(凝、見られているな)
ニヤリと、その口角を上げるヒソカ。明らかに御狐様の姿が見えている証拠である。しかし、彼女の今の立ち位置はクラピカとレオリオの後ろだ。彼らにもそれなりの恐怖を与えてしまった事だろう。
「た、助け!」
何もできないでいる二人と、それに縋ろうとする一人。いや、縋ろうとしているのは二人の後ろに居る神と悪魔か。
人外をも疑えるような肌の白い手が、武器であるトランプを拾い上げる。既にとどめは刺された。彼はゆっくりと二人に近寄る。それが人外を見ての事か、手前の二人を見ての事か。
『陰』
御狐様は小さくつぶやいて、自らの姿を消す。その行動で言葉の意味を理解したパイロも同じく陰と言う技術で姿を隠す。これによって、彼らの姿、声を認識できるのは同族以外に有り得ない。
『くだらない茶番、そうは思わないか?』
『きっと、深層心理では思ってるでしょうね。認めたくないだけで』
彼女の問いに、パイロは自虐気味に答えた。
その時前に居た二人は逃げる算段を付ける。
「こんな所で無駄な戦いをしている場合では無いんだ」
クラピカが説得し、レオリオははを食いしばりながらもそれに納得する。近づいてくるまるで死神の様な道化師が纏うものに恐怖を感じながらも、クラピカはタイミングを計った。
”カァ~”
一陣の風が吹いて、烏や他鳥たちが飛び立った。それをタイミングと見て、彼は今だと叫ぶ。それを合図に別方向へと二人は別れて逃げた。
「なるほど❤賢明な判断だ♠そう思うだろう?」
『お前は黙っていろ「試験官ごっこは終わっていないだろう?」』
ヒソカは御狐様がいる方向を見て言う。されど視線が少し動いている事から姿は見えていないと確信する。彼女はパイロにだけ聞こえるように言ってから、ヒソカへと言葉を綴る。俗に言う、神託の様な物だ。
彼は笑って、周りへと意識を向ける。そうすれば必ずわかる、隠す気も無い気配が一つこちらに向かっている事くらい。
『止めた方が良いのでは?』
パイロはそう進言するが、御狐様は悪巧みしている様な笑みを浮かべていた。その意味が彼には理解できなかったが、少なくとも手を出すほどの物では無いと言う事は理解できたのでそのまま視線を彼らへと向ける。
「やっぱ駄目だな」
木の棒を装備したレオリオが、ヒソカに対して向かって来る。御狐様にとってこれは決して『茶番』には成りはしない。敵の実力も計れない愚か者と、何となく理解したうえでなお立ち向かうその無謀は、御狐様にとっては『茶番』では無く『演劇』だった。
舞台袖の給仕係のやる物とプロの演じるそれは決定的に違うのと同じ事だ。
「例え、売られた喧嘩じゃねぇにしても、何にもしねぇで逃げるのは、俺の性に合わないんだよ!」
それに気が付いたクラピカは止めようと彼の名を呼ぶが効果なし。それと同時にレオリオがヒソカに殴りかかる。御狐様は小さく笑って髪飾りとして使われている簪の蒼い石だけを取り出した。小粒で小指の爪ほどしかない其れ、しかし見る人が見れば一級品で有る事は一目瞭然だろう。
『どこでそのようなモノ手に入れるのですか?』
パイロが聞く。それは明らかに人間の手によって加工された物で、物質的な質量を持ち、彼らの様な思念の塊では無いからだ。まぁ、とんでもない量の力が宿っているのは目に見えて明らかだけれども。
『これは献上物じゃ。そうじゃの、後でその辺りの講習会でもするかの』
後で、と言う言葉からこの後二手に分かれると言う事を暗示させた。と同時にレオリオがヒソカの残像を殴りつけ、兆発のつもりか目線一瞬を御狐様に向けた。
そしてそのままレオリオに視線を向け、見事としか言いようのないフォームで彼を殴ろうとした。と同時に赤い物と蒼い石がヒソカの左右のこめかみに当たる。
けれど、彼は蒼い石の事は無視して、赤い浮きの付いた釣竿を持った少年の方へと向き直った。
~~~~~~
