それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
男はふぅと息を吐きだし、それから設営した屋台に視線を向ける。立派な屋台の中には大きめの鉄板とそれに合わせた特別製ののガスコンロ、勿論ながら屋台の背面にはそのガスを配給するボンベも念のためと三本用意。
それから調理器具に、鉄板で作った料理を入れるためのプラスチック製の容器、これは並盛り、大盛り、特盛などに合わせて三種類用意されている。勿論ながら料理のための材料も今日のために下準備を済ませてこれまた大量に用意されており、今日一日ならばどれほどの客が来ようと売り切れることはないだろうと確信している。
この日のために自分でもここまで本気になるとはなと思うくらいに特訓を積み重ねてきた、全ては今日のために、更に言えば
「……」
屋台から視線を外し、そこから真後ろ、つまりは向かい側にを見れば、同じく屋台が設営されており、彼と同じタイミングで終わったようで向こうも視線を向けていた。
己と同じか、いや、もしかしたらそれ以上に筋肉質で大柄、威厳のある風格と言い切れる髭を生やし、しかしてその格好は夏祭りの参加者であることを示すようにそれらしい法被とねじり鉢巻を、因みにこれは男も変わらない、強いて違いを上げれば鉢巻きではなくタオルを頭に巻いているところだろうか。
そんな二人の視線が交差する、そこにあるのはお前には負けるつもりはないという男の意地、そんな空気の中
「何してんだあの二人」
「元正規軍の軍人とグリフィンの社長がお祭りスタイルの格好でこの場にいるの本当に笑うでしょこれ、しかも互いに焼きそばとたこ焼きを作って売る側ってのが更に笑える」
最近、P基地に雇われた元傭兵『オガタ』の呆れ気味の声と設営や料理の食材などを搬入しているスチェッキンの声がここ、ガーデンの大通りに響く、どういう経緯かは不明だがエゴールは焼きそばの屋台を、そしてクルーガーはたこ焼きの屋台、無論他にも様々な屋台が準備をしている、とここまで書かれれば何となしにでも分かるだろう、ガーデンは本日は夏祭りである。
祭り囃子の音が街中に響き、辺りから聞こえる人の声はどれもが楽しんでいるという明るい笑い声、屋台の客引きや調理をする音、その中にエゴールの屋台も当然ながらある、とは言っても
「ほい、並2つおまち!うい、丁度だね、毎度あり~」
「思ったよりも余裕があるな、まぁ他にも屋台があるから当然と言えば当然か」
エゴールの言葉の通り、何も料理を出す屋台はここだけではなく、更に焼きそば一つに絞ってもここ以外にも出しているところはある、なのでお客は全く来ないというわけでもないがひっきりなしに、と言うわけでもない位に落ち着いている。
しかも忙しくなるだろうと予想したのかレイも手伝いに来た結果、彼はただ焼きそばを美味しく調理していくだけなのが更に暇を加速させていた、とは言っても来てくれたことには素直にありがたいと思っているので
「レイ、少し休憩にしてもいいぞ、焼きそばも用意した」
「お、ありがたいね、んじゃいっただきま~す……んま~い!」
ご満悦なレイの様子に笑みを浮かべつつ、追加の焼きそばを焼き始める、今こそ暇ではあるがだからといって余裕だと油断してはいけない。
忘れてはならない、この街にはその体のどこに入るんだという大食漢が割と居るという事を、それはクルーガーも理解しているのだろう、向こうも決して手を休めずにたこ焼きを作り余裕を持たせている。
「(さて、時間的にはそろそろ来てもおかしくないな)レイ、準備をしてくれ」
「了解っと、今日は祭りだからリミッターは無いだろうね」
肌で感じとった騒がしい空気にエゴールがレイに声を掛ければ、彼女も同じように感じたらしく肩を回しながら勝ち気な笑みを浮かべる。
「(向こう側が騒がしい、来るな)カリーナ、どうやら本番が来たらしい」
「はいはーい、ウェルさんの情報だともう既に数店が食われたようですわね、もっともこれは外からの初参加らしいですので、恐らくは波状攻撃で沈んだ形ですわね」
