それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
VSK-94という人形が居る、P基地では警備部門も一人として基本的にガーデンの警邏に参加し、平和に貢献しておりその能力は文句の付けようのないほどであるとティスはよく語っている程だ。
勤務態度、能力、元々は民間の警察組織で働いていたのも有り相手を非殺傷で無力化する術にも長けていると本当に優秀、なのだがそんな彼女にも弱点とも言える物があった。それは孤児院の警備の任務に付いてる時に現れる、いや、本人的には自覚があまりできていないので子供からの言葉で認識させられているといったほうが正しいのだろうか。
「おねえちゃん、どうして怒ってる顔をしてるの?」
「……え?」
VSK-94という人形が居る、彼女は仕事や任務では文句の付けようがなく、また子供が好きという一面から孤児院での業務もこなせる存在、だと思われていたのだが彼女は表情筋が実は搭載されていないのではないかというレベルで表情が動かない、と言う致命的過ぎる悩みの持ち主でもあったのだ。
勿論ながら表情筋が搭載されていないというわけではない、そもそもにしてそれだったらヴァニラが既に直している。なので単純に彼女は表情を動かすことが苦手というだけなのだが、笑顔マイスターである9A-91に言わせると彼女はどうやら子供が好きなのだが目の前にすると緊張してしまうらしく、つまりは
「カチカチです、もっとフニャフニャを目指すようにするべきです」
「フニャフニャ……?」
「フニャフニャです」
正直に言えば、彼女のアドバイスはVSK-94には伝わらなかったがならばと次に相談したのはユノ達、早速このことを話してみれば返ってきたのは
「まぁ、確かにオメェってその仏頂面から動いてるのは見たことねぇな」
「仏頂面……そう、なのですか」
「多分、表情を動かすのに慣れてないだけだよ、だから少し練習してみよう!」
笑顔の権化とも言えるユノの手解きがあれば或いは、VSK-94はその時は思っていたのだが数分という短い時間の助言を頼りに笑顔の練習をし、そして本人としては渾身の親しみやすい笑顔を浮かべた……のだが今彼女はグリズリーの運転するバラクーダの助手席に座っていた。
その表情はあいも変わらず分からりづらいほどに変わっていないのだが纏っている空気が落ち込んでいるのは彼女を連れ出したグリズリーにはよく伝わり、だからこそ
「いやまぁ、得手不得手ってのは誰にもあるからさ、そこまで落ち込まないでも大丈夫じゃない?ユノちゃんもこれから練習を続ければ改善されるって言ってくれてるんだからさ」
「ええ、そうですね」
もはや説明する必要もないほどに落ち込んでいるように彼女渾身の笑顔は笑顔になってなかった、というよりも練習前と全くと言っていい程に変わってないとノアに指摘され割と本気でショックを受けていた。
無論、ノアも悪気があってというわけでもなく即座に謝ったし、今度はルキアとクリスと接したら上手くいくんじゃないかと言うことで試してみたのだが緊張する部分がどうしようもなく、はてどうしたものかという時にグリズリーが現れ事情を聞き、今に至る。
「やはり、私は笑えないのでしょうか……」
「んなこと無いってば、ただ今までの仕事上そういう機会がなくて動かさなかったものを急に動かせっていうのは難しいってだけよ、ほら今は後ろ向きなことは考えないで気分転換でも、ん?」
急にグリズリーが何かを見つけたという声を上げ、VSK-94も同じ方向を見てみれば一台の黒いバンとそれを追うように数日前にガーデンから送られてきた試作品のパトカー、そして助手席側の窓から身を乗り出して何かを叫んでいるSuper-Shortyの姿を見れば、大体何が起きたかは理解出来たグリズリーはバラクーダに備え付けてある無線機で相手側に通信を繋げてみれば返答したのは運転手のティス、曰く
《バンに親子が誘拐されてるらしくて、それを追ってる!》
「誘拐?ガーデンから逃げ果せるなんて相当なやり手ね」
《いや、他の街の奴がここに逃げ込んだのを偶々私達が見つけたって話、だけど慣れてるのは確かだし向こうの改造車のほうが速くて、このパトカーじゃ距離を詰めれない!》
《待てって言ってるの聞こえないの!!!!》
確かに先程から見ていても離されはしていないが詰められてもいないところから性能はほぼ同じというところなのだろう、しかし仕方がないことだ、あのパトカーはあくまで普通の警察組織への量産を目的としている品物、多少チューンはされているとしても普通の人間の運転を想定されている以上はバカみたいな改造はできない。
