昨日はついに影兄が家に帰ってこなかった。
だから晩ご飯は冥利の側近さんの、呼子?とかいう人がうちに来て作ったのだが
なんか、全部冥利好みの味付けで美味しくなかった。
きっと胸が大きくて、調理中にあまり下方向がみえないから料理の腕がまだまだなのだろう。うん、そうに違いない。
そして今日、朝起きても影兄は帰ってきてなかった。
「5112306(ねぇ、冥利おきて)」
「んー、勘弁してくれよ。まだ5時だぜぇ」
「2114(起きて)」
「ね、姉ちゃん。それは卑怯だ、ハリセンだけは止めてくれ」
「312885026(影兄はどこ)」
「ん?まだ帰ってないのか?ま、でも別にそれがどうした?大方、影兄のことだ。また変な奴に追いかけ回されたりとかしてな」
「31208744(冥利も知らないの?)」
「ん?んー、心当たりが無いわけでもないが。てか姉ちゃん、影兄ももう高二だぜ?」
「4100211248(どういう事なの?)」
「身も心も大人への第一歩を踏み出す年頃だ。影兄も高校生なんだから、別に今この時点で大人の階段を上ったとしてもなんらおかしい話じゃ無い。だから姉ちゃんも早く自分の思いをーーって、あれ?姉ちゃん、どこいった?」
☆
おかしーなー、名瀬ちゃんにいくら電話してもつながらない。
今までこんなこと無かったんだけどなぁ。
昨日、一緒に下校しようって約束してたのに、結局来なかったし。なんだか心配になってきた。
「あ、百町くん!良いところに来たよ!」
「これは、おはよございます古賀さん。今日は朝早くから珍しいですね」
「あのね、名瀬ちゃん見なかった?昨日から連絡がつかないんだ」
「統括さんが?あなたが知らないのなら私が知るわけ無いですよ。ただ・・・」
「どうしたの?」
「統括さんはなぜか随分とテルくん、影照くんを目の敵にしてらっしゃいますし、その類じゃないでしょうか?」
「さっ、些細無くん!?」
「随分と仲が悪い、というか一方的に総括さんが嫌ってるだけのように思えますね。私、実はどちらとも関わり合いのある立場ですので、お互いの仲が悪くなるのはあまり好むべき問題じゃありませんし」
「な、名瀬ちゃんが些細無くんの事嫌いなら、ちょっと危ないよ!名瀬ちゃんが些細無くんを殺そうとしてるかも!」
「それだったら安心ですね」
「ふぇ?」
「私から見たところ、この二人はなかなか似た者同士なのではないかと思います。だからこそ同族嫌悪というか、いがみ合ったりしてはいますが、一度波長が合うと仲良くなるかもしれません」
「いや、でもその前に名瀬ちゃんが些細無くんをー」
「古賀さん、全然心配に及びませんよ。確かに統括さんは戦闘タイプではないですが、強い。私なんか子供扱いだ。しかしテルくんはそれに匹敵するほど強いですから、案外総括さんの方が追いつめられたりするのではないでしょうか?」
「うーん」
「そういえばこの前読んだマンガにこういったシーンがありましたね」
「どんなマンガ?」
「恋愛バトルマンガです」
「れ、恋愛!?」
「はい、敵同士だった二人が戦闘を重ねていくうちにだんだんと惹かれ合っていく。あの二人のキャラの状況によくにていますね。学年も一緒ですし、今ごろ二人で教室なんかでって、まぁ冗談はこのくらいにーーってあれ?古賀さん?おかしいですね、さっきまでここにいたのに」
☆
まだ頭の中がぼやっとしている。ここから徐々に体が眠りから覚めていく。
少し体を揺する。背中に鋭い痛みが走った。体中が疲れているのだろう、疲労感が体を襲う。
次第に頭の中のもやが晴れていく、それにつれて記憶が少しずつ思い出される。
あぁ、昨日はよくわからん包帯女に襲われて、まぁ一応勝ったけど集中力が切れて、その場でバタンキューってわけか。
じゃあ、あのミイラ女より先に起きとかないとヤバいんじゃ・・・・
影照は急いで四肢に力を入れる
が、ビクともしない。
動こうとする度に体全体に疲労感が沸き立つだけだ。
まるで手足に
たまらず影照は目をあけて状態を把握しようとした。
目覚めたその世界には、呂布もとい冥加ちゃんがいた。
自らの手足には、いつも冥加がつけてる鉄球がついている。
「おはよう冥加」
とりあえず冥加の機嫌度合いを計るため、笑顔であいさつをする影照。
「・・・・・・(ニコッ)」
なぜだろう、呂布・・・もとい冥加ちゃんの笑顔の背後に百式観音が見えたよ。
かの最強ハンターも真っ青だぜ。
「どうしてそんなに怒ってるのかなー、なんて」
「・・・・・・(クイッ)」
顎で影照の隣を示す冥加。その方向を見てみると
「oh・・・・」
なんとも可愛らしい寝息をかいているミイラちゃんを発見。
ぴったりと俺に体をくっつけながら
まるで、恋人同士の朝チュンに見えなくもないな、うん。
「217885236452(ねぇ影兄、私その女知らないんだけど)」
「き、奇遇だな。俺も知らないぜ」
