念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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探索其の三 御狐様と狩人の夢

キリスト郷を探して三千里、とまではいかないがかなりの距離を飛んで居るはずだ。御狐様は随分とこの生活に開き始めていた。他のジャポン神たちは自分と同じように成っているのだろうか?そう考えつつこの日も星を見上げる。

 

(思えば、放浪してからゆっくりした事なぞ、無かったな)

 

久しぶりに人の(願い)に耳を傾けてみれば、この近辺から純粋な好奇心を強く感じ取った。人里離れた森の中、そんなに強く聞こえるはずは無かった。有るとしたら、この近辺に人が居るかもしれないと言う可能性。

 

(人が我から気配を消す、か。そう言えばそんな技術もあったか)

 

別に、人間の分際でなどとは思わず、むしろ念能力者、仙人や超人ともてはやされる人間の人物像に興味を持った。姿こそは確認できないが、願いの声を頼りに近づくことは出来る。その声を頼りにあまり離れすぎず、且つ見つけられない程度の距離を保って付いていく。

力の弱まっている(全盛期に比べ)御狐様には、人の大雑把な感情が読み取れても、声を言葉にして聞き取る事は出来なかった。昔はよく雨が降って欲しいだの、家畜の馬が安産で有る様にだの、色々聞こえたのにも関わらず、だ。

 

(それにしてもどこに行くと言うのだ。この先に何か特別なモノが有るのか?)

 

何となく警戒の色が強くなった狩人を追いかける。因みに御狐様たち念獣もどきな神様たちは、力を抜いていて姿形を問わず一般人には見えない、念能力者には見える、陰をすれば凝で見られないと見つかる事も気配を察知することも出来ないと言う性質が、割と昔からあったりする。凝で耳を強化しなければ陰している神様のお声は聞こえないのです。

 

「誰か、いるのか?」

 

そう言って腰に携えた剣に右手を掛け静かに辺りを見回す狩人。背には小さめの、けれど見る人が見れば強弓だとすぐに解る弓と矢を背負っている。足を止め、振り返って四方を見渡している。

 

凝をしている事からも、視界に御狐様が入れば見つかってしまうだろう。気が付かれない様にストーカーしていく御狐様。何を目指しているのか知りたかったのかもしれないが、暇つぶしと言うのが大きいのかもしれない。こんな風に人に隠れて後を憑けると言う行動自体が初めてで、スリルの有るモノだったからかはわからない。結局彼女も戦闘狂なのかもしれない。

 

「いない、のか?」

 

疑り深く何か引っかかっていると言う表情をした狩人は、警戒心をマックスまで高めて森の奥へと進んで行く。

 

(危なかったな。別に、見つかってどうと言うことは無いが)

 

むしろちょっとくらいなら信仰心の足しになるのではないかと考えた所で、止めた。そんな事を考えても、今の世の中は酷く現金な物だと解っているから。人の自己満足で生贄を受け取ってくれるような神様なんて人用とされて無いのだから。

 

しばらく進むと、小川の音が御狐様の耳に届いた。せせらぎとは言えない位に小さい音、その音に反応したかのように狩人は足を速めた。

 

(何か、有る)

 

具体的な物は御狐様にも解らなかったが、その音に何かしらの手がかりと、この状況事態に違和感を覚えた。具体性の無い違和感。人だったなら、それほど恐怖心を煽る物なんて無かった。

 

「有った!これが!」

 

感動に言葉を詰まらせている狩人が手に取ったのは、黄色に輝いている様に見える泉だった。

 

(アレは、なんと言ったか。黄の仙水、だったか?)

 

御狐様の思うとうり、狩人が目指したのはこの、読んで字のごとくな仙人の泉である。黄の、と付いているからには世界七大美色に入るだけの美しさを持ち合わせていた。周りの緑の植物と相まって、かなり神秘的な空間が生まれている。

 

(喜びと、安堵の色がうかがえるが、あの男。訳ありか)

 

謎は解けたので、さっさと立ち去ろうかと思った御狐様だったが、その安堵の気持ちを感じ取ってもうしばらくストーカーする事にした。人聞きが悪いと言われるだろうが真実だから仕方ない。

 

泉の水を水筒に入れ、再び警戒心を高めた狩人は何人にも見られていないか辺りを見回していく。彼の目には移らないが、かなりの数の精霊や妖精たちが辺りを飛び交っているのだが。

