念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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神託其の六 御狐様と竜の滝

「歓迎いたすよ、御狐殿」

 

「それは有りがたい。それに加え、この度はいきなりの訪問、申し訳ない」

 

社についたと同時に、龍神に迎え入れられた御狐様。現在は神域である茶の間でお茶をいただいている。龍神様の社は山を登った崖の近くで、修行僧しか入れない場所にある。だからこそ、掃除する時か儀式の時しか入られない場所なんて山とある。

龍神様の容姿は、まさに龍のような老人でありながら隙の無い武人の様で、齢は御狐様と同じかそれ以上だろう。礼装は柔道着の様な質素な物と言うのが、それを更に引き立てていた。

 

「いえ、御狐殿には常々お会いしたいと思っていた。訪問していただき本当に有りがたい」

 

「そんなにかしこまられてもな」

 

何だか気恥ずかしくなって、御狐様は神域の部屋を見回す。滝の、水の落ちていく音が聞こえるこの地は、確かに修行をするにはもってこいの場所だろう。

 

「そう言えば、御狐殿は石像が核なのだろう?」

 

「ええ。そう言う龍神様は?」

 

話しのネタを言ってくれた龍神は、お茶を手にあったまりながら聞いた。御狐様は肯定しながら龍神様の事を聞いた。そう言うと、龍神様はお茶を置いて立ち上がり、付いてくるように手招きした。

トン、と軽く飛ぶと、そのまま空中に浮遊する龍神は、にっこりと笑って付いて来てくれと言う様に再び手招きする。

不思議に思いながらも飛び立って付いていくと、滝の裏側に回れる空間が、社の下の崖に有った。飛ばないと来る事なんて絶対に不可能な位の角度にある空間。そこに降り立つと、滝の裏側を見上げるように得意げに滝の裏を指さした。

見上げると、そこには滝の裏の岩全体に掘られた大きな龍の彫刻。目を見張るような細かい彫刻。見事なまでのくだり龍。

 

「凄い」

 

思わず出た言葉、ここまでの物を人間が作り上げるなど、考えられなかった。御狐様がここまで驚くのは初めての事だろう。

 

「私はね、水の力でいつかは消えてしまうんだ。滝は常に岩を削っている。後数百年もすればこの彫刻は水に浸蝕されて消えるんだ」

 

悲しそうな声で、哀しそうな表情で自分の核となっている彫刻を見上げる龍神様。感慨深いものがあるのだろう。もう既に消えると言う運命に抗う気も無く、受け入れている龍神様に御狐様は一種の畏怖を覚えた。

 

「り、龍神様が、居たと言う事実と、その信仰が消えない限り、……消える事は、、無いと、思う」

 

言葉が震えてしまう。消えると言う事は、人で言う死ぬと同意義な事。自分が生きているかも定かでは無く、生まれた実感さえも無い御狐様だからこそ、消えるという事に対してとんでもない恐怖を感じるのだ。

 

「良いのだよ、仮にそうなったとしてもその時には私の神位は消えるだろう。龍の概念そのものに成るのだろうしな」

 

死と言うモノへの恐怖。人すべてが抱えていると思ったら、御狐様は人に対して尊敬の念を抱いた。それによって自分が支えられているのだと思ったら、自分がどんな存在なのかと思考の迷宮に陥ったように感じる。

明確には、御狐様が恐れるのは死では無い。忘れ去られて消える事。それはまさしく消滅であって、死などと言う転生と言う救いも、地獄で科される咎による罪の清算も出来ない事。

 

「我々の核が壊れた時にどうなるかなど、まだ前例のない事だから、かの」

 

「生無き(亡き)我ら。いつか消える事などあるのだろうか?」

 

水の落ちる音が心地よく耳に届き、水が落ちる際に生じる飛沫もそよ風もが心地よい。この滝の主である龍神の心境を再現しているものなのだろうか?御狐様には追及するなんて言う野暮な事は出来なかった。

 

「人の心から消え去れば、我らが居たと言う歴史さえも無くなるだろうな」

 

「我は消えぬ」

 

御狐様は絶対的な声で言った。そこにはある種の革新的な要素が有った。

 

「何か?」

 

怪訝に思った龍神様は聞いた。初老の優しい御爺さんの雰囲気は崩さない。

 

「我は、自我を失おうとも消えることは無い。幾人もの贄を取り込んだ。そのモノらの未練が消えない限り消える事さえ出来ぬ」

 

何時か死ぬ=生きている。その方程式は絶対的な物で覆ることは無い。未練が消えない限りは消えられない怨霊。その事を踏まえて考察すると、自我を失い抑止力の無くなった怨霊が暴れ回るかもしれない。

 

「何者にも侵されない場所も地位も有りはせぬ。存在する限りは絶対に」

 

行くときかが過ぎた時、修行僧の経を読む声が聞こえて来る。それは力強く抑揚のある声だった。龍の滝は彼らの師の師の……が作った物なのだろうか。その心意気は膨大な時間をリレーの様につながれていったのだろう。

 

「龍神様、我は、」

 

消える事さえできなくて、その時に自分に自我も理性も無くなる。それがどれほど恐ろしい事か。要するに人が思う祟りを、怨みの心が片っ端から試していくのだ。下手すれば彼の近くの場所に居る人間を全滅させてしまう可能性すらある。

 

「愛すべき人間を屠りたくはない」

 

「それは私もそうじゃ」

 

龍神様のそのお言葉を聞いたや否や、いたたまれなくなった御狐様は本性に変化して福神様の社へと向かうのだった。

 

その姿を見て、龍神様は朗らかな笑みを浮かべていたと言う。




敬老の日という事で、お爺さんみたいな龍神様を登場させてみました。

我が家には関係のない祝日ですが。祝うと祖母に物凄く怒られるので。


取りあえず目処は立っているので、今年中には原作に入れます。まぁそれまで大体十話位の話数稼ぎはさせていただきますが。今の所は短編集の様な形に成っていますが、それも話をはしょるためだったりするので、申し訳ないですが今しばらくお待ちください。
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