念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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元凶其の一 かつての事件

御稲荷様が住まうのは、途轍もなく広い自然公園の中の一角にある社だった。昔は一国に祀られる程の力を持っていたが、今ではそれだけの信仰心など無いに等しかった。

強いて言わずとも、この近くにある研究所とそれに系列する大学の受験シーズンにはかなりの人数が都合の良い時にしか信じていない神頼みを行いにやって来るレベルだ。

 

ずっと、社の屋根から見える範囲にある研究所を見るのは、ある種趣味や日課と同じだけの意味を持っていた。そして見るたびに思う。

 

自分の力が及ばなくなり、漂う力を抑える事が出来るのは一体何時までなのだろうか、と。

 

見るたび膨れ上がっていくソレは、もう御稲荷様だけの力で抑えられている訳では無い。人の心は形式ばった物にこだわり過ぎて心が無い。もう既に限界は近かった。御稲荷様にできる事は、現時点で全て尽くしていると言って良いだろう。もしも均衡が崩されたらと思うと、ぞっとする。

 

 

ある時、御稲荷様が考えていたことが現実になった。研究所の中に漂う力が抑えきれずに実験体や被検体に力を与え、押さえつけていた人間たちに、彼らが付けた牙を向いたのだ。

あくまで大多数の人間の味方であるためには、それらは押さえつけねばならなかった。しかし、それだけの力はもう無い。

 

窓ガラスが割られ、ビルは崩れ、植物は燃え、兎に角カオスとしか言いようの無い状態が生まれた。人々の悲鳴があちこちから木霊して、子供は泣き叫びながら元凶である生物兵器たちから逃げまどう。大人は立ち向かう者、逃げる者、絶望し諦める者。

 

数日のうちに、御稲荷様の社周辺に生き残った人達が集まって来た。さながらバイオ○ザードに似た物だった。ゲームでやるからこそ面白いそのイベントも、ライフは一、しかも難易度の補正も無く強制ルナティック。冷静でいられるものの方が珍しかったし、異端者扱いを受けた。きっとどこの国の研究所も壊れてしまったのだろう。

御稲荷様の長年の仲間とも言うべき神様たちからの連絡が無い。つまりはもう既に国ごと消えてしまったのかもしれない。

 

そんな中で、無人島(少数民族の生息を確認済み)のある湖に近いこの国は、国の先導者の煽りも受けて大きな船を作り上げた。

 

銃火器が普通に民家に置いてある国だったから、国民がほぼ全員武道と呼ばれるもので体を鍛えていたから防衛と食料調達、および船の制作をする事が出来たのだ。

 

とある今では珍しく信心深い老人が、御稲荷様の御本尊である狐の石像の額飾りである赤い勾玉を持ち出して、本人の代わりとした。

それを依代としてほしいと言う意味だろう。最も、そんな力が残って居ればの話だが。ほぼほぼ死力を尽くして仲間と連絡を取り、集まった数柱の神と共に作戦を練る。如何にして人類を生き残すか、と。

 

満場一致で既に数少ない人間の生き残りであるこの国の人間を船で逃がす事に決まった。問題は方法だ。中間地点に亜人と呼ばれる種族がいるが、それらが協力してくれるかも定かではないし、勿論厄災となった生物兵器たちが湖の中心に来ないとも限らない。

怨みを募らせ向かって来る可能性の方が高いなら、と、有る国の主催神が意見を言う。龍に見立てられた彼女は武神として名高い。女性の神でありながら天気と戦場を司るとまで言われている、鎧を着た気の強い竜神だ。

 

彼女はこう言った。

 

”湖全体に結界を張り、人ならざる者が容易に出入りできない様にすればよい”

 

しかし、何処の神様も力が不足しているのは必然で、それは自らの存在自体を掻き消す事に他ならなかった。ならず者の霊に飲まれない様に必死な神もそれに同意した。そして、結果として行われるのは誰がそのいなくなるのか、と言う御題目の結界を張る担当の押し付け合いだった。

 

龍神は当たり前として、他に誰が行うのか。結果としては御稲荷様とほか三柱の神に決定され、他は亜人族に話を通したりと色々な役目を割り振って行く。

 

ついには出立の日。幾多の神に守護されたその希望の船は湖の中心を目指していた。既に人魚の形をした神が亜人に協力を依頼、そして承諾を受けているのであとは結界係がへまをしなければ人類は生き残るのだ。

 

一方で亜人たちは、自らの業を背負う事さえ出来ない、自ら生んだ霊にどうすることも出来ない人間を怨み、それでもなお人間と共にあろうとした人外たちに賞賛の意を込めていた。自分の身を危ぶませてもその対象者の事を願う。その思いが伝わったからこそ、きっと亜人は承諾してくれたのだろう。数千年後に人間自らその地へと向かうその時に留めなかったのは、偏に恨みからくる八つ当たりとけじめの意味が有ったのだ。

 

結界を張り、既に存在が消えてしまった神々をよそに、御稲荷様だけはその場にとどまっていた。しかし動くことも出来ず、どうにもならなかった。この世に留まれるのなら、いつかきっと信仰心を得て復活する事が出来るのではないかと考える。例え天文学的な数字になろうとも、無限に近いその時が有ればと希望的楽観視をする。

最後に思うのは、何故自分が生まれたのかと言う自分の存在意義。

 

泥沼にはまった思考の中で、聴覚も何もかも消えた御稲荷様の世界で最後に感じたのは、自分の額飾りだった勾玉に祈る人間の暖かな希望だった。




という事で脱線作品一作目。関係なくはないけど無くても良かった話です。会話文は皆無だけど、いつかこの話が重要な情報となる日が来るでしょう。

因みに友達の誕生日という事でこんな作品を作りました。全く祝ってない上に縁起が悪いですね。

決めていないけど、御狐様はかなりの年数人間もとい人類の事を護ってます。それで、いまのうちに明かされて無い部分の設定を色々考察していきたい所存。
作中に出て来た結界のお蔭でなんだかんだ人類生き残ってます。

なのに力の強い人が大勢行っちゃう今やってる話を見るとその結界を破ってでも進出しそうだなぁ。
ただ一つ言えるのは、最終的にギャグ路線に突っ走りそうな感じなんですよね。はは。。
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