念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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神託其の三 御狐様と町民の一生

平々凡々な平民は、家長は家業を継ぐが一番良しとされ、他は嫁に行くなり婿に出るなり出家するなりが理想とされている。御狐様は社から出た事があまりなく、勿論知ってはいるが実際にそれがどういう事なのかは知らないのだった。

(そもそも人の子は何人ほど一家庭から生まれるのじゃ?)

少なくて一人、多くても四人くらいだろうと思われる。しかし御狐様にこの文章は読めないのだから、ちょうどいいサンプルとして、戦争以来毎日社に参る神童を見守る事にした。ただ見ているだけ成ればと、社の奥深くに飾ってある鏡に術をかけて、彼を監視し始めた。

 

『英二~!御飯だから明子と太郎を呼んできて!』

『はい、母さん』

台所で呼びかける気の強そうな女性と、それに答えるは居間で竹籠を編んでいた神童。手を一旦止め、外へと自分の兄弟たちを呼びに行く。

(子は母に従うモノと聞いたが、従属している訳でも無いのだな)

人(物凄い大人数)から生まれた御狐様にとっては、両親からの愛情がどうのこうのは全く理解できなかった。必要も無いと思っていたが、それがいつか信仰を集める手掛かりに成るのではと思って、研究者の気持ちで観察を続けた。

 

 

次に御狐様が興味を持ったのは、教えどころでの出来事。

『こら明子!教えどころに来ちゃだめだろう!』

(ふむ、明子は学ぶ必要が無いのか?男しかいないのはそのせいか)

要するに、そう言う事である。人間の文化を良く知らない御狐様にとって、現代では男女差別と名称される文化など知る由も無かったのだ。故に鏡に向かって憤慨する。

(全く、男女の差を生かそうとは考えぬのか。女は家を守るなどと言う考えを捨てぬ限りは何れ衰退するだろうに)

盛者必衰の理。即ち変わらないモノは何時か薄れて壊れていく。改良を加えようが無くなった時点でそれは壊れ消えていく。

(文化を大事にしたところで、完璧なシステムなど有り得はしない。臨機応変が一番だと言うのにのぉ)

こういう、頭が固い所が愚かだと思われる原因なのだろうかと思う。

『でも!お兄ちゃんと一緒に居たい!』

明子と呼ばれた少女は必死に神童の裾を掴んで一緒に居ようとごねる。兎に角、泣いてごねる。

(なんじゃ、学びに来たのではないのか)

 

 

人の一生、その間には色々有るのだろう。特にこの時代に良くあったのはお見合い結婚と呼ばれるもの。しかし、御狐様が神童と言った彼は次男坊。故に結婚するのであれば婿として家を出る事に等しかった。

この年に成ると神童にはあてはめられなくなる物で、御狐様の労力が増えた事は蛇足として付け加えておく。(神童と名するのが見守る(ストーカーする)制約だった)

(本人達の婚姻なのだよな?何故本人たち以外が盛り上がっておる)

この時代、恋愛結婚何て有り得ないに等しかった。もしくは、お偉いさんの娘か息子が一方的に婚姻を結ぶことはままあった。けど、それよりも不可解なのは、御狐様に理解しえない事とは、

(一々他の社に行く事など信じられん)

自分の社以外にもお参りする事だ。まぁ、御狐様にとっては面白くないのだろうが。

 

 

人の一生は何が有るか解らない。この時代、子供を産むという事は女性にとって命がけ。

御狐様にとっては命を懸けて命をつなぐ事に意味を見出す事は出来なかった。

英二は妻とした人を、無くしたのだ。子は残ったため、世に言うシングルファザーとなった。鬱状態になりつつも何とか娘を育てる神童に、御狐様は何となくお情けをかけた。

「きちゅね~、かあい!」

子狐として娘の遊び相手に成ってあげることが有ったのだ。その時でさえ、社参りを怠らなかった英二のため。死なせてしまったらどうなるか解らなかったと言うのも有る。勿論僧に成るかもしれないと思ったけれど、御狐様はその可能性を無視して一生を観察する事に決めたのだ。

 

 

飢饉が起きた。子供が有る程度育ってきた時の事だ。その時は生贄の文化が有った、けれど今度は直球に口減らしとして殺される文化しかない。

(罰当たりな、命を壊すと言う意味を理解しているのだろうか?)

御狐様だって幼子の(死後の念)は有る程度純粋で取り込むのに苦労が無い。正直言って、死後の念は取り込む際にその人の未練まで受け継ぐせいで取り込むのに苦労する。その未練を消化するのにも時間が掛かるし、怨みを晴らす事だって労力が必要なのだから。

そんな事が必要のない時間が解決する幼子の(死後の念)が良いとしても、命を繋ぐリレーに無暗に手を加えるのは良しとしない。

「済まないな、お主に罪はないんだ」

そう言って里の長老に森の中で放置される娘。その言葉の意味を娘自身は理解出来なかった。良く解らないまま森の中で待つように言い渡される。

(仕方ない)

御狐様は、神として崇められている絵と同じ装束を着て娘の前に現れる。

一日に一食と生きて行ける程度の水。それだけで少女は生き延びて、何時しか飢饉が終わった里へと帰って行った。

 

 

彼は、仕事も出来なくなった年に僧侶となった。神官に成るには少し年を取り過ぎたからだ。分霊のある寺へと出家し、自らの家を跡取りに継がせた。

(多分、こんなケースは珍しくとも幾度となく繰り返されてきたのだろう)

既に老い先短い老人の事など、気に掛けるまでも無かった。

(彼は、この世に未練(死後の念)を残さない)

それすなわち、御狐様にとって見張る事でさえ無駄な労力に成るという事。それでも鏡の術を解かないのは、

(単に気に入ったのか、気まぐれな慈悲か)

 

 

それだけの理由で、御狐様は不浄と言われるを見た。その光景は、穢れなんてもので括れなかった。

(まるで、花が散る様のようだな)

 





次回、御狐様が妖怪扱いされて、怒って放浪の旅に出ます。一週間以内に出したいけど、そろそろ学校始まるしなぁ。今の内に書き溜めときます。
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