小さな傷を付けていた。
結果としてそこから彼女が言うように緩やかにシステム面にダメージを与えており、機能の低下が始まっているのだ。勿論ながらこの基地並びにペルシカや繋がりがある者達ならば彼女を右目も含めて治療することは可能だ、だが
「もう一度聞きますが、治さなくて宜しいのですか?」
「これがもし、わし自身の命を脅かすというものならば頼んだかもしれぬが、あくまで戦術人形としてのなのじゃろ?」
「……確かに、すぐ様に影響が出るものではありません、ですがこのままの速度で低下していけば早ければ5年、遅くとも10年以内には戦術人形としての活動は出来なくなるものと思います」
「そうか、ならばまぁこのままでよい」
その言葉を聞いたのは今日が初めてではないのだがそれでもPPSh-41はこの言葉には疑問を覚えなくはない、確かに引退をしたとは言え、己のそれを無くすのを良しとする彼女の意図が読み切れないのでいる。
彼女のそんな感情にナガンも気付いたのか、呵々と笑ってから
「分からぬという顔じゃな」
「正直に言えば、今までの貴女を見ている身として戦う力を、守る力を失うことを良しとするような人だとは思いません、なのに」
「そうさな、少し前のというよりもあの作戦前のわしならば良しとしなかっただろう。じゃがまぁ、状況が変わったというべきかの。コーヒー貰えるか?」
唐突な注文だが、話せと言葉にせずとも言ったのは自分なのでPPSh-41は軽く肩をすくめてから席を立ちあがりコーヒーを淹れてから渡せば、向こうも感謝の言葉を述べてから一口、そして
「わしはな、話したとは思うがもう戦う理由も無いのじゃよ、もう己が動かずともこの基地は安泰、ユノもわしが想定していた以上に強くなり、手が掛からなくなった……それにじゃ、これを治すとなれば頭部丸ごとじゃぞ?流石にもう堪えるのじゃ」
「やろうと思えば、負荷がかからずリスクゼロで処置が出来ますよ?ふふっ、なんて私にすら返される理由だけなわけないですよね?」
「今日のお主、いやに意地悪ではないか?言う通りじゃよ、確かに今挙げたのも大きな理由と言えば理由じゃ、だがな、もっと大きなものが確かにある……」
一旦区切りまたコーヒーを一口、それから天井を仰ぎ見ながら彼女がこの目を、この機能の低下を治さない理由をポツリと呟いた
「わしはな、もう疲れたのじゃ」
「疲れた?」
「あぁ、なんじゃろうな、今まで気張ってた分が一気に来たとでも言えばいいのかのう、あやつ、レイラに変わりわしが終わらせなければ、見届けなければと気負っていた事柄全てが終わりを迎え、それを自覚したと同時にドッとな」
疲れた、PPSh-41が彼女の口からそれを聞いたときに真っ先に疑ったのは燃え尽き症候群だった、彼女が気負い続けてきたものの大きさを知っているが故に、それらが一気に解決してしまい、その反動からのモノではないかと。
だがその割には普段でも燃え尽き症候群と思われる行動や態度を見たという話を聞いてなければ、PPSh-41も見たことがない、それに口では疲れたと言っているが顔や声は穏やかなままであり、当てはまらない気がした。
「なんじゃその心配そうな顔は」
「そりゃ、燃え尽き症候群みたいなことを言われたら医者としては不安になりますよ、まぁその分だと違うようですけど」
「燃え尽きてなどおらぬわ、ただ銃を握る必要がなくなったとわしが思っているだけじゃよ」
自身の懸念は全くの無意味だったと、PPSh-41にそう思わせるほどの笑いをするナガン、とりあえず彼女が治さずにそのままで居ても活動には問題がなく本人にその意思はないということで結局はそのままにされるのだが、最後にこんなやり取りが
「あ、でも指揮官達の耳には入れておいたほうがいいですよね」
「そうじゃな、時が来たらわしから話しておこう」
ふむ?となったのはPPSh-41、なぜ時が来たらなのだろうかと、この件は基地という観点から見れば即座に報告に挙げる事例なので時もへったくれもない、なのになぜナガンはそんなことを口にしたのだと
「何言ってるのですか、引退したとは言え一人の不調は報告を上げないわけにはいかないでしょうに」
「引退しているからこそ、わしのような老人の事で無用に他に心配を掛けるわけにはいかぬじゃろうて」
ナガンの今の言葉でPPSh-41、思わず口元を引き攣らせる、それから深いため息を吐き出して片手で額を抑える仕草をしてから
「分かりました、よぉく分かりました、ユノさんの悪癖はナガン、貴女から伝染してたものだったのですね」
「なっ!?ち、違う、あ、これは、ええい、れ、レイラじゃ、レイラのが伝染ったのじゃ!」
言い訳をする姿にPPSh-41は苦笑を浮かべる、これじゃあ誰が発生源なのかが分かりはしないが、仮にレイラからナガンだとすれば結局は
「その場合ですと、ナガンからユノさんへと悪癖は伝染ったことになりますよ?」
「……お主、本当に今日は性格が悪いな?」
「貴女が巫山戯たことを言うからですよ、はい、ではこの診断書を指揮官に出してくださいね?」
「じゃ、じゃから……」
「医務長命令ですよ、ナガン?」
今はどちらが立場が上か、ニッコリと笑うPPSh-41、ツバの悪そうな顔で書類を受け取るナガン、医務長と引退した人形、つまりはそういうことであり、自身の状態は無事に基地中に知れ渡るのであったとさ。
この彼女の体の状態は☆でも無印でも共通となっているので今後は後方でアドバイザーとか、のんびり隠居お婆ちゃんで生活していることになります。