昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。
いつものようにガランとした教室に、いつものように巨体が一人と一般人が一人いた。
ただいつもと違うことといえば・・・・・・
二人の腕には何の腕章も
「随分勝手なマネをするじゃんかよぉ、
だいぶイラついているのか、影照の口調がいつもと少し違う。
目の色も深く黒いものに変わっている。
「・・・・・・お前には、すまなかったと思ってるよ」
腕を組み、影照を見つめる空洞。その態度はどこか堂々としたものがあった。
その態度を見て、影照の目がいつもの色にスッと変わる。
「・・・お前がそこまで押す
「あぁ、あいつなら全ての人類を救えるんじゃないかと、本気でそう思ったよ」
影照はため息をついて頭を掻く。
彼のそのしかめ面は、どうも納得できないといったものだった。
「ったく、ハマにはなんて言おうか」
「さっきから気にはなっていたが、誰だその“ハマ”ってやつは」
「空洞が余計なことしなければ、今ごろ副生徒会長になってる俺の友達だ」
影照は携帯を出して、電話をかける。
「今から来るって」
未だにガラケーのままの影照は携帯をパタンとたたむ。
「その“ハマ”がか?」
「フルネームで言うと百町破魔矢っていうんだ。まさに異常中の異常、今のうちに常識を捨てておくことをオススメするぜ」
「?」
影照の言ってる意味がよくわからないのだろう、空洞は首をかしげる。
しばらくするとー
ーーバルゥンバルゥンッ!!!ババババババ!!!!
廊下から何か、爆音とよぶにふさわしいエンジン音が響いてくる。
その轟音がどんどん大きく響いてきて、近づいて来てるのが分かる。
周りの窓ガラスはビリビリと震え、影照は爆笑していた。
やがてその轟音は教室の前で止まった。
教室のドアが横にスライドして開かれる。
「テルくんから急いで来てくれと頼まれたもので、私“恋人”のCB750FOUに乗ってきました」
丁寧にお辞儀をして百町が教室へと入ってきた。
「いやぁ、最高の登場じゃないか」
未だに笑いの収まらない影照はヒーヒー言いながら百町を迎える。
そこで一人ぽかんとしている空洞。
「ハー、面白い。さて空洞、こいつが二年十三組所属の
「あなたが日之影空洞さんですね。テルくんからお話は聞いております。仲良くしてね」
百町は空洞に手を差し出す。場の空気に飲まれっぱなしの空洞はあわててその手を握り、握手を交わす。
「さて、空洞。自己紹介も済んだしここからが本題だ」
影照は席を立ち黒板の前へと歩き出す。
そして百町は影照の座っていた席に座る。
「空洞、俺は先に言っておくが、お前を“
影照は教壇を両手で叩き、威圧するかのようにそう話す。
「いいんだよ、英雄になんかならなくて。俺はそうなりたいと思ったことはないし、ましてお前に頼んだこともねぇ」
「・・・・例え、その黒神めだかとやらがどんなにすごいやつであろうと、俺はお前こそが“
真っ直ぐ、ただ一点を、空洞を見つめてそう語る影照。
空洞はため息をつき、自分の髪をクシャッと掴む。
「お前は俺を買いかぶり過ぎなんだよ」
「ふん、言ってろ」
影照はフンと鼻で笑う。
「そこでだ、俺はこれからも役員集めをしていこうと思う。その黒神に対抗できうる勢力をつくるんだ」
影照のそんな言葉に、百町はただ笑顔で頷き、空洞は不安な表情をうかべる。
「ただでさえ今まで役員集めなんてダメダメだったのに。もし集まっても国会じゃあるまいし、生徒会を引きずりおろす事はできないだろ?」
「あぁ、だから時間を作るために俺は風紀委員長を辞めてきた。今ごろ冥利が委員長で、呼子先輩あたりが副委員長になってるだろうな」
確かに、風紀委員の制服を着ているものの、その腕には腕章はついていなかった。
「そして、空洞。俺らは力が十分に集められたら、生徒会に“リコール”をたたきつける」
リコール、生徒会側が十分な仕事をこなしていないときや、規則に従ってない活動などを行っている場合
生徒の署名とともに、その生徒会に辞職を促すことの出来る制度。
「そんなのは学校をただ乱すだけだ。リコールなんてして良いわけないだろ。ましてや黒神ならおそらく支持率は軽く過半数を超える、署名も集まりはしない!」
空洞は机を平手で叩く。空気が震えるが、影照は動じない。
「空洞、それじゃダメだ」
「は?」
「署名が集められない?違う、お前が集めようとしてないだけだ。お前ならできることなんだよ。学校が乱れる?本気でそう思ってるのか?」
「なにが言いたいんだ?」
「分かってないのはお前だけだ。もういいだろ、人知れず戦うのは、裏でみんなを支えるのは。みんなは“
教室に沈黙が流れる。時計の秒針の音だけがはっきりと聞こえる。
「なぁ空洞、そろそろ自分のために生きてみようぜ?」
「光がさせば陰ができる、俺が表立つと誰かが必ず裏に沈むことになる。陰となるのは俺、“日之影”だけで十分だよ」
影照は不敵に微笑んだ。
