「お探ししましたよ、キリスト郷」
「おや、貴女様は?」
とある大きな建物の屋上で、朝日に照らされていた紅葉を眺めていたキリスト郷を、御狐様は三年越しにようやく見つけたのだった。後姿が肖像画と寸分違わないので間違っている可能性など微塵を考えなかった。
「我は、東の国、ジャポンにて社の主神だった者成り。御狐様と呼ばれておった」
「それはそれは、遠い所からようこそ」
御狐様は彼の隣に座ると、同じように紅葉を眺め始める。いざ合ってみると何しに合いに来たのかさっぱりである。確か興味本位だったはずなのだが。
「普通神様は社から余り遠くへはいけないはずですが、何かあったのですか?」
何処までも聖人なキリスト郷。御狐様を心配しての質問だとその声音が語っていた。
「我は既に流れ者じゃ。人が我を必要としなくなった故」
必要とされたかった、それだけの理由で人と関わっているのかもしれないと彼女は思う。神として必要とされたかったのか、それとも個人として人格を見て欲しくなったのかはわからない。もう既に彼女を縛る神と言う名の枷は無い。
「キリスト郷はまだまだ現役であろう?羨ましい限りじゃ」
「それでも流れ者と言うのは御狐様と変わりませぬ。それに、少しは自分の正義を持ってほしいですしな」
要するに、神の名のもとに、とか、我が神の正義を持って、などと言う言葉を盾に戦争するなと言いたいのである。
「信ずる物は人それぞれ、それを受け入れる事を知って欲しいのだ」
自分の信じている神様だけが正義と考える事を辞めて欲しいと、意訳すれば自分から離れて欲しいとも取れる言い方をするキリスト。
「全てが平和に成れば我らは必要とされなくなる。感謝の気持ちを持ち続ける事の出来得る人間は数少ないからの」
もしもの話、御狐様たち神様がもっと繁栄しようと思ったならば方法は単純明快、人の世に戦争と災害を淘汰しない程度に起こし続ければ良い。各々の勢力が自らの神を仕立てあげ、それに殉じる人間が出るようになれば新しい神様がその思い込みの死者の念によって誕生する。
「平和が過ぎれば貧富の差が生まれるようになり、新たな神を仕立てあげ戦争を起こすのが人間と言うモノだ。」
キリスト郷が寂しげな表情をして言う。貧乏人にとっては確かに聖人であり心の助けになる彼だからこそ、本物に成ってしまったからこそ彼には人間の心の醜さと言うモノも知ってしまったのだ。
「我には既に人の心を動かすだけの力は無いが、お主は違うだろう?」
現役神様として、まだまだ活動している彼に比べれば、確かに彼女はもう力が少ない部類になるだろう。
まぁ人間と戦うには十分すぎるほどチートなのだが。流と堅を自動で行える+死者の念の塊=チートである。一応あまり人を殺してはいけないと言う決まりは有るっちゃあるが時と場合と機嫌による。要するになるべく殺しはせず、流れに任せるという事だ。
「それでもですよ。私でも出来ない事の方が既に多くなっている」
全盛期を過ぎてしまったキリストには、御狐様が言う事は少し荷が重かったのかもしれない。既に、という事は出来た時代が有ると言う時点で結構恐ろしい。
「生まれたら直ぐに洗礼だったのだろう?大変じゃな、お主を信仰する親を持つ子は」
自らの意思で自らの信ずる事を選べないのだから、そんな強制的な信仰心は彼らにとって毒にこそなれ、薬にはなれない。
「その様な考え方も有りますか」
「ジャポンの神は皆共存しておるからな。我は山、龍神は天、人魚は水、鬼神は病、福神は縁。それぞれ司るモノが違う」
万能な神様などいない、それを物語っている神話が有るジャポンは凄いと思いました。
暫くの間、彼らは語り合って別れた。理想なんて一人一人違うが、誰しもが幸せに成ろうとしたうえでの行動なのかもしれない。
この物語に終止符が打たれるのは、何時になるのか、それはまだ誰も知らない。始まっても居ない因果を解ける者なんて、居やしないのだから。
今回は短くて済みません。
探索終了です、ついでに連続投稿します。
次の物語のキーワードは{因果}です!ようやく原作パートに入ります。(試験編とは言ってない)