そしてほぼ同時にその空気を感じ取ったエゴールも鉢巻きを締め直して臨戦態勢に入り、あまりに自由に動き出したクルーガーに本社がお目付け役として配属になったカリーナが手元の端末から来る情報を伝える。
因みにカリーナが言った『食われた』と言うのは単純に売り切れという話である、この街にて、料理系の屋台を出すならば想定の数十倍は用意しろ、それが暗黙のルールである、理由は言うまでもないだろう、しかして町の外からしかも初参加はそれを知らないがために食い尽くされる、この街の大食漢ズは勿論ながら他の客の迷惑になる注文はしないので抑えてくれるのだがそれが数人による波状攻撃だとしたら?答えが上記のカリーナの言葉になるというわけだ。
そして、彼女たちは来た。その両手にはここに来るまでに買ったであろう焼きとうもろこしやイカ焼きにお好み焼き、道中でその幾らかは食べたであろうというのにその表情にはまだまだ余裕というのが浮かんでおり、エゴールとクルーガーの屋台を見つければ駆け寄ってきて
「おぉ!すっごい良い匂い、エゴールおじさん、特盛り4つください!」
「私も4つ貰おうかな」
「えっと、5つください」
ルキア、ユノ、シャフトのヴァルター家の三人の注文、無論これは予想通りなので滞りなく手渡しされる。特盛り用の容器に目一杯に入っている焼きそば、麺は勿論、新鮮な野菜と豚のばら肉にはこの日のためにエゴールが何度も味見をし基地の料理自慢にも協力してもらい配合した特性の濃厚ソースが無駄なく絡んでおり、一目でこれは美味しいものだと理解できる。
「何やってんだよ社長……まぁいいや、大波っての5つくれ、クリスはどうするんだ?」
「私も5つ」
「……さも当たり前のように5つってどういう胃袋だよ、あっと俺は大波を一つで頼む」
向かい側のたこ焼きの屋台にはノアとクリス、それとシャフトが向こうならこっちの方がいいかとジェイクがそれぞれ注文、こちらもまたクルーガーも分かっていたことなので問題なく即座に手渡されたたこ焼きは大波、つまりは個数多めに入るように専用に作られた船と呼ばれる入れ物に入っており、表面はその道の職人が作ったと言っても過言ではない絶妙な焼き加減、ソースもエゴールと同じようにたこ焼き用に調整されたものを丁寧に塗られておりその上には、その場で削った鰹節が熱で踊る光景は見るものを楽しませ、食べるのを楽しみにさせる一品となっている。
そんなものを見せられて食いしん坊達が我慢できるわけもなく、割り箸を割ってからルキアが早速焼きそばを一口、瞬間
「ん~!!おいしい!!」
百点満点の笑顔を咲かせてただ一言、それを心からの声で述べる。そこにグルメレポーターのような詳しい感想はいらない、ただ釈然とあるがままを言葉にしたそれに周りのお客も自然と視線が彼女に向き、その光景を見て自然とエゴールの焼きそばの屋台に注目が集まる。
「ルキアちゃん、たこ焼きも食べてみる?」
「うん!あーん、こっちも美味しい!!!」
外はカリカリ、中はふっくら、そして中身のタコは小さすぎず大きすぎず、だがこれがメインであると主張する美味しさ、などなど食レポがあるかもしれないがルキアから出てくるわけもなく、焼きそばのときと同じように百点満点の笑顔と感想のみ、のみだが不思議と周りのお客の心に響き、そして
夏祭り開始から一時間、とある焼きそばとたこ焼きの屋台の前では二人の男たちがそれぞれ座り込んでいた、その顔はやりきったと言う表情であり、各々の屋台には完売という張り紙がつまりは
「全く、あの子はグルメレポーターの才能があるらしいな」
「と言うよりも親に似て惹き寄せるなにかがあるのだろう」
まだ夏祭りは終わっていない、だが彼らは確信した。この後もルキアという少女によって殆どの料理系屋台には人が殺到することになるだろうと
「……」
「大丈夫かしら、オガター?」
りんご飴屋台をしていたエゴールにとっては貴重な同性の同僚が燃え尽きているのがその証拠だと。
前書きにも書いたけど夏祭り要素ほとんどねぇな!(再確認)これはもしかしたら次も季節外れの夏祭り話になるかもしれぬなぁ。
でも新しいのも書きたいんだよなぁ(小声