「俺の名前は“些細無影照”、影を照らす者だ。空洞、俺がお前の影になってやる。それなら文句無いだろ?」
「私も、微力ながらテルくんのお手伝いをさせていただきますよ」
空洞は腕を組んで、しかめ面で唸る。
「・・・・考えさせくれ」
「フン、意気地無しが」
空洞と影照は、お互いの顔を見ながら笑った。
☆
薄暗い廊下、外もすっかり暗くなりはじめ、生徒はみんな下校しているのでこの時間の学校はえらく物静かだ。
その薄暗い廊下で、影照は物陰に隠れていた。
影照は肩で大きく息を切らし、シャツは自身の汗で少し濡れていて気持ち悪い。
「隠れても無駄だぜ些細無くんよぉ~、今度こそ俺はお前を殺しきるぜ」
バレたか。
顔に包帯を巻き、その額にはナイフが刺さっている女子生徒に影照は追われていた。
夜中の学校に女子生徒とふたりっきり、なんとも萌えるシチュエーションである。
・・・・・・その女子生徒の両手に、キラリと光る注射器さえなければ。
何で俺はあいつに追われ、殺されそうになっているのかよく分からない。
・・・・考えられる理由としたら、もしかしてあれかな
影照は物陰から姿を現す。
「大人しく、殺される気になったか?」
「ねぇ、君。なんでそこまで俺を追ってくるんだ?もしかして・・・・」
「もしかして?」
「俺のことが・・・好き、とか?」
ーービシュッ
影照の頬を注射器がかすめる。
どうやら彼女は俺のことが好きじゃないらしい。だってさっき一瞬だけ、首もとに死神の大鎌が見えたもの。
「テメェさえ現れなければっ」
彼女は両手に数多もの医療器具を装備する。
命を救うための道具を、彼女は堂々と命を奪うために使おうとするから恐ろしい。
「古賀ちゃんの様子が最近おかしいのも、全部、全部テメェのせいだ!!!」
彼女はメスやハサミ、注射器やその他諸々の医療器具を鋭く投げつける。
その全てが殺意のこもったものとして、影照の命を奪いにくる。
ーーしかし、どんな攻撃も当たらなければ意味がない。
影照はそのすべてをかわしてみせた。
「んなっ!?」
「俺もこんなところで死にたくはないからね、全力で逃げさせてもらうよ」
影照の黒眼の中心が、白く染まり始める。
「“
降り注ぐ注射針や鋭利な刃物の雨。
影照はその全てをかわし、時には足を使って弾く。
ここまでやってみてわかったことだが、どうやら彼女は戦闘をするようなタイプでは無いらしい。
その証拠に、攻撃が投げつけるだけのワンパターンだ。
彼女に集中している影照は、彼女のわずかな動きにも反応できるので、圧倒的な初動の差が生まれる。
弾き、かわし、影照は徐々にその距離を縮める。そしてー
ーガガッ!
影照は彼女の両手を蹴り上げた。彼女はその勢いによって後方に倒れこむ。
「アアアアァ!」
懐からなにやらボンベを取り出し影照に向ける。
しかし、一瞬で影照はそのボンベを奪う。ラベルを見てみると“催眠ガス”とだけ書いてある。
倒れ込んだ彼女を見おろす影照。
「気がすんだかな?そろそろ俺も帰らないと行けないんだ。妹と弟が腹を空かせて待っている」
「それは無理な話だぜ、何しろ些細無くん、アンタはここで死ぬんだ」
不敵に微笑む彼女、しかし影照には強がりにしか見えなかった。
そして影照がこの場を去ろうとしたとき
「ッ!?」
背中に鋭い痛みが走る、しかもその痛みは一点ではなく背中全体に走っているようだ。
影照はその背中を見てみると、何本もの注射器が突き刺さっていた。
「安心しろ、毒薬とかじゃねぇよ。ただの睡眠薬だ、まぁもっともそんだけ打ち込まれりゃゾウさんだって一瞬でおねんねだろうけどな」
影照はその場に膝をつく。
「アンタのその集中力はたいしたもんだが、いやぁ弱点丸分かりだ。俺にばかり集中しているせいで、周りに対する集中力が全然足りてないぜ。おかげで俺が予めしかけといた罠にーーっと、もう聞こえてねぇか」
膝をついたまま動かなくなった影照。彼女は立ち上がり、手にメスを携え影照に近づく。
「これで、古賀ちゃんがもとに戻ってくれる」
影照の首もとに一閃のメスが降りおろされる。
ーーガシッ
影照に向かって降り下ろした彼女の手は、影照自身がその手を掴み、止めた。
彼女の腕はギリギリと締め上げられて、メスはその手から離れ床に落ちる。
そしてそのまま影照は立ち上がり、背中に刺さっている注射器を全て抜き捨てる。
「テ、テメェ、どんなトリックだコレは」
締め上げられている手の痛みで彼女の声は少し引きつっている。
「簡単なことさ、俺は君に集中している。君に
影照はそのまま、奪った睡眠ガスのボンベを彼女に向かって噴射する。
「クッ・・・・・・・・ソ・・・・」
彼女の腕がダラリと下がり、影照が手をはなすとその場に倒れ込んで、穏やかな寝息をたて始めた。
それと同時に影照の目も普通の状態に戻る。
「ヤバい!」
影照の集中の対象が戦闘不能になったので、影照の集中力は途切れ始め、体が睡魔に気づき始める。
「忘れて、た・・・・眠・・・・く・・・・・・」
影照はその場に、彼女の隣に添うように倒れ、抗う事の出来ない力に意識の糸を断ち切られた。