 

(このあたりは特に多いな)

 

普段から街中だろうとどこだろうと見かけるそれらの数が多すぎる事に、彼女は気が付いた。まぁ、それも黄の仙水によるものと言われてしまえばそれまでなのだろう。

泉の水をくんだことによって、数匹の妖精がその水筒の傍で飛び交っている。御狐様の存在に妖精たちは気がついてはいるが、眼中には無い様子だった。

 

ただ、御狐様にしか気づいていない悪意が一つ、狩人に向かって放たれている事を除いては。

 

(悪意に無意識下で気づいている妖精どもがざわめき立っているのか。この男が連れて来たのか?)

 

悪意事態は人間の物で間違いはない。ただ、その悪意が出て来たタイミングが仙水を汲んだ時と言うのが問題なのだ。もしも、御狐様と同じくずっと付けていたこの泉の所有者や管理人だったとしたら、下手すれば戦闘にまで発展するだろう。

 

(それは、面白い事に成りそうだな)

 

そして、人間の営み観察が趣味と言って良い御狐様にとっては手を出すと言う無粋な事をする発想は生まれなかった。むしろ、面白いから放って置く、もしくは余計ややこしくさせる性格の持ち主である。

流石狐。狡猾である。

 

「!?誰だ!」

 

思えば、前々から後ろを警戒していたのは、自分を付ける義務を持つ人間がいると言うのを知っていたからなのかもしれない。そう言う風に、人間に考えが裏切られることを、自分の知恵を人間の知恵が上回る事を、御狐様は何よりも嬉しく思った。

 

ガサッと音がして、狩人が振り返る。弓を引き、纏をして戦闘態勢に入る。よく見れば、その矢の筈には細い縄が結わえつけられていた。

 

「出て来い、さもなくば」

 

打つ、そう言おうとした時、語る事など何もないと言わんばかりに周によって強化された小石が十数個ばかり狩人に投げつけられる。

 

狩人はジャンプしてそれを避け、矢を放つ。無論、当たりはしなかった。だが相手の事を草むらから追い出すには十分だったようだ。

 

「その水を置いていけ!」

 

青年の様な程よく筋肉の付いた狩人とは違い、ガタイはでかく色黒で顔にクマにでも引っ掻かれたかのような傷を持つ男性。剣や力の勝負になればどっちが勝つかなんて目に見えている。両者共に念能力者でさえなければの話だ。

恐らくは最大の譲歩のつもりで発した男の、バルアの言葉は狩人の、ライルには届きはし無かった。

 

「奪い取って見な!」

 

そう言ってライルはバルアに背を向けて全力で走る。精霊たちはそれに付いていく。ふと、違和感に気が付いた。

 

(まさか、見えていたのか?)

 

気に入られたのなら見えたって不思議も無ければ、上手くやれば協力関係を得る事だって出来るだろう。自分の考えが根底から覆されたようで、御狐様はにやりと口角を上げた。

 

全力で森の中を縫って駆けるライルは考える。思考停止したら捕まってしまうだろう。一見強化系に見えるあの男から自分が逃げ切るには、一瞬の隙を見ての発しかない。その為にも、隙を作らせるためにも今は逃げる事を優先した。

そしてそれを追うバルアはまんまと罠にかかった青年の背を見て表情に喜びの色を交えた。何系だか知らないが罠にかけてしまえば自分が勝つに決まっていると確信しているからである。

 

ピュー!

 

バルアの口笛が響いてライルは一瞬その音に気を取られてしまう。やばい、そう思った時には既に体は動かなくなっていた。咄嗟に凝をしても、何かに掴まれている訳では無い様だ。その事実にライルは焦った。もしかしたら自分の作戦が効かないのかもしれないと。

 

「捕まえたぜ」

 

バルアは身体の動かないライルの腰に付けた水筒を取ろうとする。

御狐様から見ると、口笛が聞こえたと同時に傍にいた妖精精霊類がライルの体を拘束したように見えた。バルアは幼い頃からこの森に居るのだろうか?そんな事はいまはどうでも良いか。

 

(いまだ!)

