陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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2箱目 始まり

 その日は雨がよく降っていた。

 そして、その雨の中。

 あまり雨に濡れないようにと配慮されたのだろうか。

 人通りがあまりなさそうな道に生える一本の老木の下に赤ん坊の入った段ボール箱があった。

 

 その赤ん坊は、一切泣き声をあげることなく、その狭い段ボールに収まっていた。

 ご丁寧にも名札が付いており、そこには些細無影照(ささいなかげてる)と書いてある。

 

 影照は冷静だった。

 人が通ってない今、無駄に泣き叫んでも、ただただ体力を無駄にする事になるということを知っていた。

 

 まだ、生まれて間もないその赤ん坊は知っていたのだ。

 そう、彼はすでに性格や自我などという個性が出来上がっていた。

 体の発育上喋ることは出来なかったが、もうすでに頭の中で言語を用いて思考する事ができた。

 

(とりあえず、誰でも良いから拾ってくれないものかな、お腹が空いてしょうがない)

 

 この小さな体に空腹は、結構身体的にも精神的にもくるものがあった。

 影照は空に向かって手を伸ばす

 自らの視界に入るその手は、とても小さくて頼りないものだった。

「あぅ・・・ぁ・・・あぁう」

 やはり、言語はまだ話せないらしい

 なんとも生き辛い体なのだろうか。

 そんな中だった

 

「あら・・・こんなところに・・・捨て児かしら・・・?」

 綺麗に、短く切りそろえられた白い髪

 挑戦的な目元をした、いわゆる美人な女性が赤ん坊の顔を覗き込む。

「だぁ・・・あぁうあう・・・うぅぅ・・・」

「こんなところに置いていかれて可愛そうに・・・、ちょっと待っていてね、夫に電話してみるから」

 そう言うと彼女は電話を取り出し、夫であろう人と会話し始める。

 会話の内容から察するに、どうやら彼女の夫は公務員をやっていて、こういう捨て児やらなんやらの話に詳しい回答をしてくれているらしい。

 

 

 

 それから数カ月後

 一旦、影照の正式な里親が見つかるまで、拾い主であるあの白髪(はくはつ)"の奥さんの家庭で暮らす事になった。

 

 その家庭の名は"雲仙"という結構名の知れた家だった。

 そして、彼女の名前は"雲仙(うんぜん)冥日(めいか)"、影輝の拾い主。

 雲仙家という名門に嫁いだのに子宝に恵まれず、自責の念を感じ始めているとかなんとか。

 そして、彼女の夫は"雲仙(うんぜん)宣託(よしたく)"と言って、現職は立派な国家公務員。

 弱冠30歳といった若さで、結構なお偉いさんのサポーターとして自身の有能振りをいかんなく発揮してるとかなんとか。

 体つきも顔つきもパッとしない彼が、あの美人さんを捕まえた理由を是非とも後学の為に教えていただきたいところです。

 

「あなた!!夕御飯の用意が出来たわよ♪」

「えっ・・・いつもは俺が・・・」

「今日から新しい家族が増えるのよ、私も母親らしいこと始めなくっちゃ」

「いや、影照は一時的に預かるだけで・・・」

「・・・分かってるわよ、それでも嬉しいことでしょ?いちいち水を差すようなことは言わないの!」

「・・・分かったよ」

「じゃあ、召し上がれ」

「うぅぅ、これ食べるの?・・・・」

「ん?」

「いただきます」

 

 はっきり言ってあれは何処の郷土料理なんだろうか、まだ生まれて間もなくて目も最近空いたばかりの俺だが、"見たことない"と言った表現がしっくりくる料理だ。

 あんな"黒っぽい"固形料理は見たことがない。

「今日は、イチゴケーキを作ってみたのよ」

 白くないし、てか黒いし、というかイチゴどこだろう?

 そもそも夕御飯というジャンルを外れているその"イチゴケーキ"の前に一人の男が散った。

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