まぁそれは余談なので置いておこう、ともかく知ってしまったからには見て見ぬ振りは出来ない、というよりもと隣のVSK-94に視線を向ければ変わらずの仏頂面だと言うのに不思議なことに真剣な表情だと分かる彼女の姿、子供が何よりも好きで幸せを願う彼女にとっては今の話は聞き捨てならないのは当然かと納得してから
「ティス、犯人の数は!」
《ごめん、それは分からない!ただ、一瞬だけ聞こえた声からしてもしかしたら三人とか居るかも!》
大凡でも人数が聞けただけ十分だと頷いてからプランを構築、向こうも確かに早いがこのバラクーダは魔改造品、苦もなく追いつけると判断してから
「了解、そっちはそのまま追ってて、こっちからなんとかしてみる!聞いてたね、VSK-94」
「はい、プランは?」
「一度助手席側に付けるから飛び移って、それで私が奴らの前に回りながら運転席側に走るからその瞬間に突入、オーケー?」
「ロジャー、それで行きましょう」
その言葉に満足気に頷いてからギアを切り替えてアクセルを踏み切れば彼女のバラクーダは自身が出せる最高速に一気に加速、その速度はパトカーから見ていたティスとショーティーも驚いていたが、更に驚いているのは犯人側であり、慌てるように助手席から一人が銃を構えながら身を乗り出すが
「すっとろい!!」
「なんだあの車!?早すぎて狙えねぇぞっぎゃぁぁぁあああああ!?」
向こうが狙いを付けきる前にライフルを構えていた両腕が撃ち抜かれ血が飛び散り、またライフルも取り零して無情にも地面に転がっていく、勿論ながら撃ち抜いたのはVSK-94でありその目はこいつ絶対に殺すというものが溢れていたが後方のショーティーが拡声器を使って犯人は殺すなと伝えてきたので殺しはしないだろう、多分。
ともかく、その隙きにバラクーダは助手席側に並走、VSK-94が飛び移ったのを確認してからグリズリーは更に加速させて抜かしたと同時にサイドブレーキを掛けてアクセルをそのままに一気にハンドルを切れば土煙を上げながらバラクーダはバンの前に現れるながら反対側に走り去るが、一瞬とは言え目の前に現れたことでぶつかりたくはないだろう相手側は即座にブレーキとハンドルを反対に切るが結果として車内が大きく揺れ、後部座席側で誘拐した親子を人質にしようと側に居た一人が転がることになった。
その隙きを逃すわけもなくVSK-94が助手席の窓をぶち破り突入、助手席で腕を抑えていた一人と運転席の一人を勢いそのままに車外に蹴り飛ばし、運転席に座ると同時に先ずは後部座席の最後の一人に向けサブアームにて腕と足を撃ち抜き無力化、それからバンを完全静止させれば、追い付いたティスとショーティーが後方の扉を開け放ち、後部座席の扉をグリズリーが開けて無力化されていた一人を地面に引きずり出して動くなとドスの利いた声で大人しくさせ、VSK-94によって蹴り飛ばされた二人は気絶していたらしいのでこうして全員が無力化、事件は終りを迎えるのであった。
「……ふぅ」
「あ、あのお姉ちゃん」
あの予想以上の加速の中で飛び移るというのは意外に疲れたと車外で息を吐き出していると声を掛けられて向けば先程助けた少女とその母親、一応の事情聴取は終わったらしい、だがそれよりもだとVSK-94は目線を合わせるようにしゃがみ
「怪我はない?」
「うん!ママも無いって!」
「本当にありがとうございます!!」
「良いわよ、これが私の仕事だから」
心から安堵したと言う声でそう告げ、少女の頭を撫でる、その場面を彼女に声をかけようとしていたグリズリーが見てから、突如フフッと軽くほほ笑みを浮かべる、何故ならば
(ほら、しっかり笑えるじゃない)
笑えないと先程まで落ち込みに落ち込んでいた彼女の表情はとても穏やかな、優しい笑みを浮かべていたのだから。
VSK-94という人形が居る、仕事も卒なくこなし、子供を前にすると好きだからこそ緊張で表情が動かなくなる彼女、だけど誰かを助けたときにはしっかりと笑える、心優しい人形が。
ここ最近、人形関係ないお話ばっかりだった気がするので丸々一話をメインにしてみたら結構筆が走ったというね。
あとお知らせですが来週はワクチン接種二回目を受けるのでその副反応で恐らくは禄に動けないと思われます。なので申し訳ないのですが来週分は休止とさせて頂きます。
再来週は更新しますので、まぁ軽い充電期間だと思っていただけると有り難いですはい。