 

その時、ライルを中心とした円が展開された。そして、水筒に手をかけたバルアの手が燃えた。燃えたと言うよりも、火が彼の手を退けたとでも言おうか。

その隙のおかげで妖精たちの拘束は解かれた。おかげで自由を手に入れたライルは戦闘態勢を整える。様に見せかけた。

 

「ちッ!」

 

バルアは作戦が失敗したことに対するいらだちで舌打ちをして腰の刀を抜く。

ライルは火を操って武術の構えを取った。どこの物かは知らないが、御狐様が知らない時点で割とマイナーな物な事は確かだ。

 

暫く、間が開いた。その間でさえも、御狐様がバルアに興味を無くすには十分だった。

 

一瞬の攻防。

 

火を纏った拳と周によって強化された剣が重なり合う。右斜めからの斬撃を堅の火を纏っている拳が正面から打ち砕く。そこから堅と流と凝との押収だった。バルアは、何かが可笑しいと思いつつも、それを続けていた。

 

 

 

 

 

「はぁ~門番がいるって聞いたからどんなもんかと思ったけど。拍子抜けだったなぁ~。ねぇ~ずっと付いてくる位なら話し相手になってよ~」

 

人目のない、けれどいつ通るか解らない道まで出るとライルは道の傍に座り込んだ。付かれた訳でも無いが、期待外れだったことも有ってか御狐様の方向を向いて言う。当てずっぽうと言う訳ではないだろう。

 

「逃げに徹するか、それも一つの戦術じゃな」

 

「うっわ、思ったより美人」

 

(思ったよりも残念な美形じゃな)

 

仕方なく姿を全て見せる(人型)と、まぁあざ笑う様な、ではないか。見下す?品定めする様な目で御狐様を見た。多分神様時代だったなら落雷の一つや二つ落ちているだろうが、今となってはどうでも良い事だ。

 

「して、何をそんなに残念がる」

 

目的は果たせたはずだ。なのに、残念と言うか物足りなさそうな顔で御狐様を呼んだのだ。何かあると思うのは当然の事だろう。

 

「なんていうか、つまんないって言うか。ぶっちゃけ大したことなかった」

 

「あれだけ喜んでおったのにな」

 

「いや、そうじゃなくてさ。何て言うか、ほんと、もっと骨が有ると思ってたし、思い返せばほっとんど喜ぶ要素ないし」

 

手を横に振りながら絶対それは無い的な表情で苦笑い、後に御狐様は思った。あの青年、絶対友達少ないだろうなと。むかつくムードメーカーと言った所だろうか。

 

「どうでも良い、だがな、余り妖精相手に喧嘩を売らぬ方が良い」

 

「え!ちょっと待ってよ!もう行っちゃうのか?」

 

狐に変化しようとすると驚いた顔で止めにかかる。どうやら、戦いたいらしい。と錬をしているオーラが物語っている。ここは山中出こそないが人が何時通ってもおかしくない野道、こんな所で戦闘を行うなどそれこそ馬鹿のやる事だ。あまり本性を知られたくない御狐様にとっては嫌な事この上ない。ついでに、オーラ補充が難しいからあんまり戦闘を行いたくないと言うのが有る。

 

と言う訳で、逃げた。

 

「おいこらずるいぞー!」

 

狐姿を見られたくない一心で人型で飛び去ったが、ライルは念弾で追撃して来る。面倒で、自分勝手な事この上ないのだ。

 

~~~~五分後~~~~

 

「もういいか?」

 

「はひ、すみませんれした」

 

要約すれば、面倒になった御狐様が殺す気で落雷と言う名の天罰を与えてみたのだ。全力の硬で防がれたので、それを何十発と。そのように片づけた人間をほっぽってどこかに行ってしまう御狐様は結構薄情なのかもしれない。

 

「あ~あ!せっかくの好敵手が!」

 

大の字に寝っ転がって悔しげな声を上げるライルは、どこか満足げだった。

 

「まだまだあるじゃん」

 

語尾に音符でも付きそうなくらい楽しみにするのは、それは彼にしか解らない。でもまぁ、やりたい事、人生にとって意味の有るモノを、彼は見つけたのだろうと思う。

 

 

 

 

 

それから十年後、ハンター協会なるモノが発足されたと、御狐様は耳にするのだった。




ごめんなさいマジで更新遅れました。


と言う訳で次回予告は無しです。すみません。

次回は~映画編に続く伏線を張っておきます。この事がバタフライエフェクトを呼び、きっとハッピーエンドで終わるでしょう(誰にとってのハッピーエンドかは言ってない)
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