念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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神託其の五 御狐様の初死闘

(このあたりか、鬼神とやらが居る場所は)

 

御狐様が来た場所は、鬼神様が居る社の裏手。にぎわっている社は山の上にあり、その裏側には分霊と思わしき石像が有った。恐らくこれが核となって形成しているのだろう。御狐様も元は石像を元に具現化されたのだから、その辺は良く解っていた。

 

「狐が何の用だ」

 

石造を見上げていると、背後から殺気に満ちた声がした。振り返れば石造と同じ、武人の恰好をした鬼がそこに武器を構えていた。若い印象を植え付ける人で言う二十代くらいの容姿で、額には鬼の角がしっかりと生えていた。

 

「鬼神殿の社に参っていただけじゃ」

 

恐らくこの神は戦いの神なのだろう。それも割と近年に作られたのが格好と石像が出来た年号から解る。血の気の多いのはそれだけ畏怖の対象にされやすいのだろうが、少しは節度を知って欲しいと思う御狐様である。

 

「何を言うか妖め!拙者が成敗いたす!」

 

「ふざけるな!我もお主も同類じゃ、鬼と同一視されるお主なら解るじゃろう?」

 

懸命に訴えるも鬼神様は聞く耳を持っておらず、薙刀で切りかかる。御狐様はそれを避けて、人型の時のみ腰にさしている小刀を抜く。

 

「敵意を持っておらぬ相手に切りかかるとは、鬼神殿は大層良い神位にいると思われる」

 

「ふざけるで無い!本気でかかってまいれ!」

 

この時点で御狐様は察しました。

 

(こやつ、馬鹿だ)

 

幾ら近年生まれたからと言って、敵意全開でかかって来る者に対してそれを受け入れるだけの優しさは御狐様には無い。幼いが故に敵の力量も計れないのだろうと思って、御狐様は小刀を放った。

あからさまに戸惑う鬼神に、本性に変化して襲い掛かる。成人男性の三倍ほどある大きさの狐に対して、彼は硬直する事しか出来なかった。かろうじて構えていた薙刀など前足の爪で薙ぎ払い、そのまま鬼神を押し倒して抑え込む。

この時、僅か五秒も無い。

 

「ええい!離せ!」

 

身をよじって何とかしようとするも、存在する年数や信仰度によって力量が変化する神様と言う部類に居る限り、御狐様に適うのは随分先の話になってしまう。

 

「こちらが言いたい。話せ、そしてよく見てみろ。我が妖だと思うか?」

 

「うるさい!離さぬのなら!」

 

オーラ放出、と後に呼ばれる技術を用いて、御狐様から身を逃れる鬼神。御狐様が怯んだ隙に薙刀を広い、再び構える事から、流石戦いの神とされるだけは有るのだと思った。

 

「猪口才な青二才が何をほざくか」

 

完全に頭に血が上った御狐様は、再び人型となって素早く移動し、そして鬼神のみぞおちに蹴りを入れようとする。

 

「ええい!拙者は神なるぞ!崇めよ!」

 

鬼神も完全に頭に血が上っているらしく、それを薙刀の柄の部分で振り払い、追撃として薙ぎ払う。それは当たるはずの無い一撃だったが、御狐様の礼装が少し切れてしまった。

 

「生まれて間もない奴が我に適うと?」

 

暫くの間、激闘の攻防戦が続いて行く。しかし、信仰などからくるオーラ量には御狐様に一日の長が有った。だから、鬼神は直ぐに自分のオーラを使い果たしても御狐様はまだ余裕が有ったのだ。

 

「何かいう事は有るか?」

 

力が完全に抜けてしまい、その場にうつ伏せで倒れ込んでいる鬼神に、御狐様は言う。血こそ流れていないが、双方礼装がボロボロであった。視線を何とか御狐様に向ける鬼神が見たものは、一陣の風と砂埃と共に礼装や汚れが消え一瞬で元通りの姿に成った御狐様である。

そこでようやく気が付いた。

 

「まさか、御狐様か?」

 

自分と同じ、大きな社を持ち人々の信仰で成り立っている存在だという事に。

 

「今更か、全く。自分の力量と相手の力量位考えよ」

 

神だという事に奢りを持って天狗に成っていたのだろう。その鼻を折られて驚き半分後悔半分な鬼神は、そんな力も無いだろうにいきなり起き上がって土下座をした。

 

「申し訳ない!こちらから参った事が無かったが故に顔を知らずに」

 

真っ青になって謝罪の言葉を入れている。こんなに頭を地面に近づけては角が刺さるんじゃないかとも思うが。

 

「どうでも良い。まさか鬼神様がこんなにも馬………短絡的だと思わなんだ」

 

意訳すると、どうでも良くないのが良く解るが鬼神の着眼点は御狐様の斜め上を行くのだった。

 

「この度の行いは言いなおさなくても構わぬ。存分に言って欲しい。それが拙者の反省につながる」

 