「付いて来てるんだろう?出てきたらどうだい♠」
レオリオを担いだまま、ヒソカはどこかに話し掛けた。そして、ゴンに殴られた時にでも自分の能力で拾った石をこれまたどこかに放り投げた。投げ渡したの方が正しいのかもしれない。
御狐様はと言うと、パイロをゴン、クラピカの方に置いて来て見守りように告げヒソカの考え通り、ちゃんと付いて来ていたのだった。
(この者は我にとっては害にしかならぬ。されど___)
葬ってしまえば自分の存在はそこで消されてしまうだろう。そうなれば神童同士の争いでどちらが勝つかによって変わって来る。この様な場合は、勝った方の神童の神が負けた方の神童の死後の思いまで取る事が出来る。しかし、相手はそのルールを守ってくれるか解らない死神。どう行動するのか普通の神様ならば迷う所であろう。
御狐様は例外だ。むしろ、ジャポンの神々全般そうだ。
「これで、満足かや?」
和魂、荒魂。要するに悪と善が一つの器に入れてある神様は人の邪心と善心どちらだろうとエネルギーに変換する事が出来る。即ち、ルールを守らなければ死神ごと食えばいいと言う発想に至った訳だ。普通の神様にとっては存在が保てなくなるレベルでお腹を壊すほどの邪心の塊だと言うのに、だ。多少消化に時間はかかれど、元からそう言う神様なのだ。
「御狐様、とか言ったっけ♣」
「死神から聞いたか」
「君以外にも沢山ね❤」
「面倒くさい」
浮かんでヒソカと並走しながらバッサリと言い切った御狐様。どうやら彼女は物ぐさな様で、表情からも面倒という事がうかがえた。しかし彼はそれでも笑っていた。面白い物を見つけた、と言う表情が隠しきれていない。彼にとってはの話であって、他から見ればただの変態である。
「少しは人間らしくあれ。我らの存在が必要成ればな」
自身の事を玩具と思っているのを知ってか知らずか、御狐様は決して彼と目を合わせようとはしない。
「人間らしく、かぁ♠そんな曖昧事、どこで定義されるんだい?」
「人の法の中に居れ。我らの領域に立ち入るな」
「君が先につけて来たんじゃないか♦」
お前の事じゃない、と言うのさえ億劫に成るほど彼女はヒソカに対しての評価を最低値に設定している。元よりそこから動かそうともしていないが。
そして彼女の言う”我ら”の領域とは、一体何処から何処までなのか。
「一方的に干渉して来るなんて酷いじゃないか♣」
神童がそうならば、御狐様たち事態がそのそれぞれの領域には立ち入らないと言う規律を破っている事になる。しかし、そう簡単な物でも無い。そして、それを解ったうえで彼は言っている。本当にタチが悪い。
「人は我らに無意識下で干渉している。意識介入が入ればそれは不安定な物になる」
無意識下での干渉と意識下での干渉は彼女らにとっては存在意地に関わるほど重大な事だ。自らの存在を安定させるためにも、神様はこうあるべきだと言う決めつけに則って存在しなければいけないのだから。
「あの子達はいいのかい?」
「人が望んだのだろう?」
ヒソカの質問に質問で返す。と言うよりは確認の方がニュアンス的には近いのだろうけど、それでも彼は自分の斜め上を行く発言に気分を良くしなかった。
「下手すれば、、君の大事な子も殺し__」
「やって見ろ」
鋭くも無い平坦な声で、ヒソカの声を遮った。挑発という事も十二分に理解していてもそれに理性が追い付かない。荒魂が強くなっているせいだろうか、元からそこまで強くない和魂しか持ち合わせていないのだから仕方のない気もする。
「神託だ、よく聞くがいい。
我が神の子、死させれば汝の願いは永久に叶わぬ」
どういう意味かと問う間もなく、御狐様は彼の前から姿を消した。ヒソカはまぁ自分の想像以上の殺気に当てられてそれなりに嬉しそうでは有った。
神託の意味など、考えもしなかった。
すみませんが今回は次回予告なしです、二連続投稿ですので。