御狐様は、本性のまま空を飛んでいた。その時は、丁度黄昏時、夕日が白いはずの雲と自分自身の金色の毛を等しく赤色へと変化させている。ふと、昏く成っている場所に一番星が有る事に気が付いた。今宵はそっち方面で休もうか、休息が必要無いとは言え、一晩中飛んで居た所でキリスト教が見つかるとも限らない。
むしろ人間上がりならば、人としての本能、睡眠を大事にするかもしれない。そう考えて、御狐様は一番星の下に有った、人が住んでいるとは思えない位ゴミだらけの集落に足を付けた。
(何故、この様にしておくのだろうか?)
これは好機かも知れないと思う一面、彼女はそんな事を思った。自分を見る視線は今の所はない。しかし、自分を凝によって見る事が出来る人間がこの町、と言うかこの小さい国にどれだけいるかなんて知れたことでは無い。
夜も更けて、流れ星が綺麗に見えるほど、この国のテクノロジーは発展していない。周りの国よりもはるかに、だ。
(我に関係、あ、無いな。実力者が幾名もいるなれば、我に出来る事などたかが知れている)
例えば、飢えている人の子供一人でも助けられる程度の事は出来るかもしれない。だけど、それだけだ。命を一生守る事も出来なければ、今生き残る事が出来ないのならいつか殺されるのが目に見えている。
弱肉強食、それを見守って行くための御狐様なのだ。やるべき事は人が生きていくために必要な恵みを文得る事だけ。それも一人、信者や神童でも無い人間に与える事はやるべき事でも無い。
一度は乾いたこの地に雨でも降らせてやろうかと思ったが、それはこの地に住まう、生き抜くだけの力を持っている人間にとっては神に感謝する事ではないだろう。強いて言うなれば、自分の運が良かったと思うのだろうか。所詮は無駄に終わる、そう思って御狐様は振り上げた手を降ろす。
(?!)
御狐様は、その時悪寒を感じた。否、悪寒と言うよりも悪意を向けられていると言った方が早いか。
「誰ぞ、言いたい事が有らば出て来い」
いざとなったら逃げてやろう。そう考えつつも近くに有ったゴミ山に視線と警戒心を向ける。狐ほど鼻が利く、狐以上に鼻が利く御狐様にとっては、このゴミ山の中の生活は出来なくはないが常にイライラを抱える様な物である。故にとんでもなく、機嫌が悪くなってます。
「誰だてめぇ!ここは俺のシマだ!」
どうやら、巡回と言うかそんな感じだったらしい。そして、男の反応から見るに、一定のラインから人が居る場所といない場所で別れているのはそのせいのようだ。
「安心せい、我は直ぐ出ていく」
そう言って人気のある、屈強な男が出て来た場所から遠い場所まで徒歩で移動しようとする。男に対して興味を失って、さっそうと立ち去ろうとする。しかし、男はそうは行かせてくれなかった。
「待ちな!ただでシマ入って五体満足で出ていかれるとこっちが困るんだよ!」
引き留める男に、御狐様は振り向いて、品定めをする。興味を失ったと言っても、この男の所属している、人に恐怖をあたえる組織には興味があった。
(この男は半覚醒、こやつよりも強い者など外に五万といるが)
それでも能力者が入ってこないのは、どう考えてもこの男の上司が凄いからとしか考えられない。
「上の者を呼べ。いや、其れよりも案内された方が早いか。、案内しろ、上の者の所まで」
振り返っていた体を再び男に向け、恐れなど微塵も無い様に近づいていく。男にとっては、見目麗しく、自分に対して恐れない、どこか冷酷さをはらんだ目の前の女が恐ろしいのも無理はない。狼狽えるだけで済んでいるだけすごいと言うか、神経が図太いと言えるだろう。
「どうした?案内せぬなら」
解っておるな?そう言葉は続いたのだろうか?それに関係なく御狐様は爪を男の首に突き立てた。いつの間にかそこまでの接近を許してしまった事や、突き立てられた爪に対しての対処法で頭をフル回転させるも、その時間は文字通り間もなく終わった。
