それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 作:鮪薙
彼女、指揮官は音楽というものに触れたことのない人生を今まで歩んできていた、この司令部の指揮官となり自由になった今ではそれなりに音楽を聞き始めこそしてるが実際の演奏現場などは見たことのない物で空想のような光景程度に認識しかなかった
別に興味が無いというわけではないのだが演奏家も人間がやってる以上、指揮官からすればマネキンが演奏しているという何とも微妙な風景になってしまうので興味がわかなかったというのが彼女の本音だ、そう、その日までは
夕方の司令部、そろそろ日が落ち始めるという時間、指揮官とM1895は廊下を仕事のことを交えながら雑談をしつつ歩いているとふと、指揮官の耳に音が聴こえ立ち止まりあたりを見渡す
「どうしたのじゃ?」
「今、何か聴こえた気がして……あ、ほら今も」
「む、これは、サクソフォンか?」
サクソフォン?と聞き慣れない単語に首を傾げれば、そうか、これではお主には伝わらんかと小さく呟いてから
「サックスと言えば多少は伝わりが良いか?」
「えっと、トランペットみたいなやつだっけ?」
「厳密に言うとあれは金管楽器、これは木管楽器と違うのじゃがな、サクソフォンはその中間といった感じの楽器じゃ」
見てくれの材質は同じ故にその様な解釈になるのは分からんでもないがのと締めてから、音が何処からなのかを探るように目を閉じて音に集中する
一方、指揮官は聴こえてくるその音楽を楽しんでいた、軽快で心が踊りそうなその音楽、気付けば音に合わせて身体がフラフラと左右に動き出していた
誰が演奏してるんだろうなぁと考えながら楽しんでいるとM1895が出処に目処が付いたらしく
「屋上、か?」
「なら、ちょっと行ってみようよ、誰が演奏してるのか気になるしさ」
「まぁ、今日の仕事は終わっとるしな、うむ行くとするか」
なら早く行こうおばあちゃん!と駆け足気味で行動を開始する指揮官に待つのじゃ、走るのは苦手じゃと言ってるじゃろうか!と後を追う
程なくして屋上に続く扉前、そこまで行くと音ははっきりと聞こえこの先に演奏者が居ることが分かる。二人はとりあえず邪魔にならないようにと慎重に扉を開けばそこに居たのは夕日に照らされながらサクソフォンで演奏する【トンプソン】の姿
何時もは豪快で、それでいて姉貴肌なトンプソンがサクソフォンを演奏する姿は指揮官の目にはとても綺麗に、そして不思議と輝いて見えた、それはM1895も同じだったようでおぉと感嘆の声を上げ演奏を眺めている
時間にしてどのくらいが経っただろうか、時間が流れるのすら忘れさせるくらいの演奏が終わりトンプソンがふぅと息を吐いた所で彼女の耳にパチパチパチと一人の惜しみない拍手が届きそっちを見れば
「凄い、凄かったよトンプソン!!」
「素晴らしい演奏じゃったぞ、お主がここまで上手いとは想像つかんかった」
「ボス!?それに副官も、き、聴いてたんですか?」
廊下を歩いてたら聴こえてね、来ちゃったんだと指揮官が笑顔で伝えると彼女にしては珍しく恥ずかしそうに帽子を被り直しながら今しがたまで吹いていたサクソフォンを弄る
今日は久しぶりにサクソフォンを吹きたくなりこの時間帯の屋上ならば誰も来ないし一人で気にせず演奏できるだろうと思ってたのだがまさか指揮官とM1895の耳に届き来てしまうとは思ってなかったらしい
「なんじゃ、お主が恥ずかしがりとは、呵々これは珍しいものを見れたわい」
「ちょ、からかわないで下さいよ副官」
「でも演奏中のトンプソン、凄くカッコよかったよ。それに楽しそうだった、演奏ってやっぱり楽しいの?」
「そりゃあ勿論、楽しいさ。ボスは演奏したこととかは?」
「ううん、無いよ、思えば誰かが演奏してる所を見るのも初めてかも」
じゃあ私がボスの初めてって訳だなとトンプソンが指揮官の頭に帽子を被せながら言えば、その思いっきり勘違い者が生まれそうな言い方は止すのじゃと苦笑いを浮かべるM1895
「しかしそうか、となるとボスは楽器に触れたこともないって感じか」
「あ~、そうだね、街に出た時とかもその辺りは気にしないで用事済ませて帰っちゃうし」
「ならこれ少し持ってみるかい?」
「え、えっと、良いの?高そうだけど」
支えるんで大丈夫ですよと持っていたサクソフォンを指揮官に渡してみれば、思ったよりも重量があり軽くバランスを崩しかける、がトンプソンとM1895が支え安定した所でサクソフォンを見つめる
一通り、観察を終えた指揮官、そこで思うのは自分もあんな音が出せるのだろうかという好奇心、一応トンプソンに吹いてみてもいいかと聴いてみれば彼女はそのキラキラした目に断れるわけもなく快諾してしまう
すぐに支えられる位置までトンプソンとM1895は離れた所で小声で
「サクソフォンどころか楽器一つも演奏したことのない素人じゃぞ?」
「いや、あんな目をキラキラさせられて拒否は出来ないっすよ」
「まぁ、分からんでもない」
「じゃあ、行くよ~」
掛け声と一つ挟んでから指揮官は息を吸ってマウスピースを咥えて吹く、が
「……?」
もう一度、同じようにやるが出ない、トンプソンの様な音が出ずにプスーというなんとも気の抜けた音だけが小さく鳴る
理由がわからない指揮官が不思議そうな表情で首を傾げ、それを見兼ねたM1895はやれやれと言った感じに近寄り
「これは咥えて息を吹けば良いと言う楽器ではない、少々コツがいるんじゃよ」
「そうなんだ、てっきり笛とかと一緒かと思ってた」
「なら、今度教えましょうかボス?まぁ、ボスの場合吹ける吹けないと言うより」
「体力と肺活量か、どうじゃいっそカスタネットとか叩けば鳴らせる系の楽器なんかは」
「気の所為かな、おばあちゃんの言い方に妙なからかいが混じってる気がしたんだけど」
さて、何のことやらと笑うM1895、トンプソンもつられて笑い、指揮官がなんで笑うのさ~と彼女も楽しげに笑う
その後、サクソフォンに挑戦するがやはり重量と体力と肺活量の問題の壁は割と高く、M1895の言う通りカスタネットを楽しげに叩いてる指揮官の姿がBARで見られたとか
トンプソンにサクソフォン、最高に絵になると思うんですよ。絶対かっこいいと思うんですよ、書きながら想像したら惚れた(感覚の暴走
今回の話書いて、そういえば指揮官からすれば人間がやる演奏会とか演劇ってある意味人形劇になっちゃうのかと気付く