マジトーンでそんな事をほざくのだから、御狐様はあっけにとられてしまう。この間も土下座からは治っていない。

 

「はぁ、もう良い。良いから頭を上げよ」

 

単純思考の馬鹿とは言え、この地の神と言われる存在である鬼神に話を聞きに来たという事。御狐様は馬鹿の生で痛む頭を押さえながらため息をつく。

 

しかし、鬼神は力んでいるばかりで一向に頭を上げる様子が無い。

 

「あの、」

 

「どうした?」

 

この時点でとんでもなく嫌な予感がする御狐様。この期待を裏切って欲しいと願いながら聞いてみる。絶対にそうなのだと解っている。解っているのだ。この馬鹿がやりそうな事など本当に短い付き合いでは良く解る。

 

「角が、刺さって、ふん!……抜けない」

 

「もういい解った。馬鹿だろお主」

 

呆れるを通り越してどうでも良くなった御狐様は、鬼神の頭を蹴り上げた。その衝撃で抜けるが、同時に鬼神は気を失ってしまった。

 

(面倒だ、こいつの相手するの)

 

 

 

 

「いやー面目ない。重ね重ね申し訳ない」

 

「もういい、解ったから頭を上げよ」

 

猪突猛進、そんな言葉が良く似合う青年。もしも彼に角が無ければただの人としても生きられただろう。まぁ彼も人型に成ろうと思うえばなれるのだろうが。

 

「本題に入るが、お主の核はあの石像なのだろう?」

 

「ええ、まぁ正確にはあの中の水晶だ」

 

「水晶?」

 

水晶と言うと、この時代ではとんでもない貴重品であり重要文化財でも有った。それが石像の中に埋め込まれているとなると次第によっては大事件に発展する可能性すらあった。

 

「随分前に鬼を召還したとかで、いつの間にか拙者も存在していたのだから詳細は知らぬ」

 

「十分じゃ。ここで得られる情報はこれくらいだろうし、我は次に行くだけ」

 

「ああ待たれよ!その前に里を見てはくれぬか?」

 

「里?」

 

御狐様は怪訝に思う。このあたりには町は有れど里と言えるほどの小規模なところはない。しかしこの鬼神の口ぶりと性格からして嘘では無い事は明確なのだろう。

 

「此方じゃ。鬼を呼び出したのも、元をただせばあの里の祖先の方々だ」

 

案内するように森の奥へと進んで行く鬼神。特に付き合わない理由も無いので付いていくと、そこに有ったのは結界の様な物。眼くらまし程度だが、この里に来ようと思わなければ来れない様に仕組まれているのだろう。

 

(相当の術者が張ったのだろうな。それか、複数人による長きにわたっての物か)

 

見せられた里には子供たちは活気があふれているのに、どこか寂しそうな形相を見せる大人たちがいた。

 

「忍者の里、か?」

 

「ああ、拙者が一番に加護を与えねばならぬ里だ」

 

得意げに里を見下ろしている鬼神様。その横顔は慈愛に満ち溢れたものだった。

 

「忍者なれば、お主の様な戦の神に頼る事などないだろうに」

 

少なくとも念能力者なのだから姿を確認させる事くらい簡単だろう。だったら尚の事加護なんていらないはず。

 

「この地が何より好きだからな」

 

そう言って、鬼神は年相応に無邪気に笑った。彼は彼として存在する限り、何時までもこの里を守り続けるのだろう。もしくは一つのモノに執着した結果が何時しか忘れ去られた時も自我なき守り神として存在できるのかも知れなかった。

そして、きっと鬼を召還したと言うのはこの里出身の物なのだろう。いわば生みの親と言うモノ。

 

「それは、人ならば血の絆と言われるものなのかもな」

 

「そうなのだろうか?拙者には解らん」

 

鬼を召還しただけの力を持っているのならば、このように新しく出来る社に寄贈されてもおかしくはない。持ってる人から見れば不気味なもので不幸を呼び寄せるかもしれないのだから。

もう話す事は無いだろうと思った御狐様はあっけらかんとした鬼神に、今度こそ別れを告げる。

 

「いきなり済まなんだの。用が有ればまた来よう」

 

「次はどちらへ参られますか?」

 

見送りと言わんばかりに木の上に立っている鬼神と、本性姿で空を飛んでいる御狐様。ニヤリと笑って、御狐様は言った。

 

「次は滝の龍にでも会いに行くかの」

 

 







次回、神託其の六 御狐様と竜の滝


神様は神様なりの価値観を持っていて、それは到底人の価値観では測れず、且つ変わる事なんてない。自分の性格は全て誰かが想像して望んだモノ。生きている者に執着を見せようとも狂う事さえ許されはしない。そんな世界で生きるのもかなり固っ苦しいでしょうね。


さて、次回で複線張りは終了です。本筋の物語に戻ります。シリアス回の予定、有る程度ギャグっぽいのは神託章が終わったら出てくる予定。
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