探索其の一、御狐様と裏社会
御狐様視点
大陸に渡って、幾日かが過ぎていく。正直、ここまで人の心が入り乱れているのも興味深いと思った。発明品も、興味深い物ばかりだ。そして、何より、
貧富の差が激しすぎやしないだろうか。我が社を治めていた時なれば、付近の里は食べる物には困らない位にはアメを与えてやった物を。
しかし、人はそれを神に縋りはしないのだから驚きだな。自分よりも高い位の者を恨むことで心の均衡を保っている。どうやらこの地で主なキリスト教とやらは人間らしいな、合って見たい物だ。
……、元神童、か?其れよりも禍々しいな。強いて言うなれば魅入られたか憑りつかれたの方が正しいやも知れぬ。向かいから来る男からか。
仰々しい、雑念よりも欲望が強い。それに、あれは?
「ふざけるな!あの方との縁が切れたらどうするんだ!」
「申し訳ありません!」
仰々しいと御狐様が評した男と、その男に礼を尽くして怒鳴られている気持ちヒョロッとした優男。それ自体、この町では大したことではない事は、ホームレス達の「またか」と言う視線が語っていた。しかし、何より異様なのは、、、
同類か、新参者が口を出す事では無い。
御狐様は深くマントを被り治して、歩を進める。どうやら男たちには見えていない、派手なドレスを着、女性さえもが目を見張るほどの艶冶な美女。だけど彼女には悪魔の尻尾も有れば、サキュバスらしい耳と羽がある。怒鳴り釣らしている男と腕を組んでいる様に、御狐様には見えた。
彼女はちらりと御狐様と視線を交えて、無邪気に、悪意を込めずに笑って会釈した。
あの男、アレに気に入られるとは不運じゃの。否、一人称では最高の幸かも知れぬ。どちらにしろ、我には関係のない事だ。
そうして、その日は過ぎていく。日が暮れるのをこの町で一番高い所から見通す御狐様。一般の旅人に成りきって過ごして人間の目線で物事の会話を聞く。これだけの事でも御狐様には良い勉強になった。
さて、キリストとやらに会いに行くか。
元よりかなり知名度も有り、少なくとも人魚や鬼神と同じく位に歴史があるのだ。例え元が人間と言われようと信仰が今でも続いていると言う可能性から考えても、必ずや神格化されているはず。
そんな事を薄っすらと考えていると、蝙蝠の羽音を大きくした、そんな音が聞こえて来る。
「はぁ~い❤異国の狐さん、何かこの町に御用でも♪」
「無い、故に飛び去れ」
「何それひっどーい!」
建物の屋根の上、普通の人間ならば絶対に一足で登る事が出来ない場所。そこに、異形二人が立ち並ぶ。サキュバスと元社の狐。サキュバスは無邪気な笑顔を見せながらも、裏に何かを隠してそうな不思議な雰囲気を持っている。
出来れば余り関わりとう無い。
何処かに飛び立とうとする御狐様に、独り言のように彼女は呟いた。御狐様の耳に届く様にしている事は明白だ。
「あれね、マフィアのボスなんだ~❤
同時に聞こえた。だから、思わず振り向いた。そこに居たサキュバスは、それに相応しい黒い表情をしていた。
何が言いたい。正直に言えれば苦労はない。少なくとも、言葉に重なって聞こえたモノ、それを隠そうとしているから、何か違和感を覚えるのだろうか。……面倒な事に巻き込まれた。
「望みは?」
裏社会に属する事は、即ち乱心を起こさせることも彼女なら可能なのだろう。それが意味するのは大量の血が流れる事。
「聞いた意味無いじゃん、別にいいけどさぁ~。私は~私が面白ければいいんです~」
その言葉の裏に何か思う事が有ったのか、御狐様はその場に座りこんだ。サキュバスに魅入られた者、この世界では堕落したモノを意味するのだ。そして、目の前で何かを呟き続ける彼女の目を、じいっと見つめる御狐様。その表情も、何時しか人間たちがしていた