「何をしている?」
威厳のある声。男は命を刈り取られかけている事も忘れてしまうほど驚いて、顔を青くした。振り向いて土下座せんばかりの勢いで正座をしたところで、声の張本人から「止めんか見苦しい」と呆れら半分で止められた。
「手前の者が失礼した。して、滅多に人が入らない場所になんの様ですかな?」
(使えるな。国で偉いのであれば利用するに越したことは無い)
「人探しだ。迷惑なれば出ていくが?」
男が土下座を披露しようとしたのは、スーツ姿の初老で左目辺りに切り傷の跡をもつ男。見た限りでは、そんな恰好を出来るという事は、この国ではかなりの位置に居るのだろうと考えた。しかし、そんな概念が無いかもしれないと言う可能性については除外している事がそもそもの間違いである。
「いや、この地には人はほとんどいないからな。迷惑以前に別の場所を探す事をお勧めするよ」
御狐様の目は、真実だけを掬い取る様に相手の目を見つめ、射すくめるだけの眼力を持っていた。人の闇を知っていれば、嘘や本当など直感で解ってしまうのだろう。
「そうか。では、縁が有ったらまた」
口ではにこやかにしつつも、内心ではタヌキ親父に向けて毒づいている御狐様。自分の身分を明かす事も無く彼女を厄介払いしたのだからだ。
(まぁ、関係ないか)
今現在の目的は、キリスト郷を見つける事。恐らく絶対生前と性格は変わっているだろうが、それはそれとして考えた方が良いだろう。
徒歩で男たちの縄張りから出たと思われるボーダーラインで、御狐様は数名の念能力者に囲まれることとなった。いざとなったら実力行使で逃げる事も可能なため、どうなるのかを面白そうに、楽しそうに、他人事のように人の行動を観察する事にした。
すぐに協会?と思わしき場所まで連行され、御狐様は椅子に座らされた。そして、机を挟んだ向かい側に、面談の様にお偉いさん?が三人座った。
「どうしてあの場所から出てこれたのか、理由を聞かせて貰おうか」
それを始まりに、御狐様に数々の質問を浴びせていく。されど、それは本来の聞きたい事ではないのだろう。答えた時の反応の薄さから、御狐様はそう考えた。
「お前は何者だ?」
一番聞きたかったであろう言葉が出た時には、既に一時間ほどの時間が連行されてから経っていた。正直に自分の正体を話すのもアレだったので、至る所でごまかして答える事にした。まぁ、言った事に間違いはないのだが
「我は、聖職者の作り出した念獣の様なモノ。複数人による術な事、既に死者である事が重なってこの様に自由に動く事が出来る」
そんな御狐様に持ち掛けられた話は、望みを叶える代わりにあいつらを追い出して欲しいとの事。
使えると、信仰心を求める御狐様が思わないはずもない。
「ならば、教会を建てよ。我を崇め奉れ、さすれば願いを叶えん」
立ち上がって、多少の威厳を示す。そこからの話はとんでもなく早かった。教会が建つ算段を付け、その日の内に御狐様は男たちの拠点に水攻めを始めた。水攻めと言っても、雨を大量に振らせ続けただけなのだが。数日もしない内に男たちは降伏。
その後、教会を立てた側の男たちが新たな政権?を立てた事を、御狐様は風のうわさで聞いた。何時しか自分の存在は本当に神として昇華されればいい方だと目星をつける。
(さて、キリスト郷は何処にいるのか)
裏社会にも精通する神様なんて、それでいいのかと苦笑を浮かべる。その時見上げた月は、いやに綺麗だと思ったのだった。
次回予告 キリスト郷を探し旅する御狐様は、ある時森で夜を過ごしていた。そんな時、久しぶりに人の心に耳を傾けると、そこには純粋で強烈な好奇心が有ったのだった。その好奇心に興味を持った御狐様。ハンターと自称する狩人の後を憑いて?行くとそこには?
次回 探索其の三 御狐様と狩人の夢
やっと、念能力らしい戦闘がかけそうだ