「211023285402188(影兄は知らない女と寝たりするんだ。私とは寝ないくせに)」
「おまえの寝相で俺が重傷を負う可能性があるからな」
機嫌を逆なでてしまったようだ。いつのまにか冥加の拳にはメリケンが装着してある。
「なんなんだ、何が狙いだ冥加」
「01123985641(私が望むものは、影兄だけ)」
どうやら冥加ちゃんは俺の命を欲しておられるようだ。
お兄ちゃんは冥加に何かしたのだろうか、思い出せない。
ードドドドドドッ
床からなにかが迫ってくる音が聞こえる。
「名瀬ちゃあぁぁん」
あぁ、この声は古賀さんだな。
「はっ!?」
ゴスロリ衣装の呂布が一人、影照にくっつくように眠る友人、そして奇抜に拘束された影照。
古賀さんはそのあまりにカオスな光景に目を見張っている。
「名瀬ちゃん!!」
どうやらこのミイラ女は「名瀬」と言うらしい。
古賀は名瀬の名前を叫ぶと、その名瀬を掴み上下左右に振り回し始めた。
「ななななな名瀬ちゃん!!何で些細無くんの横で寝てるの!?何をしたの?ナニをしたの!?」
おいおい、誤解を生むようなカタカナ表記はやめてくれよ。
「グエッ、なっ何だ?何が起きてっ」
名瀬が目をさます。今日という一日のスタートを最悪の形で迎えたようだ。
「名瀬ちゃん!!」
「こっ・・・・古賀ちゃん落ち着け・・・苦しいから」
「はっ」
古賀が手を放し、その場にグチャッと名瀬が倒れ込む。あれだけ振り回されたのだ、包帯で顔はよく見えないにかかわらず、顔色が悪そうなのが伺える。
あの調子では復活までに時間がかかりそうだ。
「相変わらずみたいだね古賀さん」
拘束された影照が古賀に話しかける。
「さささ些細無くん!」
古賀の顔が一瞬で顔が赤く染まる。そりゃ、あれだけ名瀬を振り回したんだ、体が火照るのも無理はない。
「びっくりしたよ、まさか古賀さんが箱庭学園にいて、
「え、えへへ。黙っててごめんね、些細無くんから気づいてもらいたかったから」
影照から目を反らしてもじもじしながら話す古賀。そりゃそうだ、二~三年ぶりだもんな。軽々しく話しかければ古賀さんが困るしな、自重しよう。
「25879644170(影兄、その人は?)」
「あぁ、中学のころ俺と同級生だった古賀いたみさんだ」
「・・・・」
訝しげに古賀を見つめる冥加。何がさっきから気に入らないのだろうか、影照は年頃の妹に頭を悩ませる。
「おいおい古賀ちゃん、そりゃねーよ」
古賀の肩を掴み、顔色が悪いままフラフラと名瀬が立ち上がる。
「俺が気分を悪くしてるときに楽しくそこの出来そこないとおしゃべりかい?」
「なっ名瀬ちゃん、そんなこと無いよ!私はー」
もう呼吸も不安定のまま喋る名瀬。そんなに気分が悪いなら、まだ寝ていた方が良かったのではないだろうか?
「なぁ、古賀ちゃん答えてくれよ。俺とこいつ、どっちが好きなのか」
「すっ、好き!?あわわわ」
また一瞬で顔を赤くする古賀。中学の頃の至って普通だった彼女も変わったんだなと、影照は時の流れを懐かしむ。
そして、そんな古賀の表情を見た名瀬は
力無く古賀の両肩を掴んで
「やっぱり古賀ちゃんはこいつのー」
「キャーーーーーッ!」
ーポカッ
ーガッシャアァン!
・・・・今起きたことをありのまま伝えてみると
名瀬の言葉に急に反応した古賀はじゃれあいのようなパンチを名瀬に当てた。
そして、そのパンチを受けた名瀬は、思い切り吹き飛ばされて
窓ガラスを体全体で突き破った。
ちなみにここは三階だ。
「名瀬ちゃあぁぁん」
思わず友人の名を叫ぶ古賀。今日一番災難だったのはどうやら俺(影照)ではなく彼女(名瀬)のようだ。
「助けないとっ」
そしてその破れた窓から、続いて古賀が突入する。
もうここまでくると、古賀さんというか人間かどうかも疑わしい。
影照は時の流れに恐怖した。
「「・・・・・・」」
残された兄妹二人。
「・・・今のでなんとなく分かっただろ?俺は昨日あの包帯女と遊んでて家に帰らなかったわけじゃないんだ」
「・・・・」
冥加は拳につけたメリケンを外す。どうやらわかってくれたようだ。
「ふぅ、それじゃあこの拘束を外してくれ」
しかし冥加は拘束を外そうとせず、影照を見つめながら何かボソボソと呟いている。顔もほんのりと赤い。
「・・・2144658052(二人きりだし、チャンス?)」
「あのー冥加さん?もしもーし」
「217780566325(わ、分かった。拘束を解けば良いんだよね)」
冥加が早足で向かってくる。なんだろう、本能が逃げろという信号を発しているぞ。
そして冥加は、影照の
「ばっ、馬鹿!何やってんだ!」
必死に体をよじらせて抵抗する影照。
「2146582(逃げないで)」
冥加はギュッと影照の服の裾を掴み、その抵抗を力で押さえつける。
本当に年頃の女の子は理解できないところが多々ある。
万事休すか