「何にせよ、我には関係ない。あまり人を殺めれば、困るのはお主だろう?サキュバス」
言い捨てるように冷酷に言い放つ。それでもサキュバスは何かを感じたかのようににっこりと、今度は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「楽しみにしてる」
そう言い残し、サキュバスは月夜を飛び去った。
そう言えばもうこんなに夜も更けたのかと、一人?月を見上げる御狐様。月夜は神や妖、魔などの人ならざる者に影響を及ぼすとされ、実際その考えのおかげで有る程度力が増す。
人間を矯正など、したことないぞ。安請負はするものでは無いな。
こんな夜には国の酒が恋しくなる。そう思いつつも、夜はふけていくのだった。
トン、トン、トン、ス……
効果音を付けるならこんなものか、御狐様は日の変わった時間に、行動を開始した。
我には化かす事しか出来ぬが
己の力を応用するだけの技術力を、御狐様は持っている。だから、暗闇しかない道を駆け抜ける。知っているから、願いも思いもその意味も。月の光が入る部屋に、その男は寝ていた。御狐様は狐火を右手に出現させ、窓越しにそれを男に向かって投げた。
彼の夢を、化かすのだ。狐火は男の胸の中に潜る様に入って行く。こうなっては、念能力者による除念でも無い限り男の夢は御狐様の気分しだいなのだ。
夢を設定して、それを繰り返すだけと狐火に命令を伝えた所で、御狐様は己の影が誰かの影で覆われ居る事に気が付いた。
「何したの?」
サキュバスが不安そうに、そして何かあったなら許さないと言う様なオーラを纏って御狐様に月の光の影を落とす。その目に光は無く、一歩でも間違えれば町が吹き飛ぶレベルでの乱闘にでもなりそうな勢いだった。
「夢を見せたのじゃ。アレの一日でお主が見えていたら、どのように見えていたのか」
例えば、すれ違った場所だとすれば、その時の光景はサキュバスが腕を組んでいる映像が浮かび上がってくると言うのだ。それでもなお、男は誰かに怒鳴り散らす事があるのだろうか。それは、夢を見ている男にしか解らない。
御狐様の報告を聞いて、嬉しさの中に寂しそうな儚い表情を浮かべ窓から男を見下ろすサキュバス。その時には既に御狐様の事は彼女の視線の中には無かった。
「音もそのまま反映させておる故、何を伝えるもお主の自由じゃ」
御狐様に出来る事はもう無かった。一方的な思いを伝えるのは、本人に任せてしまいたかったから。
「触れ合うことは出来ないの?」
寂しいのだろう。哀愁漂う背中を見て、保護欲が出ない生物がいないだろうと思うほどには。
「あ奴が使えるようになればあるいは、と言った所じゃ。伝えるのは自分でやれ」
そう言って、御狐様は飛び立った。ココからはサキュバス自身が向き合わないといけないから。
大方、あの者も核が壊されたのだろう。だから、サキュバスと言う名と人のイメージで作られている。それが意味する事は____
イメージ次第で如何様にも性格が変わり、幾多ものイメージの中から感覚でこれが良いと言うモノを選び取って自分の性格にしていく。そして恐らく、あのサキュバスは、悪魔と同類にされているのだろう。同類、と言うより同一視、御狐様が稲荷であり妖狐で有るのと似た様な物だ。
人を愛し、故に愚直だろうと願いを叶えその魂を己の物にする。このイメージを、あの一人の男を愛したサキュバスは選び取ったのだろう。
次回予告 キリスト郷を探す御狐様。当ても無く彷徨う中で、ゴミの寄せ集めの様な国で暮らす人々がその目に留まる。丁度いい機会だと神位を振るおうとするが、、、?
次回 探索其の二、御狐様とゴミの中の星が流れる街
新連載、モンスト×色々の短編集始めました