念獣?神様?それとも稲荷?な御狐様奇譚   作:弥生月 霊華

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最終神託 御狐様と人の選択

騒がしい。そう呟いたのか思ったのか、御狐様は身を起して辺りを見回す。己の姿(人型)が女性のモノを取るようになってからもう数十年は過ぎたであろう年の事。胸騒ぎは収まらず、ただ自分への危機感を募らせるばかり。

 

(出来る事など、何もない)

 

社の神域とされる場所にて、御狐様は本性(狐姿)でしばらくの間眠っていた。其れなのに、起きたら何故だか騒がしい。ここの所の信仰心の薄れは感じていたが為に余計である。だからこそお眠りに成っていらっしゃったのだろうけど。

姿を隠して人の居る部屋に行く。そこで話されていた内容は、彼にとって思いもしない内容だった。

 

《御狐様の石像を壊すか否か》

 

そんな議題だった。御狐様にとって寝耳に熱湯をかけられた様な言葉だった。己の核を壊されることは、即ち自我が消える事を意味するのだから。力を節約していれば十分に暮らしていける今でさえ、理性と言う名の抑止力が無ければ

 

(幾人もの(死者の念)を喰らった我ならば、消える事さえ叶わぬ。されども人が望んだことを叶えるは我が勤め。人が選んだものなれば是非も無い)

 

全ては、人の思うがままに。人が生贄を差し出す事を望んで、生贄を受け取る御狐様を望んだのだ。だからそう言う形になって行ったのだ。

 

 

 

「しかし!御狐様を壊す訳には参りませぬ!」

 

「だが!それで国を傾ける訳にも行かぬだろう!」

 

激しい言い合いが続いている。御狐様の石像は二千年単位昔に作られたものだ。そんな物持っておれば争いの種に成りかねないということなのだろうか?

 

「もし外の国にそこを付け込まれたら、長老殿はどうするおつもりか?血を流すのは愛すべき国民だぞ!」

 

破壊するのに賛成と言う意見の代表らしき若い将軍が、破壊するのに否定的な長老方を圧倒する。保身的な立場の人間は、壊すのにこそ反対でその上で何か方法が無いかと言っている。

 

(全ては人が願った通りに)

 

勿論、多数の意見ばかりを聞いている訳でも特定の人間の願いだけを叶えている訳でも無い。人の願いをただずっと見つめ向き合い続けて来た御狐様だからこそ解る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論は早かった。だから、御狐様はそれをずっと見守っていた。

 

「罰当たりな」

「天罰が下るぞ」

 

野次馬たちはそう言いつつも反抗なんかしやしない。口ばっかり、加害者になるのも被害者に成るのも怖いから傍観する愚か者。

 

「止めろよ!それでも神主か!」

 

絞り出すような声で叫びながら民衆の間を潜り抜けて執行人を止めようとする人間がいた。衛兵に止められながらも、同席している神主を指さして泣き叫んでいた。

 

(アレは、かつての神童の子孫か)

 

その様に購われても、それに意味は全くなかった。きっと彼女にとって意義が有るモノだったのだろう。御狐様はそんな人間のまっすぐな思いが絡まって出来た物だったから、それを良く理解していたのだ。

 

取り壊される最後の瞬間。ハンマーが石像に当たる瞬間に、御狐様は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御狐様!」

 

その声にハッとする。我に返って周りを見渡せば地面は血と肉片で覆われていて、本人は本性で当代の神主を前足で踏みつけていた。殺すつもりだったのか、踏み抜くような勢いを付けていたのが爪が神主の腹に刺さっていたりすることからも頷けた。

口にも血が付いている感覚が有って、其れだと言うのに気持ち悪くはなかった。

 

(祟り神だったせいか?それとも、我が狐妖怪そのものの概念に成ったとでも?)

 

自分で自分が解らない。鵺のようなモノだろうかとも結論付けたが、この光景を見てどうした物かと思い悩む。この様なさまを見られれば、他の、否、神様達から何を言われた物か解った物じゃない。

 

そして、気が付いた、神主の声で我に返った訳じゃないと。

 

「御狐様?」

 

絶望した表情で、社の御賽銭箱に叩きつけられてなお生きていたあの止めた少女がただその名前を呼んでいた。

 

(我は、堕ちたのか?それとも)

 

きっと、人が捨てたのか。御狐様は自分を切り捨ててまで国の保身に走った人間に加護をもたらす事など到底できなかった。信仰が足りなければ祟る神様。それを体現したモノだから。

 

(大陸に、わたるか)

 

人魚に見られない様なルートを通って、御狐様は逃げた。自分の性を作っておきながら否定した人間たちの居るその地から。自分の事など知らない、知りもしない場所まで逃げたのだ。

 

大陸には、御狐様が人型に化けてマントを被れば紛れ込める位に人が多かった。ただ、それだけを彼、、彼女は思う。心の中には、清廉な事はほとんどなく、欲望か何かに対する恐怖しかない。

 

信仰しなければ救ってくれない神様、自分の力で叶えられることには誰にでも顔を見せる悪霊たち。全ては人が望んだ事、己を捨てた人に怨みなんてない。ただ、祟る事を恐れるなら、そのように変化していくだけ。

 

「今しばらくは、存在していてやるか」

 

別に、石像が壊されたとてどうにかなる訳でも無かったのだ。元から、自由なんて無い(有ってはいけない)存在だ。自由は、存在の消失につながるから。だったら、せめて、必要とされなくても、人間に恐怖の本能が残る限りは存在してやろうと思う。厄介者(人へのムチ)に成る事を、彼女は自ら選んだのだ。





次回予告、とある国の、裏通りにはホームレスがたむろし、表通りには繁華街が存在する政府も手を出しかねているほどに治安が悪い町での事。御狐様はサキュバスに魅入られている男を見つけた。最初は手を出す気も無かった彼女も、憑りつかれている相手が裏社会に君臨するマフィアのボスと知って、、、?

次回、探索其の一、御狐様と裏社会

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